MTB本来の楽しさを見つめ直す最適の選択肢 ハードテイルじゃダメなのか?

世界的に見ても趣味層におけるMTB 人気はフルサスに一極集中。各メーカーがしのぎを削る開発競争によりそのテクノロジーは著しい進化を続けています。対してハードテイルの存在は……?

その存在価値についていま一度、考えてみませんか?

解説して頂いたのは……
CSナカザワジム
店主 中沢 清さん

MTBを身近に感じられる環境作りに日々尽力するCSナカザワジムの店主。これまでチェックしてきたMTBの台数はおそらく日本一。近年はその経験値の高さと熟練のテクニックを駆使して、多くのキッズバイカーたちをサポート。地元、西多摩キッズたちからは〈ゴリキヨ〉の愛称で親しまれている。
https://nakazawagym.amebaownd.com/

乗り手のスキルに応じてダイレクトに反応する車体

今回、ハードテイルの存在意義についてお話をうかがった中沢さんによると「いま現在、どこのブランドもフルサスの開発に注力しているのは事実です。スムーズな加速感で頭が揺れない。体が揺れない。だれもが安全と安心を維持しながら、快適に乗ることができる。

それこそがフルサスのメリットです。だからと言って〈フルサスに乗らなければならない〉ということにはなりません。

ハードテイルは乗り手の入力に対してダイレクトに反応する特性があります。フルサスのように入力がサスペンションに食われてしまうこともなければ、縮んだサスペンションが伸びることで前に進むような性質は備わっていません。

自分がきっかけを作ることでバイクが動く感覚を捉えやすく、フレーム素材が持つ弾性やタイヤのクッション性を効率よく使うことで、初めて乗り手のイメージ通りに動いてくれるMTBです。

登り&距離を稼ぐような走りでペダリングを楽しむ

ハードテイルでボディアクションを覚えて、地形の変化を活かした走りを身につければ、フルサスを単なる衝撃を吸収してくれるだけの、安心&安全のためだけのバイクにとどめるこ

となく、加速につなげたり、より遠くへ跳ぶためのテクニックを身につけることができるのです。つまり、ハードテイルに乗ることはフルサスバイクでサスペンションの性能を活かした、ダイナミックな走り方を学ぶための手段にもなり得るのです。

もちろん、ハードテイルがフルサスへステップアップするための踏み台的な意味ではありません。ハードテイルにこだわる理由はいくらでもあるのですから」とのこと。

ラインを見極めエキサイティングに下りを楽しむ

また「フルサスよりもハードテイルの方が軽い、セッティングに細かさやわずらわしさがなくて手軽、とも言われますが、ハードテイルはリアサスがない分、ボディアクションに頼る必要があるため、実はタイヤのセレクトや空気圧、

ハンドルやブレーキレバーの角度など、セッティングを突き詰める重要性が高くなります。いかに体がリラックスした状態で、衝撃を吸収できる状態を作れるかがポイント。乗りやすくなるのも乗りづらくなるのもセッティング次第、それがハードテイルのおもしろさでもあります」と教えていただきました。

ダイナミックにトライアル的なアクションを楽しむ

 

価格別ハードテイルの完成車一例(KONA の場合)


KONA LANA’I
コナ ラナイ
ダート走行入門のエントリーグレード
価格:8万6900円(税込)

良心的な価格でありながら、ダート走行を安心して体験できる信頼性の高いコンポーネントを搭載する。

 


KONA BIG HONZO
コナ ビッグホンゾ
1台でトレイルのすべてを楽しみ尽くす
価格:17万4900円(税込)

MTBの最新規格で構成された車体に油圧ブレーキ、11速ドライブトレインを搭載した汎用性の高い仕様。

 


KONA HONZO ESD
コナ ホンゾESD
価格:34万6500円(税込)

下りを限界まで攻めたいライダーに最適な、150mmトラベルフォークを装備したスチールフレームモデル。

 

