日本のMTBシーンを未来へつなぐ ローカルライダーたちの地域活動『東吾妻むかし道MTBライド』

マウンテンバイカーが生息する場所のひとつ、それは里山。MTB専用コースとは異なる、地域で暮らす人々やハイカーなど、他者との共存が欠かせない地域の道でサイクリングを楽しむ……当たり前のように思える行為の裏では、その環境を守るために尽力するローカルライダーたちの姿が存在するのです。

左から

中沢 清さん
CSナカザワジム店主。〈西多摩マウンテンバイク友の会〉の初代会長として、MTBを取り巻く環境の改善&明るい未来のために奮闘してきた。
現在はPTAや協働のまちづくり(瑞穂町)で活躍中。
https://nakazawagym.amebaownd.com/

木辻満優美さん
『東吾妻むかし道MTBライド』実行委員。2015年からMTBに乗り始め、MTB関連のボランティア団体に所属することで各地のマウンテンバイカーと交流を深める。2016、2017年に同イベントへ参加することで魅力を実感、2018年に運営スタッフへ。昨年6月に移住を果たすことで、東吾妻町民となる。

大久保芳洋さん
『東吾妻むかし道MTBライド』実行委員。学生時代にはキャンプツーリングで国内外の辺境を旅し、ベロタクシーのドライバーまで勤めた自転車愛好家。
本職の林業分野とMTBのマッチングに可能性を見出し、群馬県への移住とともに東吾妻での活動にのめりこむ。

今回、中沢さんが訪れたフィールドは年に1回『東吾妻むかし道MTBライド』が開催される群馬県の東吾妻町。

午前中、運営スタッフの案内のもとイベントで使用する予定のコースを特別に走らせて頂き、午後は東吾妻町役場へ移動。

MTBスタッフのまとめ役である下田さん、まちづくり推進課の猪野さんと合流して、詳しくお話しを伺うことに。

中沢(敬称略):この『東吾妻むかし道MTBライド』をウェブで見たり、参加した方から話を聞いたりすることで、すごく興味を持っていました。

いわゆるレースとは違う、町が主体となり山道を利用するようなイベントは、日本であまりなくて、よくある「自転車で町おこし」的なものは舗装路を主としたものがほとんど。

『東吾妻むかし道MTBライド』は山の道を繋いで走るということから、参加者のリピート率がとても高いと聞きています。実際にこのイベントはどういった形で始まったのでしょうか?

下田:2012年から年1回の頻度で開催してきましたが、始まりのきっかけは、前年度に町の行政や議員、会社の方などから声をかけられた「MTBを使ったイベントをやってみないか」とのお誘いでした。

それまでも県内の山道を探したり、走ったりした経験はありましたが、東吾妻町の榛名山北面エリアでの経験はなかったので、道探しにはそれなりの苦労もありました。

中沢:第1回目の開催はうまくいきましたか?

下田:60人くらいの参加者にエントリーして頂き、町としても面子が保たれた感じでしょうか。

中沢:猪野さんは最初から?

猪野:まだ別の課に所属していました。まちづくり推進課に配属されたのが今年からなので。ただ、イベント自体には10年くらいスタッフとして関わっています。

中沢:町が積極的に関わっているところがすごいですね。スキー場を借りてレースイベントを開催するとか、有名な選手を招待したりするオリンピックに繋がるような、わかりやすいありがちなイベントでもないのに。

でも、その手のレースだと結局、地元が置き去りになりがちなマニア向けのイベントになってしまうんですよね。『東吾妻むかし道MTBライド』はこれまでの記録を見ていても、地元の方がコツコツと積み上げてきたことが伝わってきます。

ローカルのマウンテンバイカーはいたんですよね?

