東京オリンピックまで2カ月あまり(取材時)となっても新型コロナウイルスの脅威は収まる気配がない。そんな中、粛々と“最後の舞台”への準備を進めるマウンテンバイク代表候補の今井美穂に心境を語ってもらった。
「知らない」ことも力に変える意志
ヨーロッパに旅立った山本幸平と対照的に、もうひとりの代表内定選手である今井美穂は、4月から岐阜県にある御嶽濁河高地トレーニングセンターでひとり、強化合宿に入っていた。
標高1700mの地で、持久力向上や疲労遅延に効果があると言われる高地トレーニングを行なった後、クップ・ドュ・ジャポンやわたはま国際をオリンピックに見立てて出場。最終調整の予定だったというが、大会延期を受けて「この後、下に降りてレースを走り、もう一度こちらで調整という計画でしたけど、練り直しです」
歴代のオリンピック代表と比べ、今井のキャリアは異質だ。
高校から始めた陸上七種競技では、大学4年時にインカレ*出場を果たした後、教職に就き、通勤用に購入したバイクでシクロクロスに出場したところ、その面白さにのめり込み、わずか2年で全日本選手権で優勝。
そこから夏のトレーニングにと始めたマウンテンバイクでもまたたく間にトップランカーと、目標に向かって最短距離で突き進んできたように見える。
「陸上競技で得た経験や運動能力が下地を作っているとは思いますが、自転車競技はゼロからのスタートだったので、周りの助けがあったから今があると思います。オリンピックにMTB種目があり、出られるかもしれないと思ったとき『自分以外が出るのはイヤだ。悔しい』と、どうしたらいいかを考えて実行してきました」
2019年まで国際MTBレースの経験がなかった今井は、選考期間に短期の海外遠征を繰り返した。
「仕事的に長期遠征は難しいので、1レース行ってはすぐ帰国を繰り返してUCIポイントを取ってきました。プレ五輪レースも、直後にギリシャで走る予定だったので、とにかく人もバイクも壊れないようにって(笑)」
この努力が実を結び、UCI個人ランキング最上位に躍り出た今井は「五輪コースを走り切るために必要なスキル。特に下りですが、シーズンが終わってから、清水一輝選手にコーチを依頼しました。またSトレイルに足を運んで、ローカルの皆さんにも教えてもらいました」と、積極的にスキルアップにも取り組んだ。
「ワールドカップで走ったことがない自分にとって、仕上がりなど比較材料がない不安はありますが、ここまできたら知らないまま、真っ白な状態でぶつかるしかないですね。オリンピックが終わったとき、どういう心境になっているのかはわかりませんが、ここまで自分がやってきたことや内容を、次の人達に伝えていきたいとは思います」
※日本学生陸上競技対校選手権
今井美穂
写真と文:鈴木英之
取材協力:御嶽濁河高地トレーニングセンター、ATHELETEBANK
『MTB日和』vol.46(2021年5月発売)より抜粋