マウンテンバイカーとしてハードテイルを選ぶのなら

「ハードテイルの価格帯は、初心者向けのレクリエーション系からマニア向けの尖ったモデルまで、かなりの差があります。『MTBを本格的に乗り込んでいきたい』と考えている人は、10万円台半ばから20万円台半ばくらいのモデルを選択するといいでしょう。

その価格帯にはフロントフォークが120~140ミリトラベルのオールラウンダーが多いため、乗りながらいろいろな遊びを体験し、自分のスタイルが定まってきた時点で、カスタムマイズを施すことによって、方向性を変えていけるからです。

クロスカントリー系の耐久レース向けにカスタムしたり、距離を稼ぐような仕様にしたり、下りに強いダウンヒル系のカスタムを取り入れたり、トライアル的なアクションを入れやすい仕様で仕上げてみたり。そのバイクで限界を感じたら、

クロカンレーサーやジャンプバイクなど、方向性の定まった次のバイクにステップアップするもよし。もちろん、そのまま乗り続けても問題はありません」と中沢さん。

「逆に10万円を下回るようなモデルは、フォークがQRタイプだったり、リアエンド幅が135ミリだったり、旧い規格を採用していることが多く、カスタムの自由度に限界があります。MTBの入り口という位置づけで、まずはダートライドを体験してみたいという人向けです。

また、30万円を超えるような高額車やフレーム売りのモデルは、遊び方の特化したものだったり、フレーム素材やパーツにこだわったものが多い傾向にあります」

中沢さんがいま最も注目する推しハードテイ

GT ZASKER LT
ジーティー ザスカ LT
価格:18万1500円~ 28万6000円
問:ライトウェイプロダクツジャパン
☎︎ 03-5950-6002
https://www.riteway-jp.com/


トレイルライドをもっとアグレッシブに楽しめるよう、さらなる最適化を求めたフレームジオメトリー。

 


路面追従性が高く、ハードテイルでありながらも快適性を高めたフローティングトリプルトライアングル。

 


UDH(ユニバーサルディレイラーハンガー)に対応したリアエンドまわり。カスタムの幅がさらに広がった。

 

「GTが考えるハードテイルの理想を形にした、MTB で可能な限りの遊び方をひと通りの体験できるバイクです。

乗り手のレベルが上がるほど期待に応えてくれる車体設計とスペックを持ち合わせています。走りのジャンルが特化したモデルではなく、自分の足で登って、ラインを考えながら下ったり、障害物のあるような場面ではダイナミックにアクションを入れたり、山遊びを1台でこなせる、まさに〈キング・オブ・ハードテイル〉。

幅広い価格帯がラインアップされています。前作のザスカーLT も本気で乗りたい人にオススメできるモデルで、うちのショップではこのモデルがきっかけとなってMTBにハマった人が多くいるほど。

今回のモデルチェンジを受けて、フレームの形状も各部が変更され、よりシャープな反応と加速感を得ています。より車体がシャキッとした印象で、コントロールしていく楽しさが増しています。個人的にはこの味付けで27.5 インチタイヤの仕様があったら、さらにおもしろくなりそうな気がします」

※写真の車両はZASKAR LT PRO

 

日本人が手がけた日本人のための29インチフレーム「33rpmという唯一無二の傑作」

フルサスとは一線を画す、ハードテイルの頂点とも言える存在〈33rpm〉。

ベテランマウンテンバイカーの記憶にも刻み込まれているそのネーミングは、何代にも渡る血統を受け継ぎながら、令和の時代に入ったいまも着実に、そして確実に、時代に沿った進化の過程を歩み続けているのです。

UnAuthorized 33rpm
アンオーソライズド 33rpm

価格(フレーム):16 万9400 円(税込)
問:ダイアテック https://www.cog.inc/

SPEC
カラー:グロスブラック、フォレスト、ストーンブルー
サイズ(水平トップ):615mm/630mm/660mm/675mm
フレーム:クロモリ
ヘッドアングル:63度(前後29インチ、フォークトラベル160mm の場合)
リアセンター:418mm(全サイズ)
シートチューブ:410mm(全サイズ)
推奨フォークトラベル:160mm(±10mm)
シートポスト径:30.9mm
BB:PF30(シェル内径46mm)
重量:2,600g(630mm)※前作より-400g
付属:シートクランプ・リアアクスル

