究極にシンプルながら、かくも奥深き乗り物、自転車。楽しみ方から歴史、モノとしての魅力、そして個人的郷愁まで。自転車にまつわるすべてに造詣の深いブライアンが綴る「備忘録エッセイ」です。
散歩自転車と聞けば黙っておれません
20世紀前半よりも前から、英国ではロードスターという自転車が愛用されていました。今見ると、昔の配達用自転車みたいですが、紳士・淑女が颯爽と街中移動に使ったり、ときには田園地帯をサイクリングしたりするための自転車でした。
やや高めにセットされたハンドルでアップライトのポジションが得られ、ドロヨケも、チェーンケースも付いていて、スーツでも優雅に乗ることができたはずです。
後ハブには内装変速が装備され、比較的フラットな英国の地形では十分だったと思われます。国では、スポーティーで競技志向性もあるクラブランもあったそうですが、ロードスターで自転車散歩を楽しむことが、彼らの嗜みであったようです。
経済が欧米に比肩できない当時の日本では、自転車は「働く乗り物」の実用品ですから、英国のそれはまったく理解不能な文化でした。20世紀後半の高度経済成長期の中で、ようやく自転車による競技やサイクリングが日本に伝えられました。
でもそれはイタリア式のレース、フランス式のツーリング、さらにずっと年代が繰り上がって、アメリカ式のMTBでした。英国式サイクリングの愉しみ方はスキップされてしまったのでしょうか。
しかし、映画「青い山脈」では一般用自転車によるサイクリングシーンもありますし、「二十四の瞳」の大石先生は、生徒の家に寄り道もしながら、長い通勤を自転車で楽しんでいたように思います(※)。
本誌は自転車専門誌ですので、取り上げられる自転車は、スポーツバイクが主になります。しかし「スポーツ」と聞くと、ちょっと身構えてしまう方もいるかもしれません。
ではもっと気軽に、今号(自転車日和 vol.51)のメイン特集でもある「自転車散歩」はどうでしょうか。メカトラが発生しても、近所ならそのまま自転車店さんを訪ねたらいい。必要なものがあればコンビニで調達すればいい。陳腐な表現ですが、いつもの道も自転車なら新たな発見があり、それはとても楽しいことです。
最近ではクロスバイクなどのママチャリ化が進み、駅の駐輪場でも見かけることが多くなりました。ロードでお茶する「キャフェレーサー」という気どり方もありますが、顔まで流線型のカッコいい方なら似合いますけど、全然イタリアンでない私などにはとても無理です。
それに「気張ってます感」が出てしまう、あの大きな前傾姿勢。この姿勢が、近隣散歩に向かない原因でもあるようです。前述の駅前駐輪場のクロスバイクは、ハンドルが大きく上がってサドルより高く、ポジションは楽でも、やや美しくない自転車がほとんどです。普段遣いには、気張った前傾姿勢がやっぱり敬遠されるのでしょう。
このコラムでは初めてのこと。以下、直接的な宣伝になります
――そんなことも考えて作った自転車が、アラヤのスワロー・プロムナード! アップライトポジションが得られて、美しくエレガントな佇まいを表現するハンドルまわり。お気に入りのお洋服を汚しにくいドロヨケとチェーンケース、ハブダイナモやメッキ仕上げの砲弾型ライトなどがフル装備。しかし一般用自転車に見えて、仕様は完全なスポーツバイクです。
実際に仲間と走ってみて(技能実習生をはじめとするインドネシア人の方々とのサイクリングに参加しました。「キレイなSepeda(自転車)!!」とのお褒めの言葉もたくさんいただき、とてもうれしい)、十分使えることを実証しました。
ワイドなギヤ比も備えています。背筋を伸ばした姿勢でアップヒルをこなすのもちょっと快感です。身長155cmくらいあれば乗りこなせるミキストフレームもありますよ。前カゴをつけることもできるし、フロントメカをつけたり、ハンドルを交換すれば、スポルティーフなんかにもカスタムできたりします。
ママチャリにもついているドロヨケやキャリアですが、美しさを追求すると、実はとても手間のかかるものです。きれいに見える長さや、タイヤとの隙間も大事。これを理解して綺麗に設計し、フィッティングできる人も減ってきています。
そんなところにもこだわったプロムナードは、散歩向けなどと言いながら、とっても欲張りな自転車。あんまり他所にはありません。というか、作るところもそうそうないでしょうけど。
※筆者注……映画「青い山脈」「二十四の瞳」はそれぞれオリジナルの公開が1949年、1954年。エクスキューズではないですが、リアルタイムで見た同世代ではないことを宣言します。自転車が出てくる映画としてDVDで見たわけです。
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『自転車日和』vol.51(2019年4月発売)より抜粋