「キャリアはそこそこあるんだけどなかなか上手くならない……」そんなマウンテンバイカーに贈るテクニック向上のための本企画。スマート&気持ちよく走れるようになる練習方法を紹介します。
講師 高山一成さん
埼玉県和光市のプロショップASTのメカニカルスタッフでありながら、秩父滝沢サイクルパークのコースディレクター&インストラクターも担当する高山さん。BMXレースでは世界選手権でも活躍、MTBではエリートクラスで4Xに参戦してきたプロライダーでキッズたちの育成ほか、日本のBMX&MTBの普及に尽力する頼もしい先生。
今回の生徒 編集部ヨコキ
ご存知(?)本誌編集長。2009年の創刊時にはMTBを所有すらしていなかったヨコキでしたが翌年、愛車を手に入れてからは地味に練習を続け、26インチ時代にはマニュアルまでマスター……しかけていたものの、27.5インチ化の到来とともにさまざまなことができなくなり現在に至ります。あの輝きを取り戻す日は到来するのか!?
LECTURE
実はプッシュは必要ない!?既存のイメージを捨てる
パンプトラックが苦手というヨコキ。まず、その理由について考えてみましょう。
ヨコキの知識では「パンプトラックはプッシュ&プルの動きで加速していく」「ブランコをこぐのと同じ動きをする」でしたが、高山先生いわく「根本から覆すようなことを言っちゃいますけど、プッシュするイメージは必要ないんです。
あくまで登り坂で抜重するために押しているだけで、実は下り坂ではなにもしません。当たり前のことですが、自転車は下り坂ではなにもせずともスピードが増していきます。逆に登り坂でなにもしなければ減速します。つまり、登り坂でいかに失速せず、効率よく登れるか?
それがパンプトラックで縦の動きを攻略するポイントなんです。登りと下りが交互に連続するだけなので、登りで失速さえしなければ、ずっと下っているのと同じことになります。
加速しようと意識しなくても自然と速度は増していくはずです」さらに「下り坂で加速するためにプッシュすると勘違いしている人も多いようですが、登りで失速しないイメージだけつかめれば、無駄にがんばって疲れることなく、楽にパンプトラックを走ることができます」とのこと。
今回は、そのイメージを身につけるための練習方法をレクチャーしていただきます。
走り出す前にバイクのセッティングを
パンプトラックを走るときはサドルは低めにセットして、立ちこぎで懐にスペースが作りやすいようにしておきます。アスファルトはタイヤの転がりがよくグリップ力も強いので、空気圧が低いとタイヤがよれて危ないことも。
タイヤの空気圧は規定範囲の上限値に合わせるくらいでOK。ダートのパンプトラックを走る場合、コーナーで滑りそうな路面状況であれば、通常のトレイルセッティングよりもちょっと高めくらいに空気圧を合わせましょう。
サスペンションフォークがついているMTBの場合、サスが動きすぎるとパンプトラックを走りづらいので、コンプレッション調整機能がついているものであれば、ロックアウトするギリギリくらいまでレバーを回しておくといいでしょう(エア圧は適正値のまま)
練習方法 NO.01
スタンディングの基本姿勢をおさらい
よくMTB関連の初心者向け講習で最初に習うニュートラルポジション。高山先生のメソッドでは必要ありません。
「ペダルの上に両足を乗せた状態で両手と両足をピーンと伸ばすだけ」これがパンプトラックの縦の動きでもベースの姿勢になります。プッシュを意識する必要はありませんが、登りで抜重するためのプッシュは必要。そのプッシュの姿勢がこの「手足ピーン」で身につきます。
「体をちょっとかがめた状態が基本姿勢だと考えている人が多いのですが、まずは手足が伸びた姿勢を意識するようにして下さい」
練習方法 NO.02
平らな場所で体を縮める動き(プル)を反復
練習方法は簡単。目の前に架空の棒を思い浮かべて、それをかがんで避けるイメージでくぐるように通過します。
「ただかがむだけだと変な形になりがちなので、しっかりと前を見ることが大切。実際にそこに棒があったとしたら、その棒を見るはずですよね?かがんだ状態から立ち上がるときは、足(ハムストリング)とお尻の力を効率よく使って立ち上がります。
腕立て伏せのように腕の力だけで体を起こしてしまうと、ペダルをプッシュすることにはなりませんから。
先生のお手本