シーンの一時代を築いたハードテイルの血統は続く

増田直樹さん
ダイアテックの営業担当から車両開発のテストライダーまで務めるマルチタレントの元祖〈ハードテール神〉。ダウンヒルレースにもハードテイルで参戦、4X競技では国内シリーズチャンピオンを獲得した経験も持つ、誰もが認める日本随一のハードテイルの使い手。

 

コスト度外視で設計されたハードテイルへの真摯なこだわり

33rpmの歴史を辿ると、2000年代初頭までさかのぼることになります。トレイルを楽しむために生み出されたクロモリフレームは当時、日本のMTBシーンを大きく揺るがしました。

下り系のバイクを筆頭として、機材のフルサス化が加速していく中、異色の存在とも思われた33rpmは多くのマウンテンバイカーから受け入れられ、他メーカーまで巻き込んでの一大ハードテイルブームを巻き起こしました。

世代が変わるごとにアルミフレーム、完成車、ジャンプバイク的な要素を高めたモデルなど、時代に合わせて、むしろ先取りするような形で、その仕様を変えていきました。

現在、40代から50代くらいのマウンテンバイカーの中には、思い出深いMTBとして今でも手放すことなく所有している人もいるかもしれません。一時期、その血統が途切れたかのように思われた33rpmは2015年、27・5インチモデルとしてBアントブランドにて復活を果たしました。

さらに時を経て令和に入り、初の29インチモデルとなる5世代目をリリース。マニアのみならず、多くのマウンテンバイかーたちから注目される存在となりました。

昨年発売された現行モデルとなる6世代目は、5世代目からさらなる軽量化が果たされ、下り性能を重視していた前作と比べて、登りの軽快さを意識したモデルへとアップデート。トレイルバイクとして改良されたかのように思われました。

しかし、開発陣の思いは少し異なります。「6世代目は5世代目の改良版のように捉えられがちですが、そこは少し違います。見た目こそ大きく変わりませんが、下りを強く意識していた5世代目に対して〈もっとトレイルを楽しく走れるバイクを作りたい〉という思いで別の角度から開発したものです。

自分がレースで使用しているので下り専用のハードテイルと思われがちですが、自分はあくまでテストを兼ねてレースに投入しているだけで、33rpmはレース機材としてのバイクではありません。

特に現行モデルは下りのみならず、登りシチュエーションでも楽しく、軽快に遊べる、5世代目とは別のモデルに仕上げています」とダイアテックのテストライダーも兼ねている増田さん。

開発担当の加納さんから、33rpmとハードテイルに関するこだわりについて伺ったインタビューをご紹介します。

 

コスト度外視で設計されたハードテイルへの真摯なこだわり


加納慎一郎さん
33rpmをはじめ、ダイアテックがラインアップする車両およびフレームの開発担当。2000年にはレッドブルランページの前身でもあるレッドブルライドに日本人初めての招待選手として参加。選手生活にひと区切りつけたあとは台湾で溶接技術を学び、自らフレーム開発を実践。走れる、わかる、作れる職人として日々ダイアテックの製品開発に携わる。

 

 

趣味が高じて生み出された理想を叶えるハードテイル

ひと言でハードテイルといってもその仕様はメーカーによって多種多様。フルサスと違ってシンプルな構造のハードテイルであるがゆえ、わずかな寸法の差や素材のセレクト、製造工程によって、その乗り味は大きく変わってくる上、緻密な管理を怠れば当然のように製品誤差も生まれてくる。

素人考えではフルサスよりも簡単に作れてしまいそうなハードテイルだが、優れた製品を生み出すためには、フルサズ以上にこだわりを持って接する必要があります。

33rpmの開発を手がける加納さんによると「世界的に見てもMTBの29インチ化という流れは止められません。当然、日本に輸入されるMTBは海外の開発陣が設計したものであって、必ずしも日本人に適したモデルとは言えないはずです。

