
世界的に流行の兆しが見える倒立式サスフォーク。同スペックの正立式の熟成が進む中、各メーカーが送り出してきた倒立式の魅力とは?高橋大喜による正立式との比較試乗も実施してみた。
写真・文:鈴木英之 イラスト:田中 斉

Impression Rider 高橋大喜
フリーライダー、スロープスタイル選手、コーチ、コースプロデューサー、コースビルダーとして20 年以上活動を続けるかたわら、毎年ウイスラーから最先端のMTBシーンを持ち帰っている。今季はFOX38ファクトリーを装着したロッキーマウンテン・スレイヤーとインスティンクト・パワープレイを使用。
http://www.joyridemtbpark.com/
History of the INVERTED FORK
意外? 歴史のある倒立式サスフォーク
オートバイでは、最先端・ハイエンドの印ともなっている倒立フォークですが、MTBではそこまでの市民権は得ていません。それでもその歴史自体は20年ほどあります。

正立式

倒立式
倒立式はダンパー上下のブッシュ間が大きくとれるためアウターとインナーの重なっている部分が多く、前後方向が高剛性になります。ホイール付近の捻れと剛性の両立は開発者が苦心する部分。
最初の市販サスフォーク、ロックショックスRS-1から遅れること約3年。アメリカ製のハルソン・インバージョンが登場します。これはリムブレーキ対応で2.5インチトラベルでした。
そして1999年にはマルゾッキからクラウンとアウターチューブが一体成形のカーボンでできたXC用倒立フォークRACが登場。
マルゾッキは、その後もDH用ののシバーDC、シングルクラウンのシバーSCと立て続けに倒立フォークを発表。当時38㎜径のアウターチューブは、視覚的にもインパクトの大きなものでした。

マルゾッキRACはデザイン・素材ともに当時としては革新的でしたがXC 用としてはフォーク自体の剛性が高すぎたという評価もありました。
マニトウも2001年にカーボンアウターチューブのDHフォーク、ドラドを発売。翌年にはシングルクラウンのドラドSCが登場しますが、ドラドを除き2005年くらいに生産を終了しています。

DHシーンで最も販売された倒立フォークであるドラド。アルミアウターを経て、現行のプロでカーボンアウターが復活。
メジャーなブランドが生産を取りやめた理由については、正立に比べて重量があったことと生産コストの負担が大きかったようです。
また重量物であるアウターチューブがフレーム側に来ることによるバネ下荷重の軽減や、前後方向の剛性向上。重力によってオイルがシール側に寄せられることで潤滑性能が向上するといったメリットがあるにも関わらず、正立式のように左右のアウターを繋ぐブレース(ブリッジ)がないことによる捻れや横剛性の不足。
これらの問題を解決するための重量増がネックとなって正立式を超える存在にはなりきれませんでした。
しかし2010年ごろからは、ブライトレーシングなど小規模生産が可能なブティックブランドが、倒立式の性能を活かした製品を開発・販売を開始。ブランドアイデンティティでもある片持ち式サスフォーク「レフティ」を作り続けるキャノンデールも、2018年にシングルクラウンフォーク「オチョ」を発表しています。

レフティの8世代目ということからスペイン語の8を意味するオチョ。テーパードアクスルなど独自技術も健在でXCOレースで活躍中。
この数年でエンデューロ人気の高まりやE-MTBの普及により、160~180㎜といった少し前のDHフォーク並みのサストラベルがシングルクラウンフォークに求められるようになったことで、倒立式のメリットが再評価され、レーシングパーツとして急速に開発が進められているようです。