下田:私を含め、山サイの仲間たちがいましたし、東京の仲間も道探しの手伝いに来てくれました。

前橋にあった自転車屋さんのクラブの面々にも大会当日の運営を手伝ってもらったりして、なんとか立ち上げた感じです。

中沢:MTBのイベントだと普通は1周当たり4~5キロのコースを周回する感じですけど、『東吾妻むかし道MTBライド』は40キロの一筆書きコースじゃないですか、

一般の道も経由して山の中に入って行くような。本当によく開催できましたね。

下田:一筆書きになるようなコースが「むかし道」の特徴ですから。

それは私自身が周回コースがあまり得意でないのと、山道だけでなく里山の風景を楽しむことも含めて、地域全体を通してタイトルにある「むかし道」を楽しんでもらうことがコンセプトだからです。

榛名山北面エリアには、榛名山に繋がる信仰の道や生活の道など、いまは使われなくなった道があります。これらを「むかし道」と称して、MTBで走れるように整備し、現在の道と合わせて毎年コースを変えながら開催しています。

参加する方は体力や経験のある方からそうでない方まで幅広いので、それぞれに満足いただけるようなコースに設定するのは結構大変です。

中沢:事務局である行政サイドはどうですか? 一般道も山道も使うわけですから、運営になんらかの課題もありましたよね?

猪野:個人の土地を通過する場合もあるので、そういった方々と連絡をとったり、あとはコース上に野生鳥獣防止のための電牧線が張ってあるような場所もあるので、当日は開けさせてもらう許可を得たり。

県の土木事務所に道として使えるか確認したり、こちらで調整することはいろいろあります。

中沢:あくまで主催者はさまざまな立場の方たちで構成された実行委員会であって、マウンテンバイカー側はサポート側なんですよね?

下田:そうです。MTB側が主催するイベントは自転車乗りがどこか場所を借りて、土地条件をそろえた上で開催するパターンが多いと思います。

対して『東吾妻むかし道MTBライド』 は町全体で取り組む事業です。トラブルがあれば苦情は町に(事務局)寄せられます。

この両者の違いは明確で、MTB側が主催するイベントはそれ自体が目的ですが、 町も関わるこのイベントは、イベント自体が目的ではなく、町外から町に来てもらったり移住してもらったりすることで、町の高齢化や人口減少対策に繋がることを期待する一つの手段だと思っています。

大会の細かなルール作りなどは、自転車乗りがサポートするしかありませんが、あくまで町主体のイベントなんです。

主催者である実行委員会、協力する自転車乗り、コース使用に理解いただく地権者、この3者のバランスが崩れると運営はうまくいきません。

中沢:町づくりの部分に大きく関わってきますね。

現状ではマウンテンバイカーの都合で走り回れるような場所ではないと思いますがある意味、ローカルトレイルの理想形だと思います。

MTBに乗らない地元の方もこのイベントや使う道を知っていて、応援してくれて、参加者は町の魅力を知ることができるわけですから。

実際、木辻さんのように移住された方もいらっしゃるわけですし(笑)

木辻:「本腰入れてむかし道をやるぞ」と意気込んで移住したわけではなくて。通っているうちに「住むならここだな」と。もちろん、きっかけはむかし道でしたけど。

中沢:ひとつの突破口といえば狙い通りじゃないですか。例えば10人が移住してきたらすごいことですよ、でも変な都会の理屈を持ってこられても困っちゃうけど(笑)。

今日ガイドして頂いて、みなさんがこのフィールドを大切に思っていること、愛着があることが伝わってきました。

(MTBの)コースを紹介したい人は走りの話に終始しますけど、みなさんはそうじゃない。山の道も楽しいけれど、山と山を繋ぐ道が景色もよくて素晴らしい。そういう部分を伝えていかないと、MTBはサーキットを走るためだけの道具になってしまいますから。

大久保さんもお近くにお住まいなんですよね?

大久保:隣町の渋川市に住んでいます。自分は仕事の都合で越してきましたが、ここがあることも移住のきっかけになっていますウイークデーは渋川市と連携するバイオマスの仕事を、週末はここでMTBを。

どちらも山に繋がる、理想的なライフスタイルを叶えられたと思います。

東吾妻町役場前にて。 右から2 番目が東吾妻町まちづくり推進課主任の猪野さん。左から2番目が10 年以上に渡ってMTBスタッフをまとめてきた下田さん。その自転車歴は50年以上で、1:25000地形図を頼りに県内の廃れゆく古道やルートの発 見を進めてきた御方。

中沢:猪野さんはMTBに乗らないんですか?

猪野:乗ったことないですね。

中沢:乗れって言われませんか?

