フルサスペンションバイクのポテンシャルを 余すことなく引き出す話題のアイテムたち IMPRESSION’S OF FEATURED ITEM

昨今、フルサスペンションバイクのオーナーたちから注目を浴びているサスペンション稼動時のペダルキックバックを低減させるアイテムたち。
果たしてその効果がどれほどのものなのか? ここではプロライダーの実装インプレッションにより検証をおこないます。

「キックバック」とは何か?
リアサスペンションが稼働するときに上側のチェーンが逆回転方向に引っ張られて、クランクが逆回転してしまうフルサスペンションタイプのMTBに起こる特有の現象。

Impression Rider インプレッション担当 高山一成さん
埼玉県和光市のプロショップASTのメカニカルスタッフでありながら、秩父滝沢サイクルパークのコースディレクター&インストラクターを担当する高山さん。BMXレースでは世界選手権でも活躍、MTBではエリートクラスで4Xに参戦してきたプロライダーで、キッズたちの育成ほかBMX&MTBの普及に日々尽力する。

 

TEST BIKE
YETISB140

高山さんの愛機としてフレームから組み上げられたフルサスペンションMTB。

 

Ochain
Ochain R

[オーチェーン オーチェーンR]
価格:7万6780円(税込)
問:KEIGO RINGYO SHOKAI
https://keigoringyostore.com/

SPEC
カラー:ブラック、シルバー
タイプ:SRAM 3 bolts、SRAM 8 bolts、SHIMANO、E*THIRTEEN、HOPE、RACE FACE、FSA
素材:Al Alloy 7075 T6
サイズ:93mm × 93mm × 13mm
標準互換性: 標準BCD 104mmチェーンリング32T~
重量制限:120kg(ライダーとギアの最大重量)

アクティブスパイダー技術でキックバックを抑制

一般的なフルサスペンションタイプのMTBは、リア側がストロークすることで少なからずリアアクスルとボトムブラケット間の距離が広がり、チェーンラインの上部に張力が発生する。

この力がチェーンリングを後方に引っ張ることでペダルキックバックを起こし、サスペンションの動きが制限される。

オーチェーンは、クランクから独立したチェーンリングが後方に回転できるようにすることで、サスペンションとドライブトレインを切り離すアクティブスパイダー技術を搭載した画期的なデバイスで、装着することでリアサスペンションがストロークした際に起こるキックバックを軽減。

リアサスペンションがチェーンの張りに関係なく動くようになることで、リアサスペンションがしっかり稼働しリアホイールの接地感を高めてくれる。

オーチェーンR はシリーズ最上級グレードにして、特許取得済みのEASYシステムを搭載するモデルで、ライダーはチェーンリングが稼働する角度を0°、4°、6°、9°、12°と工具を使用せずに外側からダイヤルで調整することができる。

多くのDHワールドカップチームやEWSライダーが採用しており下り系ライダーはもちろん、トレイルライド派のマウンテンバイカーからも注目されているアイテムだ。


チェーンリングが後方に回転できるようにすることで、サスペンションからドライブトレインを切り離すオーチェーンの内部機構。

 


チェーンリングが稼働する角度は走行するステージやシチュエーションに合わせて、ダイヤルで0°、4°、6°、9°、12°に変更できる。

 

IMPRESSION

作動する角度を容易に変更できる自由度の高さ

クランクのスパイダーを交換するタイプなので、取り付け作業については比較的、手間がかからないと思います。

ただし、チェーンラインやスピンドルの長さの問題で、使用しているクランクとの相性が合わず、スペーサー等で調整が必要になることがあるため、装着の可否については事前の確認が必要です。

今回、インプレッションに使用した上級グレードのRに関してですが、一度装着してしまえば部品を着脱することなく、キックバックを抑える角度をダイヤルで容易に切り替えられるので、サスペンションが初期の少しだけ動く領域までキックバックを抜きたい、一定のストローク量までに抜きたいなど、走る場所や状況に応じて設定を変えたい人にとってのメリットは大きいと思います。

角度を最小の4度に設定した状態で強く踏み込むとそれなりにキックバックが残っていて、最大の12度ではストロークの2/3くらいまで抜ける印象でした。

機構をロックすることもできるので、あえてキックバックを発生させてジャンプしたり、フロートレイルなどで積極的にアクションを入れていく乗り方もできます。いろいろなバイクパークで選択肢を増やしたいマウンテンバイカー、キックバックを抑えて路面の追従性を上げつつバイクが路面を蹴り出してくれる感覚も維持したいトレイルライド派にオススメです。

また、音やデザインなどで使用しているハブを気に入っている人が、そのまま仕様を変えずに装着できる点もポイントです。


一定量キックバックを発生させるような走り方にも対応する調整範囲の細かさが特長。

 

