アウトドアテイストをまとったスタイルに惹かれてMTB(マウンテンバイク)に興味を持った人、友人に誘われてMTBの購入を検討している人、実際にMTBを購入したものの具体的な楽しみ方がわからないという人。令和のMTBシーンを盛り上げてくれるであろうみなさんはすでに立派なマウンテンバイカー仲間の一員です。数あるスポーツ自転車の中からMTBを選んだ理由はそれぞれ違っていたとしても、その選択はすべて大正解。MTBは必ずみなさんの期待に応えてくれるはずです。そこで今回はマウンテンバイカー1年生のために、MTBをもっと好きになれる基礎知識をこちらでご紹介。知れば知るほど奥深くなるMTBの世界、頭のてっぺんからつま先までドップリと浸かってみてください。
Q1 そもそもMTBとはどんな自転車なのか?
「大自然と触れ合いたい」「ルックスが気に入った」など、MTBを選ぶ理由は人それぞれだと思います。そもそも呼称に『マウンテン』が含まれているくらいですから、なんとなく「山道を走ることに特化した自転車?」的なイメージを持っている方が大半でしょう。しかしそれは正解でもあり、不正解でもあります。なぜならMTBは、あらゆるフィールドで走ることが楽しくなるスポーツ自転車だからです。
1970年代末期に生まれたとされているMTBですが、日本でもその第一次ブームが巻き起こった80年代中期から90年代初頭にかけて、同様のスタイルの自転車を呼称するもうひとつの言葉がありました。それがATB(All Terrain Bike)。その意味は「あらゆる地形に対応する自転車」であり、必ずしも山道に特化したものではありません。「MTBとATBは違うものなのでは?」という疑問を抱く人もいるかと思いますが、車両の形状や装備を見る限りそこに差異は見られませんでした。
MTBという呼称は、MTBの生みの親とされているゲイリー・フィッシャー氏が名付けたもので、世界初のMTBは彼の自転車仲間だったジョー・ブリーズ氏が1977年に制作した車両と言われています。それ以前の彼らは、頑丈さを求めて新聞配達に使用するような実用車を改造し、未舗装の林道を駆け下りるダウンヒル遊びに興じていました。つまりMTBという呼称の起源を辿るのであれば、MTBは「山道を走ることに特化した(ダウンヒル専用)自転車?」ということになります。
では、MTBが誕生した1977年以前、身舗装の山道を走る自転車は存在しなかったのでしょうか? もちろん、そんなことはありません。日本において、少なくとも60年代にはパスハンターと呼ばれるツーリング向け自転車から派生した、未舗装路の走行に対応する自転車が存在していました。古道や廃道を経由しながらサイクリングを楽しむそのスタイル……近年トレイルバイクと呼ばれている、競技用ではない山遊び向けのMTBはむしろ、この現代版のパスハンターに近い存在と言えるでしょう。
呼称としては淘汰されてしまったATB、そして呼称として主導権を握ったMTB。90年代にはファッションアイテムとして街中でもてはやされた時期もあったMTBは現在、一部の競技専用車として開発された車両を除き、どんな道でも快適かつ楽しく走れるスポーツ自転車として、多くのユーザーから愛されています。MTB専用のコースでスポーツ走行に熱中する人、未舗装路を経由した自転車旅に興ずる人たちにとっての心強いパートナーでもあるのです。
山道を気持ちよく走ることができるMTBの装備は、街乗りをはじめとする日常使いにおいても多大なメリットを生み出します。頑丈な車体はラフな使い方でもビクともしません。木の根が張り巡らされた路面や石が敷き詰められたような路面をスムーズに通過できるスペックは、舗装の継ぎ目や歩道との段差が多い市街地でも、快適な走行をサポートしてくれます。
◎自然と一体になれるタフな走行性能
山道にはさまざまな障害物が点在しています。ジープロードと呼ばれるクルマも走行できるような砂利道をはじめ、シングルトラックと呼ばれる木の根や岩などが現れる獣道のような場面まで、山道といってもさまざま。そのあらゆるシーンをスムーズに通過できるタフな装備が与えられたスポーツ自転車、それがMTBなのです。
◎市街地走行も快適にこなす走行性能
山道を走るための装備は、街乗りでもその本領を発揮。シティ車やロードバイクでは不安に感じるような路面の継ぎ目や歩道との段差も、自転車から降りることなく気軽に通過することができます。移動に快適性を求めるのであれば、シティライドをメインで使用する場合でも、MTBは選ぶ価値大。
イラスト:田中 斉