FOXポディウム(オレンジ)と38のクラウン周辺を比較。最新のジェネレーティブデザインにより、前後剛性と対捻れ剛性を向上。

[倒立フォークVS 正立フォーク]それぞれの持ち味を知って使いこなそう

「倒立はヘッド辺りのフレーム側がタイヤ方向(奥)に沈み込んでいく感じ、正立はフロントタイヤがフレーム側(手前)に近づく感じです」
170mm トラベルのFOX ポディウムを装着したモンドレイカー・スーパーフォクシーカーボンR(160mmリアトラベル)を、同等のスペックを持つ正立サスフォークFOX38を使用している高橋大喜さんに試乗してもらった。
「今回はそれほどハイスピードで走らせたわけではありませんが、やはり剛性の高さを実感できました。ドロップオフのランディングでも”よれる”ことがなく、最後までフォークがスムーズに入っていきます。
ブレーキングやコーナーの進入でも同様で、沈み始めてから最後まで突き上げ感がなく安定したグリップが得られます」
と、倒立式で懸念されるような捻れは感じられないとのことだった。一方で38と比べておよそ300gほど重い(公称値)とされる重量は「フロントをあげるときにはやはり重さを感じましたが、飛び出しでフロントが下がることはないので、慣れる範囲だと思います。
セッティングを含めて前後バランスの取りかたが重要になってくるでしょう」

今回はエア圧をメーカー推奨値に設定。低速側コンプレッションを38よりも強くかける方向で調整したとのこと「予想していたよりもスムーズに入るので、低速側をかけてダイブしにくくしました。
リバウンドは自分の好みでどちらも全開放です。ポディウムに限らず、今の倒立フォークはエンデューロをメインにしたレーシングパーツとして開発されたと思いますので、ハイスピードで走らせることで倒立式のメリットがより生きてくるのではないでしょうか?
ゲレンデダウンヒルでも剛性の高さからくるフロントグリップの高さを体感できると思います。バイク自体の重量があるE-MTBにもマッチしていると思います。個人的にはビッグドロップをトライしてみたいですね」

FOX 38 FACTORY
FOX 38 ファクトリー
160/170/180mmトラベル
インナーチューブ径38mm、
15mmスルーアクスル

FOX PODIUM
FOX ポディウム
170mmトラベル
アウターチューブ径47mm
インナーチューブ径36mm
20mmスルーアクスル
FOX PODIUM
フォックス ポディウム
新時代のシングルクラウン倒立フォーク
FOXのシングルクラウン倒立フォークは、2025年6月に発表されるや大きな反響を巻き起こした。
38という十分に熟成されたロングトラベルフォークがあるにもかかわらずポディウムが生まれた背景には、ヨーロッパのエンデューロレーサーからの要求と、ハイパワーなE-MTBの登場があったという。
機能面では、Glidecore エアスプリングの採用で、フォークに負荷がかかり動きが鈍くなる走行抵抗による摩擦を軽減。38と比べて31%増加したブッシングオーバーラップが、スムーズなストロークを実現。
またベースバルブが大型化されたGrip X2ダンパーによって、コンプレッションダンピング性能も向上。バネ下荷重の軽減によりリバウンドダンパーへの負荷も低減されている。
捻れ剛性に対してはDH フォークと同様に、スチール製20mmブースト110アクスルを採用。ハンドリングへの余を与える適度なしなりを活かすために160mmの36と同レベルに剛性チューニングされている。

価格:33万円(税込)
問:マムアンドポップス
http://www.ridefox.jp/
SPECIFICATION
トラベル:160/170mm
ダンパー :Grip X2
スプリング:フロートEVOL Glidecore
調整機構:低速・高速コンプレッション/低速・高速リバウンド
アクスル径;20×110mm
対応ブレーキ径:200mm(230mm 対応)
重量 :2,695g