猪野:見てるとおもしろそうですけど(モニョモニョ)。

スタッフはずっと続けていますし、イベントには県外の方にもたくさん参加して頂いていて、みなさんとお話しさせて頂くのはとても楽しいですよ。

走っているところは辛そうですけど(笑)

イベント開催に当たってトレイルの調査や整備をおこなう MTBスタッフのみなさん。地道なボランティア活動の上に大会が成り立っていることを是非、参加者のみなさんには 知っておいて頂きたい。

中沢:山の道はみなさんで草刈りをしたり、手伝いをしている感じなんですよね?

下田:登録制度とかではなく自然と繋がった人たちでLINEグループを作って「○月○日に作業があるからできれば来て」とユルい感じでやっています。

中沢:そのお世話役というか取りまとめ役を下田さんがやられているんですね。

下田:実は年内でその役から降りるつもりなんです。

今年は木辻さんと大久保さんに任す移行期間だと思っています。自分は歳もとったし、とりあえず10回は開催できたので。快く引き受けてもらえたのでバトンを渡します。

中沢:大役を引き継ぐ木辻さん、大久保さんはどんな未来を描いていますか?

木辻:私はこの年1回のイベントのために山の道を整備するのではなく、これだけ走れるフィールドがあるわけですから、

なにかいい形で通年、走れるようにできないかと考えています。

大久保:自分は下田さんが描いてきた歴代大会の、まるでアート作品のような一筆書きコースがすごく好きなんです。

それを生み出せるように山へ足を運んで、しっかりと学びたいと思います。参加者を迎えられるように。

中沢:木辻さんの理想を叶えるためには、マウンテンバイカーの意識を変えていかないといけない部分がありますよね。

サーキット的なコースとトレイルは違うので。地域の方がそこに住んでいて、バイカーはあくまでお邪魔している側。

MTB都合で考えないことを大前提にしていかないと。今日、走らせて頂いて感じたのは、私が以前参加したカナダのトレイルを7日間かけて走るステージレース、それに近い感覚を覚えました。

移動で町を通過して、レース中だけど周囲を見渡して、そのエリア自慢のトレイルを走る。そういう世界観を築けるポテンシャルを感じました。

その地域を大切にしている人からマウンテンバイカーが迎えてもらえる理想的な世界観を。

猪野:ここでもイベント当日は沿道で応援してくれる地元の方もいらっしゃったり「うちで取れたぶどうを食べていきな」と参加者に配って頂いたり。

中沢:それはリピーターになりますよね。ほかになにか課題はあったりしますか?

木辻:MTBコースと同じ感覚で走りにくる人もいるようですが、あくまで里山のトレイルですので。「むかし道」を大切にしていただき、東吾妻を好きになってもらえたらうれしいです。

大久保:自分は日頃から人が集まってくる環境を作りたいと思っています。

商売とは直接関係しませんが、地域に経済効果が生み出せるようになれば、と。今後、近くにバスターミナルが完成する予定もありますし、町に興味を持って頂きたいですね。

下田:新しい層を広げることは大切ですが、時代とともに参加者の考え方や嗜好も変わってきています。

今後、どんな形の取り組みが望ましいか手探りの面もありますが、何でも相手に合わせればよいとは思っていません。

例えはよくないかもしれませんが、ゴルフも大衆化してきたことによりマナーを守れない人が出てきているように、MTBの遊び方にも一定の節度は求められると思っています。

『東吾妻むかし道MTBライド』では大会終了後、案内標識はすべて撤去しますが、コースマップは差し上げています。

後ほど来られる場合には地形図が読め、なおかつ人気(ひとけ)のない山道を走る経験なども求められ、このことが一定の「歯止め」になっているような気がします。

多くの方に来ていただきたいのですが、一定のルールは守ってもらいたい……この両者のバランスが難しいところです。

GPSなどの便利な道具やEバイクのような新しいMTBも出てきていますが、なるべく自分の力で乗り越えていく楽しみがあることも忘れないでいてほしいと思っています。

中沢:私は今日、Eバイクだし、ガイドして頂く感じで、真逆なことをやってますね。ただただ楽しいだけで最高でした(笑)。

まずは猪野さんもEバイク&ガイド付きの至れり尽くせりなツアーから始めてみましょうよ!

猪野:きっかけのひとつとしてはアリかもしれませんね。

中沢:絶対に乗るって言わないし!

『東吾妻むかし道MTBライド』
https://h-agatsuma-mtb.com/

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