UDHとともにワイヤレスシフトは新時代に突入!スラム・イーグル・トランスミッションをテスト
2019年に登場したスラムの無線コンポーネント「イーグルAXS」。
世界選手権やオリンピックXCOでの優勝など、華々しい成果をあげてきたが、この春上位モデルとして「トランスミッション」が誕生。
UDHの採用で、より進化した次世代の変速システムを徹底チェック。
フレームと「統合」された変速システム
3月に公開された新しい変速システムの正式名は「イーグル・アクセス・トランスミッション」。これまでのAXSとは、一部を除き互換性はなく「Tタイプ」という呼称で独立している。
手元のコントローラーからの信号を、リアディレイラーが受信して変速するという基本的な仕組みは変わらないものの、リアディレイラーがハンガーを経由せず、フレームに直接固定される構造となったのが、外見上最大の変更点だ。
スラムは2年前にユニバーサル・ディレイラー・ハンガー(UDH)のコンセプトをオープンソースとして公開。トランスミッションは、このコンセプトを元にフレーム/カセット/リアディレイラーを「統合」することで、機材ごとの公差や複数の固定ボルトから生じるガタ付きから解放されるとともに、リアディレイラーとカセットの配置が変わらなくなることで、大幅に変速ロスが軽減されるという。
昨年のジャパンMTBカップで来日したアンネ・テルプストラ、レベッカ・ヘンダーソンもプロトタイプ“Black Box”を装着した。
2019年に発表されたUDH。当時は対応するフレームも少なかったが、リアアクスルの規格(ネジ部分の長さ、ピッチ)が統一できるという点も注目された。
※UDH対応車種は以下より検索が可能。
https://bikefinder.sram.com/universalderailleur-hanger-bikes
XX SL Eagle AXS TRANSMISSION
価格:38万9510円(税込)
XCレーシングコンポーネントの頂点に位置するべく、34Tダイレクトマウントチェーンリングを標準装着した中空カーボンクランク、カーボンケージの採用やローギア3枚をアルミとすることでシリーズ最軽量を実現。
セット内容:中空カーボンクランク(34t チェーンリング付属)、XXSL イーグルトランスミッションディレイラー、XXSL 10-52t カセット、XXSLフラットトップチェーン(126リンク)、Pod Ultimate コントローラー、AXS バッテリー、AXSバッテリーチャージャー
XX Eagle AXS TRANSMISSION
価格:36万2890円(税込)
XCレースからエンデューロまでワイドに対応する、軽さと堅牢性を併せ持ったセット。32Tチェーンリングを標準装着。専用設計の軽量バッシュリングが付属。E-MTB対応モデルもラインアップ。
セット内容:フォームコア注入カーボンクランク(32tチェーンリング、バッシュガード付属)、XX イーグルトランスミッションディレイラー、XX 10-52t カセット、XXフラットトップチェーン、Pod Ultimate コントローラー、AXS バッテリー、AXSバッテリーチャージャー
X0 Eagle AXS TRANSMISSION
価格:28万3250円(税込)
アルミクランクとバッシュガードの組み合わせで、エンデューロやダウンヒルに対応。リアディレイラーも主要部分にアルミ素材を採用することで耐衝撃性を高めている。E-MTB対応モデルもラインアップ。
セット内容:アルミニウムクランク(32tチェーンリング、バッシュガード付属)、X0 イーグルトランスミッションディレイラー、X0 10-52tカセット、X0フラットトップチェーン、Pod Ultimateコントローラー、AXS バッテリー、AXSバッテリーチャージャー
※2023年7月現在、グループセットのみでの販売となっています。
またUHDの採用により、ディレイラー取り付け部の剛性も向上。負荷のかかる場面でも安定した変速が可能になったうえに、車種やサスペンションシステムが異なってもリアディレイラーの位置に変化がなくなるため、Bテンションやアジャストボルトが不要となり、取り付けに要する時間が大幅に短縮された。
「これまでフレームやディレイラー本体を、転倒による破損から守るための〝力の逃げ〞になっていたハンガーを廃したことで、高価なディレイラーが壊れたらどうるすのか?」という声に対しては、AXSで採用されたオーバーロードクラッチに加え、ディレイラーの主要部品を交換可能にしているため、メンテナンスコストも抑えられる。
