風を感じ、音を聴く。
ほどよいスピードで道端の小さな花に気づく。
それぞれの土地で人々とふれあい、自分と向き合う。
そんな自転車旅の魅力にとりつかれたサイクリストのストーリーをつづります。
2021年8月20日
数週間滞在していた青森県の宇樽部を後にして、青森港へ向かう。
青森ー函館間の青函フェリーに乗船したのが夜中の2時。乗船時間は4時間ほどなので寝たと思ったら函館に到着した。
何度目の北海道だろうか。惹きつけられるのは自然が多く街と街がちょうどいい距離感にある、豊かな土地があり、農業、漁業のどちらも盛んだというところかな。
アイヌの文化や歴史もまだまだ知りたい。そして食べ物が美味しいところも大きな魅力だ。
9月1日 岩内
公園で休憩しているとキツネが寄ってきた。いくら追い払ってもすぐに戻ってくる。北海道には可愛らしい野生動物も多いので優しくしたいと餌をあげてしまう人がいるのかな。
どうであれ、野生で生き抜く力を奪い、人間に近づこうとしてクルマにひかれたり罠を仕掛けられたりして結果的にかわいそうな結末になりかねない。
人間と動物の良い距離を保つことが同じ自然の中でうまく棲み分けできる道であると思う。
9月2日 積しゃこたん丹半島
長おしゃまんべ万部から岩内、積丹へ。この頃はコロナ感染拡大防止対策で町民以外が入浴できる公衆浴場が減っていて、立ち寄った温泉でも
の定断られた。
積丹ブルーと呼ばれる、透き通る深い青色の海沿いを走るのは気持ちがいい。途中、休憩した場所では綺麗な海がすぐそこにあるのに浜辺の代わりにテトラポットがぎっしり並んでいて、粗大ゴミが悲しく捨ててあった。
海はゴミ処理場ではないよ、捨てたものがその後どうなるかまで考えたら捨てることをためらうと思うのだが。
9月4日 余市
余市のビーチでしばらくキャンプ。9月に入っても暑い日々が続いていたので、ほとんど毎日海に入りシャワー代わりにしていた。最初はベタついて嫌だったが案外慣れると汗は流れるし、肌は強くなっていく気がした。
余市はフルーツや野菜が安くて美味しい。夏のおやつはミニトマトやフルーツが最高だ。
9月12日初山別(しょさんべつ)の夜
初山別の夜はキャンプ場に泊まることにした。嵐が来ていたのでなるべく被害の無さそうな場所を選んだが、夜中はまさに滝のような雨が降り、何もかも吹き飛ばすかのように風が吹き、長く使っていたテントは遂に雨漏りをし始めた。
雷がガラスを壊したような音を響かせて、どこか近い場所に落ちたようだった。
今回も友人との2人旅、誰かといる旅も悪くない、こういう時の怖さを紛らわせてくれる。翌日には雨は止んだが、風はまだ強い。
太陽が出てきたので濡れたものをそこらじゅうに干して自然の力で乾かす。嵐の後の太陽の存在は格別で、いつも以上にありがたく感じる。
自転車で旅をしていれば、嵐の日もあるし、風で吹き飛ばされそうな時もある。それは自然の力だし抗えない。怖い目に遭うこともあるが、それは自然なことだと受け入れるしかない。
9月15日 宗谷岬
ついに日本最北の地に到着。日が沈む直前だった。日本最北端の碑の向こう側には夕陽に染まる紫やピンク色の静かな海が広がっていた。
この先にロシアがある。目に見えない国境があり簡単には渡ることができない国。稚内にはロシア語表記の看板があり、文字が変わっただけで異国を感じられた。
国境なんて関係なく渡り鳥のように自由に国を行き来できたらいいのに。
9月18日 利尻島へ
フェリーで輪行する際に気をつけくてはいけないのが手荷物の料金。荷物多くて1回で運びきれないので2ら、運びきない分は追加料金が必要とのこと。そこで無理やり1回で運んだ。
帰りはバックパックにびつけて1回で運べるように工夫したが、やはり輪行は一苦労。私サイクリストにしては物を持ちすぎている気がる……。
持ちた物すべてを持って旅行できたらなぁ、とも思うし、ミニマリストように最小限のものだけを持つことができたらな、とも思う。
利尻島では利尻富士の登山口にあるキャンプ場に泊まることにした。傾斜はだが長い道のりではなかったので、朝7時くらいに登り始め、10時くらいには頂上に着いた。
紅葉が始まりかけていて天気も良く、空気は秋の匂いがしてすんと冷えていた。頂上はそんなに広くはないが、360度山の麓が見渡せて隣の礼文島も見ることができる。登る筋肉や体力は自転車旅で鍛えられているのだが、下りはキツイ。
普段まったく使わない方の筋肉を使って下りるので、膝はすぐにガタガタ。次の日には筋肉痛で動きがヨボヨボになり、満足に歩くこともできないという、情けないことになった。
北海道の旅は夏の終わりにスタートしたので、あっという間に秋の気配を感じる気温になった。
2021年の夏は北海道も異常なくらい暑く、その分秋の寒さが身に染みる。この後は北海道を南下していく。雪が降る前に知床まで行きたい。
かみとゆき
1988 年、宮城県仙台市生まれ。
小さい頃から家族でバックパッカー、アジアを中心に歩いてきた。19 歳で自転車旅に目覚め、その後カナダ横断、ヨーロッパ旅行など自転車旅の面白さを体感していく。愛用自転車はKHS のTR-101。
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文・イラスト:かみとゆき
『自転車日和』vol.62(2022年10月発売)より抜粋