 

e*thirteen
Sidekick Rear Hub

[イーサーティーン サイドキックリアハブ]
価格:9万8780円(税込)
問:オーバーライズ https://www.overridesmtb.com/

SPEC
OLD:148mm(Boost)、157mm(Superboost)
スポーク穴数:28H、32H
フリーボディ:SRAM XD、SHIMANO HG、SHIMANO Microspline

独自のフリーハブメカニズムでキックバックを抑制

世界のトップチームやレーサーとの複数シーズンに渡るテストを経て設計されたサイドキックハブは、フルサスペンションMTB のパフォーマンスを確実に向上させるアイテムだ。

その画期的なフリーハブメカニズムは、惰性走行時にドライブトレインを後輪から切り離し、ペダルに到達する前にペダルキックバックとチェーンの振動をフィルタリング。サスペンションへのペダルフィードバックの影響を大幅に低減することで、バイクがバンプや衝撃をより効率的に吸収するようになる仕組みだ。

起伏の激しい地形においてスムーズな乗り心地を実現することで、下りステージではニュートラルポジションを維持しやすく、より高い接地感が得られる。

速度とコントロール性能の安定によって、ライダーの疲労が大幅に軽減される。

また、あらゆるライディングシチュエーションにおいてペダルのキックバックが抑制されるため、チェーンとフリーホイールのカタカタ音を感じにくい、優れた静音性を実現。

下りステージでの優位性を高めるだけでなく、トレイルライドを含めた長時間のライディングにも、自信を持って挑むことができる。なお、フリーハブ内のタイミングプッシャーは工具不要で12°、15°、18°に切り替えが可能だ。


フリーハブ内のタイミングプッシャーにより、爪がラチェットから引き込まれる緻密に設計されたサイドキックハブの内部構造。

 


リアホイールの着脱作業こそ必要となるが、ハブ内部のプッシャー位置の切り替えは工具不要で12°、15°、18°へと容易に変更できる。

 

IMPRESSION

高速かつ過酷な条件下に置かれるほどその真価を発揮

機構がリアハブに内蔵されていて、作動角度の設定が最小でも12度以上と大きい点が特徴です。ちなみに下りステージでは最大の18度が好印象でした。

リアユニットのストローク全域に対してスムーズに動いてくれる印象で、深めに入ったときもキックバックがしっかりと抑えられていました。ガレ場や根っこが多いセクションなど、路面が荒れている場所になればなるほど、安定した状態を維持したまま駆け抜けることができます。

抜重のアクションをそれほど意識しなくても、ただ乗っているだけでバイクが振動を吸収してくれるようになります。ダウンヒルやエンデューロの競技といった走行スピードが速いステージでは疲労の軽減にもつながるはずです。

角度は最小の12度でもキックバックはあまり感じない状態で、最大の18度ではほぼストロークの全域で抜けている感覚でした。ダウンヒルバイクやエンデューロバイクなどストローク量の大きな車両では18度が活きてきます。

富士見パノラマや岩岳のカミカゼなど超ハイスピードの、路面からガツガツと振動を受けるようなコースではその恩恵の大きさを実感できるでしょう。

設定の変更には後輪を外す必要があるので、初心者にとって作業のハードルが高い部分は否めませんが反面、一般的なハブよりも容易に分解できるため、メンテナンス頻度の向上にも繋がるはずです。

設定した角度が、チェーンのかかっているギアによって影響を受けないところもハブタイプの特長です。


滑りやすい状況の登りでもトラクションが抜けにくい安定感のあるペダリングをサポート。

 

IMPRESSION’S OFFEATURED ITEM総括

過酷なシチュエーションで本領を発揮するアイテム

多ノッチハブ全盛の現在、今回インプレッションをおこなったペダルを踏み込んだときにラグが発生するアイテムは、ハブを基準に考えれば時代と逆行しているような気がしていました。

自分はエンデューロ競技に参加することもありますが、どちらかというとバイクパークで元気に車体を振り回すような乗り方を好むので、前提として「キックバックってそんなに悪いもの?」と考えていた部分があります。

実際に試乗してみて、これらのシステムはホイールの慣性力、回転する力を活かすことで快適かつ安定した走行感を得られるデバイス、そう認識をしました。

リアユニットのセッティングだけではどうすることもできない突き上げ感、それ自体がキックバックによるものだと捉えると、これらキックバックを抑制するシステムを装着した後は、均一で安定したリアタイヤのグリップが発生して、わかりやすく言えばラグジュアリーな方向の乗り味に変化しました。

リア側には駆動輪であるがため、乗り手がペダルに体重をかけている時点で、チェーンにも力がかかっています。サスペンションが稼働することでチェーンが張られて、それがリアユニットが動く抵抗になるわけです。

このキックバックを抑制するシステムが一般にどう呼称されるかはわかりませんが、ドロッパーポストやサドルのアングルアジャスターのように、全く新しい価値観から生まれたパーツだと感じました。