残念ながら、いままでのフレームでは取り付けられる車種がほぼないため、新しい完成車を手に入れるかフレームから組み上げるしかないが、それに見合う性能は、間違いなく体感できるはずだ。
細部にわたって新設計されたトランスミッション
リアディレイラーに備わってきた調整ポイントは、どれもがフレームとコンポーネントの間の緩みを埋めるためだけに存在するという考えから、そうした緩みや調整すべき内容を排除するシステムを目指して生まれたイーグル・トランスミッション。
バイクのリア三角全体が、1つのシステムとして機能することで、これまでタブーとされてきたスプリント時のシフトチェンジすらも可能にした。海外では「ゲームチェンジャー」の呼び声も高い、作り込まれたディテールを見てみよう。
(1)2ボタン式ポッドコントローラー
好みが分かれていた変速コントローラーは、シーソー式から左右兼用の2ボタン式ポッドコントローラーとなり、明確なクリックが得られるようになった。また47gと軽量化にも貢献している。
(2)ケージロック
ホイール脱着に便利なケージロックは、フリップチップ式のセットアップキーを兼ねる。SRAMのホームページかAXSアプリで車種、サイズを入力することでA、Bいずれのポジションにセットするかわかる。
(3)チェーン
RED eTap AXSと同様にフラットトップ形状となったチェーン(互換性は無し)により耐久性と強度が向上。よりダイレクトなパワー伝達とスムーズな変速が実現。QUARQパワーメーター仕様も展開される。
(4)マジック・ホイール・プーリー
XX SLとXXに標準装着されるマジック・ホイール・プーリーは、小枝など異物による回転への干渉やディレイラーの破損を防ぐ画期的アイテムといえるだろう。アップグレードキットによってX0にも装着可能。
(5)Tタイプカセット
新しいTタイプカセットは11枚目が42Tから44T、10枚目が36から38Tに変更されたことと、シフトランプを設けたことによりスムーズな変速が可能になった。チェーンラインは55mmに設定され、従来モデルとは各ギア間のピッチも異なる。
IMPRESSIONーディレイラーのたわみがなくなってレスポンスが向上
国内のXCレーサーきってのテクニシャンで、ロードレース経験も豊富な前田公平さん。イーグルAXSオーナーでもあり、eTAPの使用経験もある彼の目にトランスミッションはどう映ったか?
前田公平
1994年生まれ
2012年アジアマウンテンバイク選手権ジュニア優勝、2019年クップ・ドュ・ジャポンM T B X C O総合優勝。2018~19、2019~20年、全日本シクロクロス選手権優勝。ロードレースのJプロツアーにも参戦経験を持つオールラウンダー。スキルの高さだけでなく機材に関しても優れたセンサーを備える。
乗り出して最初に感じたのは、「トルクをかけた時の反応がカッチリしてるな」ですね。踏み出すと同時に前に出る感覚がこれまでのAXSとは明確に異なります。フラットトップチェーンになって剛性が増したのがハッキリ感じられますね。
変速タッチもスムーズで、ワイドレシオにありがちな「チェーンが歯に乗って移動していく」間やゴリつき感が全然なく、静かで無段変速みたいな印象です。UDHになったディレイラーのおかげで、横へのたわみがなくなりチェーンが確実にギア歯に乗っていくので、踏み込みたい時に加速してくれる。
上級者や長年バイクに乗っている人は変速時に一瞬ペダリングを止める習慣がついてると思いますが、それでも変速の早さは体感できると思いますね。今日はスラムパークの上りでいろいろなペダリングを試してみましたが、踏み続けながら変速していけるので疲れず速く登ることができました(笑)。
エンデューロの下りでこぎをいれるような場面や、XCレースで終盤追い込んで雑に変速してしまいそうな時でも、確実に変速してくれる安心感はありますね。
現時点では取り付け可能な車体ありきという制約がありますが、調整ボルトもなくなったので、レースやロングライドでのトラブルの原因が減るのがありがたいですね。
「ディレイラーの剛性向上により上りだけでなく、下りでも変速時にロスを感じさせない」
インプレッション:前田公平
写真・文:鈴木英之
撮影協力:スラムパーク瀨戸 https://srampark.com/
エイアンドエフ https://aandf.co.jp/brands/rocky_mountain_bicycles
問:ダートフリーク https://srambike.jp/
『MTB日和』vol.53(2023年7月発売)より抜粋