自分たちがこだわった点はそこです。29インチだけど、小柄で体重も軽めの日本人が乗っても楽しいモデル、29インチの走破性を活かしながら気持ちよく曲がれるモデルを目指しました。実際に乗っていただいた方には〈29インチじゃないようによく曲がる〉と評価してもらっています」

そんな加納さんがハードテイルにこだわる理由は

「フルサスでレースをしていた時代もありますが、個人的にはリンクが嫌いで(笑) 。仮に90年代初頭の古いフルサスをいまそのまま乗ろうとしても……やっぱりシンプルなものを使い続けたいという気持ちが強いですね。確かにフルサスは速いですが、速いことと楽しいことは別の話。速さではフルサスに劣るかもしれないけれど、ハードテイルは楽しさで劣る乗りものではないと確信しています」とのこと。

コスト度外視で生み出された企業泣かせのハードテイル〈33rpm〉。楽しさを求めてパートナーに選びたくなる1台です。


フレームの乗り味を大きく変えてしまうヨークもこだわった最重要パーツ。社内のMTB 好きが集まり、乗り倒すことで最高のヨークを見つけ出した。

 


全体をメッキで覆った上からパウダーコーティングで塗装したフレーム。左右の剛性アンバランスを解消すべくシートブリッジは斜めに溶接されている。

 


BBシェルに対して中心から少し下側に溶接することで、理想のBBハイトとチェーンステイの角度を実現。PF30 の採用によりフレームへの負担軽減している。

 


BBシェルの下部には、水が最もたまる場所として、大きな水抜き穴が配置されている。各部ディテールにも一切の妥協を見せないこだわりを発見できる。

 

「もう( 増田さんを)ハードテイル神とは呼ばせない」

ハードテイル最速の称号を手に入れた33rpmを駆る高校生ライダーの実力
取材協力:カトーサイクル https://www.katocycle.com/

土屋聖眞さん(カトーサイクル)
ユース時代からその驚異的な瞬発力により、エリート勢を凌ぐタイムを叩き出してきた高校生ダウンヒラー。今年のダウンヒルシリーズ第3 戦では、ハードテイル(UA 33rpm)でフルサスに乗るライバル勢に勝利。シーンに衝撃を与えた。


総合2位となったSHIMANO ENS 2024#1 富士見高原での走り。

世代交代が囁かれる昨今のダウンヒル競技界において、シーンを担うトップライダー筆頭として注目されている土屋選手。

衝撃的だったのは今年の5 月、スラムパーク瀬戸で開催されたダウンヒルシリーズ第3戦。ライバル勢が本来、加速性能で勝るはずのフルサスで参戦する中、ハードテイルの33rpm を駆り、予選&決勝を通じて圧倒的な速さを見せつけ、完全優勝を果たしたのです。

愛知ローカルの土屋選手にとって地の利があったとはいえ、このニュースは多くのハードテイルファンに希望を与えてくれました。

「走るコースによって機材は替えていますが、スラムパークのようなバームがたくさんあってプッシュの入るコース、瞬発的なこぎが必要となる場面では、フレームのしなりを活かせる33rpm のメリットは大きいと思います」とのこと。

すでに〈ハードテイル神〉の称号を増田さんから奪い取ったと自負する土屋選手は今年、海外にも積極的に遠征。世界で戦う自信を身につけました。近い将来、WCで活躍する土屋選手の姿に期待大です!

 

シーオッターのハードテイルレースで実践投入済み

期待の45rpmは来春デビュー予定!?

「それってグラベルバイクじゃないの?」と疑問の声が聞こえてきそうなこちらのプロトタイプ。あくまで加納さんの趣味でグラベルバイクさながらの仕様とされていますが、フォークトラベル量120ミリ程度を想定とした軽量なMTBフレーム。発売が待ち遠しいフレームです。

『MTB日和』vol.57より抜粋

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