過去を振り返ることで見えてくる現代の、そして未来のMTB像が見えてくる。今回は小柄な女性に適したモデルをテーマに取り上げつつ、MTB本来の楽しさについてノリさんからお話をうかがいました。
今泉紀夫
ワークショップモンキー店主。MTB 誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。
http://www.monkey-magic.com/
最近は女性専用設計の自転車を作るメーカーが以前よりも減りました。ユニセックス的な表現になり、段々と垣根がなくなってきた感じでしょうか。でも突き詰めていくと「サドルは共通のものを使えるのか」といった課題も出てきます。僕が学生だった頃、女性のサイクリストは普通に、女性用として作られたミキストフレームのスポーツ車に乗っていました。細かいパーツまで工夫して、それぞれ専用のものが作られるようになってきた時代です。いまは変な意味で「男女平等が当たり前」ですが、そこはきちんと考え直すべきですよね。
陸上競技用のシューズを例にあげても、足の大きな男性と小さな女性が同じサイズのシューズでいい理由がない。フレームサイズも同様、ホイール径の選択肢も違って当然。メーカー側がそれを積極的にアピールしていくべきだと思うんです。「女性用に作られた自転車には乗りたくない」とか「男性用の自転車に負けた気がする」という人もいるそうですが、勝ちたいとかそういうことなのかな? 競技で勝ち負けの話をするならそうなのかもしれませんけど、それなら競技自体を男女一緒にやるべきでしょう?
いわゆるレジャーで、趣味として楽しむのであれば、自分が使いやすい道具で遊んだほうが絶対に楽しいはず。「同じ車輪径じゃないとついていけない?」という不安があるのかも知れませんが、一緒にサイクリングに出かけるなら、先を走る人が速度を合わせればいいだけのことですから。
フルサスMTBには29インチしか選べないモデルもありますが、それ自体がおかしい。身長150センチ台の小柄な人なら「子ども扱いされるのは嫌だ」とか言わず、ジュニア車の27・5や26インチを積極的に選んでみていいと思うんです。背が低ければ筋力も少ないのが自然だし、物理的に体の作りが違うわけですから。それは差別ではなく、よりスペシャルなものを作ってもらったということです。
本来、人としての平等を考えるのなら、扱いやすいものを選べる状況であるべきです。特にMTBは自由な自転車であるはずなのに、技術的に進化するにつれて逆にいろいろなことが制限されてしまってきているように思えます。ジュニア車以外にも26インチを残すべきだし、マスプロメーカーはそれをやるべきです。逆に選ぶ側の発想として、身長のある人と同じバイクに乗らないと「物を所有した満足感が得られない」と感じるのであれば、MTBを選ぶ必要はないでしょう。男女共通で楽しめるカテゴリーの自転車はほかにもありますから。
うちのカミさんはそもそも29インチなんかまたげないし、そういう小柄な人でも楽しく乗れるようにお手伝いするのが僕らの仕事です。小さなフレームに無理やり
29インチの車輪をつけたフルサスバイクを選んでも、ジャイロが強くなりすぎて倒し込みづらくなったり、操る楽しさが削られていってしまいます。
いまはパーク主体の遊びが流行しているので「最新スペックじゃないどダメ」となりがちですが、家族で、自然の中で遊ぶのならシンプルなものの方がラクだし楽しいはず。見栄とか承認欲ではなく、MTB本来の楽しさを求めるのであれば、26&27・5インチのハードテイルに目を向ける手もあると思いますよ。
MONKEY AMYSAN
モンキー エイミーサン
身長150センチの女将さんのためにノリさんが組み上げたハンドメイド仕様のモンキー。小柄な女性でも無理なく乗りこなせるように設計された26インチモデル。
『MTB日和』vol.55より抜粋