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手足ピーンの状態で進入し、架空の棒をくぐるように体をかがめる。立ち上がるときは腕の力に頼らず、足とお尻の力を使ってペダルの上に立ち上がる。この動作が身につくまで繰り返し練習する。
NG
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なにも意識せずに膝を折りたたんでしゃがむような動きはNG。誤ったイメージで繰り返しても基本動作は身につかない。
ヨコキの場合
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写真ではわかりにくいが、かがむときは腰の高さがあまり変わらず立ち上がるときも腕の力で上体を起こしてしまっている。
練習方法 NO.03
平地で練習した動きをパンプトラックで実践
いよいよ実践練習です。立ち上がる(プッシュする)のはコブの底辺にいるときで、コブの上では瞬時に体をかがめた姿勢(プルの姿勢)を作ります。
「頭の位置がコブに対して上がったり下がったりしないよう、なるべく一定の高さを保てるように意識して練習しましょう。頭の高さが変わらず自転車だけが上下に動いているような状態が理想です。
速度を求めようとすると人はがんばりたくなって、足の力も強くなるし、動作も大きくなりがちです。動作が大きくなるほどリズムは合いにくくなるため、この時点ではなるべく小さな動きで効率よくバイクを動かすのが基本」となります。
POINT
コブの向こう側をのぞき込むようの立ち上がるべし。
先生のお手本
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写真の通り、頭が一定の高さを保った状態でスムーズに加速していきます。「プッシュする位置は底辺の最後の地点、コブの窪みを時計の下半分に見立てたときの5時くらいの位置をイメージしてみましょう」
ヨコキの挑戦
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ご覧の通り、頭の高さはコブを登るほど高くなって行く上、完全にプルの姿勢を忘れてしまっている。一番上がった時点でまだ踏ん張り続けている状態。これでは次の動作に備えられない。
「押すイメージが強すぎると押しすぎてしまって戻せません。ゆえに次に備えられなくなりつながりが悪くなります」と先生から指摘を受けるヨコキ。「階段を1段だけジャンプして登り、次の段に備えるイメージを身につけましょう」と先生からアドバイスを頂戴する。
LECTURE
コーナーを攻略する極意は進入する速度と目線にアリ
パンプトラックをスムーズに走るためには、縦の動きとあわせて横の動きも身につける必要があります。横の動きで流れをさまたげずに次の縦の動きに繋げるふたつのポイントは「最も大切になってくるのが目線です。
コーナーの入口ではバンクの一番深いところに目線を置きます。一番深いところまできたら今度は出口に目線を移します。このように前半と後半に2分割して意識すると上手くいくはずです。
足のスタンスについてはパンプトラックの場合、路面に障害物がないので気にしなくてOKです」「もうひとつはコーナーへの進入速度です。速度が上がるほどバンクの高いラインが使えるようになります。
両足で踏ん張りながら進入すれば自然と車体が倒れてくれるので、現段階では倒し込む動作を意識する必要はありません」と高山先生。横の動きが苦手な人はこのふたつのポイントを意識してトライしましょう。
POINT
コーナーの一番深い場所では出口に向かって斜め上を見上げるようなイメージに。
先生のお手本
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コーナーでの進入速度を落とさないためには、その前の縦の動きが重要。あとは両足を踏ん張って目線に意識を集中する。入口ではバンクの一番深いところに目線を置き、一番深いところまできたら出口に目線を移す。
ヨコキの挑戦
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進入速度が足りず、平らな部分まで一気に落ちてしまっている。未舗装のパンプトラックでは転倒のリスクもある。
テクニックの習得は1日にして成らず。混乱しないようにひとつひとつ意識するポイントを分けて、身につくまで丁寧に時間を掛けて練習しましょう!
『MTB日和』vol.56より抜粋