リアサスペンションの振動吸収性、路面の追従性を高めたいと考えるのなら、リアユニットをアップグレードする前に追加するアイテムなのかもしれません。

オーバースピードで荒れた路面に突っ込んだとき、ジャンプに入ったときに、バイクが安定した姿勢を保ったまま通過できるようになりますから。

考え方的としては受け身の方向になるかもしれませんが従来、タイヤが滑るとライダーは直感的に車体をコントロールしようとしていましたが、それとは違う次元で、よりバイク任せで走らせることができました。

速く走りたいレーサーにとって、また競技者ではなくても下りでアドバンテージが欲しいと熱望している人にはハマるアイテムになるはずです。

傾斜がきつくなるほど、荒れてくるほどうまく走れるようになるでしょう。

ただし、万能であるかどうかというと、それは少し違います。デュアルスラローム、短距離のスプリント系、傾斜の緩いフロートレイルなどでは、キックバックがないことで加速感が鈍った部分は否めません。

わかりやすかったのは、ジャンプが高く飛べなくなったこと。前に飛べるようになるので速さは増しますが、トリックをやりたい、浮遊感を味わいたい人には不向きです。

今回のインプレッションを経て「自分のジャンプはリバウンドではなくキックバックを使っていたんだ」そう考えが変わったというか、知るきっかけにもなりました。

「キックバックはない方がいい」とか「多ノッチハブが最高」とか、いろいろな意見はあると思いますが、改めて考え直す必要がありそうです。

それぞれ乗る人の走り方やスタイルに合わせて、パーツのアップグレードを検討してみてください。

 

DT Swiss
DF Technology

[DTスイス DFテクノロジー]
問:マルイ
https://www.dtswiss.com/

SPEC
OLD:148mm(Boost)、157mm(Superboost)
スポーク穴数:28H、32H
フリーボディ:SRAM XD、SHIMANO HG、SHIMANO Microspline

 

DT Swiss
Upgrade Kit Ratchet DEG90T DF

[アップグレードキット ラチェットDEG90T DF]
価格:2万4530円(税込)

DFアウターラチェットリング 1個
DFインナーラチェットリング90T 1個
2ndインナーラチェットリング90T 1個
スプリング 2個
スペシャルグリス(20gチューブ) 1個

ラチェットDEG ハブに組み込むことで、DFテクノロジーの機能を得ることができるアップグレードキット。アウターラチェットリングの着脱に使用する専用ツールを含むキット(2万8270円)も用意されている。

10°

20°

キックバックの低減量はアウターラチェットリングに対して、インナーラチェットリングをセットする位置によって切り替えが可能だ。

 

ペダルキックバックを防ぐ最もシンプルなシステム

今回、インプレッション用機材の準備は間に合わなかったが、DTスイスからもペダルキックバックを防ぐ独自の技術「DF テクノロジー」を採用したアイテムが登場している。

対応するアイテムは、ふたつの大型ラチェットを組み合わせることで細かな噛み合い角度を実現するDEGシステムを搭載したハブで、これらにアップグレードキットを使用することで(アウターラチェットリングとインナーラチェットリングを交換)、リアサスペンションの圧縮時にチェーンを介してクランクに伝わる不要な張力を防止することができる。

フリーハブ角度はインナーラチェットリングをセットする位置により0° 、10° 、20°に切り替え可能となり、0°ではラチェットDEGハブの噛み合い角度が維持されることでフレームの運動学的なペダルキックバックには影響がなく、噛み合い前の空転角度が10°となるセッティングではペダルキックバックが軽減。

20°ではペダルキックバックが大幅に低減されるため、エンデューロやダウンヒル競技などのバイクセットアップで重要なカギとなる。

DF テクノロジー対応ラチェットDEGハブ

240DEG  12/148mm Sram XD
[240DEG 12/148mm スラム XD]
価格:7万3700円(税込)

SPEC
素材:アルミボディ、アルミアクスル
フリーボディ:Ratchet DEG 90T SRAM XD
OLD:148mm(Boost)
スポーク穴数:32H
重量:270g

 

240DEG  12/148mm Shimano Micro Spline
[240DEG 12/148mm シマノ マイクロスプライン]
価格:7万3700円(税込)

SPEC
素材:アルミボディ、アルミアクスル
フリーボディ:Ratchet DEG 90T
SHIMANO Microspline
OLD:148mm(Boost)
スポーク穴数:32H
重量:280.5g

 

350DEG  12/148mm Shimano Micro Spline
[350DEG 12/148mmシマノ マイクロスプライン]
価格:5万2800円(税込)

SPEC
素材:アルミボディ、アルミアクスル
フリーボディ:Ratchet DEG 72T SHIMANO Microspline
OLD:148mm(Boost)
スポーク穴数:28H、32H
重量:303g

 

『MTB日和』vol.60より抜粋

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