Grip X2はシム数が増えて細やかなオイル流量の調整が可能に。ダイヤル内に見える銀色の丸い突起は内圧調整用リリースボタン

エアバルブはブレーキ側レッグの底に備わっている。

FOXが考える現在のエンデューロ向けレースパーツとしての最適解が投入されたポディウム。
EXT VAIA
エクストリーム・レーシングショックス ヴァイア
可変オフセット機構を備えた超軽量DHモデル
イタリアのエクストリーム・レーシングショックスが2024 年に発表した倒立ダブルクラウンフォーク。フェラーリF1のサスペンションコンサルタントも務めたEXTのテクニカルディレクター、フランコ・フラットンが手がけた最後のモデルでもある。
ヴァイアの特徴は、170mmから10mm刻みで200mmまでトラベル量を調整できることと、44mmと48mmにオフセットが変更できるクラウン。異なるヘッドチューブ長に対応した10mmと30mmのアッパークラウン。エンデューロにも対応できる15mmアクスルのオプションを備えたモジュラーアクスルシステムだ。
またオーバーラップを大きく取ったフローティングブッシングシステムにより、ブレーキングやコーナリング中の正確なハンドリングとねじり剛性を確保。
アクスルをはじめ各所にチタンパーツを採用することで、すべてのオイルを含めた重量3195gを実現している。

価格:41万8000 円(税込)
問:オーバーライズ
☎ 027-288-8177
https://www.overridesmtb.com/
SPECIFICATION
トラベル:170 ~ 200mm
ダンパー:3ウェイ調整式油圧カートリッジ
スプリング:HS3デュアルポジティブエアスプリング
調整機構:低速・高速コンプレッション/リバウンド
アクスル径:20×110mm(15mm 径オプション)
対応ブレーキ径:200 ~ 220mm
重量 3,195g( 200mmトラベル、20mmアクスル、ステアラーチューブ、オイル込み)

FOXでキャリアをスタート。その後モータースポーツの世界で活躍して「レーシングダンパーソリューションの革新者」と言われたフランコ・フラットン。2025 年没。

Mojo Risingと共同開発した独自のカムステムにより2 種類のオフセット(44mmと48mm)が選択でき、ステアリングジオメトリを自由に調整可能。

グレード5チタン(Ti Gr 5)製の六角形ツインフローティングアクスルで、完璧なホイールアライメントと優れたねじり剛性を確保。
PUSH NINE ONE V2
プッシュ ナインワン V2
シングルクラウン倒立の限界に挑戦する意欲作
2024 年に登場したプッシュのサスフォークが、早くも改良されV2となった。
今回はコイルスプリングにサブチャンバーを追加。ストローク量0 ~ 25% がコイル。25-65% がコイル+サブチャンバー。65% ~100%をコイル+サブチャンバー+油圧ボトムアウトが受け持ち、サブチャンバーを切り替えることで、よりスムーズで繊細なダンピング性能を得られる。
また、アクスルラグを交換することで27.5"ホイールにも対応している。

価格:37万5000 円(税込)
問:ユリス
https://www.yuris.biz/
SPECIFICATION
トラベル:140/150/160/170mm
ダンパー:Nine Oneダンパー
スプリング:サイレントコイル/サブチャンバー
調整機構:低速・高速コンプレッション/低速リバウンド
アクスル径:15×110mm
対応ブレーキ径:180 ~ 203mm(アダプターで223mmまで対応)
重量:2,790g

RST REBEL V2
RST リベール V2
3インチ幅タイヤに対応するベーシックモデル
2016 年に登場したRST の倒立フォークは、2 年後に20mmブーストハブに対応する形で改良型V2を発表。
調整機能はコンプレッション、リバウンドともに1系統ながら、E-MTBなど重量級バイクにも対応。コストパフォーマンスの高いモデルだ。

価格:14万5000 円(税込)
問:ユリス
https://www.yuris.biz/
SPECIFICATION
トラベル:80/100/130/140/150mm
ダンパー:OCR+
スプリング:エア
調整機構:コンプレッション/リバウンド/ロックアウト
アクスル径:15×110mm
対応ブレーキ径:180-220mm
重量:2,300g

アウターと一体成形のアッパークラウン。リモートロックアウトの装着が可能。
photo & text by Suzuki Hideyuki illustrated by Tanaka Hitoshi
取材協力:Bike Shop 玄武 https://www.genbubikes.com/
ふじてんリゾート https://www.summer.fujiten.net/activities/mountain_bike/
『MTB日和』vol.60(



