6月10日に富士見パノラマで実施されたシマノによる新型XTRのメディア向け発表会および試乗会。「MTB日和」編集部のスタッフも参加させていただきました。この新型XTR(M9200シリーズ)に関する詳しい情報は6月5日の情報解禁日の記事(https://jitensha-biyori.jp/mtb/27046/)をご覧下さい。
今回は実際に編集部スタッフが試乗した感想をお届けします。

試乗会当日はしっかり雨が降り続く過酷なコンディション……
XC競技向けのラインアップとトレイル&エンデューロ向けのラインアップが用意された新型XTRですが、注目されているのはやはり、趣味層のマウンテンバイカーにも響くトレイル&エンデューロ向けのラインアップのようです。中でもディレイラーおよびシフター本体にバッテリーが内蔵されたフル無線の電動シフティングに注目が集まっていますが、特質すべきはシフターおよびブレーキレバーに関するエルゴノミック要素の進化。ライダーの体に触れる部分に重点を置いた開発は、まさにシマノの真骨頂と言えるでしょう。
まず、ディレイラーについて。「当たらなければ壊れない」コンセプトを掲げるこのディレイラーですが、誤解のないように説明すると「当たっても衝撃を逃すことでダメージを回避する」ディレイラーです。また、ディレイラーに想定以上の衝撃を受けたとしても、ディレイラーやフレーム本体へのダメージを抑えるため、シマノではあえてフルマウント方式ではなく、従来通りディレイラーハンガーに固定する方法を選択しています。
実際にディレイラーを強い力で叩いてみましたが(木の棒で叩く、シューズで蹴り込むメディアの姿も)、ディレイラーは衝撃を逃す方向に動き、なおかつ元の位置まで正確に戻ることで、変速性能を維持してくれます。激化が増すエンデューロでの使用を視野に入れたこのシステムは、ユーザーに絶対的な安心感を与えてくれます。大小異なるスプリングを同一の軸位置に置いた新設計のスタビライザーにより、ディレイラー自体が障害物に当たりにくい、厚みを抑えた形状が採られている点も特筆できます。
シフト操作に対する変速の反応はM9100シリーズを超える圧倒的な速度で、ロー側へシフトする登坂シーンでは衝撃を受けました。シマノを代表するテクノロジーでもあるハイパーグライドプラスの恩恵もあり、変速ショックを感じにくいスムーズなシフティングが可能に。「ガチャガチャ」ではなく「ヌルヌル」という表現が近いかもしれません。「クルマのCVTのような」というと大げさかもしれませんが、つなぎ目を感じにくいシームレスなフィーリングは、ワイヤー引きだった先代を確実に上回っています。
注目すべきコクピットまわりのエルゴノミックな造形についてですが、シフターのスイッチ(レバー)が多方向に調整できる点が大きなポイントのひとつ。実際にサポートライダーである永田隼也選手はシフトアップ用とシフトダウン用のレバー角度に差をつけることで、直感的かつミスのない変速を前提としたコクピットに。清水一輝選手はレバー右下のスリットに親指が掛かりやすいポジションに固定するなど、ライダーによってセッティングが大きく異なる点も印象的でした。

プレゼンテーション&試乗会に参加したシマノサポートライダー永田隼也選手(左)と清水一輝選手(右)。
またトレイル&エンデューロ用ブレーキレバー(BL-M9220)には多くの進化がみられ、ピボット位置をハンバルバーに近づけることにより、指の掛かる位置の軌道をより自然な形に修正。レバーがアップスイープする設計、レバー自体の形状も相まって、操作する指への一体感が高められています。実際にBL-M9220装着車をしばらく試乗したのち、従来型のブレーキレバーを握ってみると、違和感ともいうべき明確な違いを感じ取ることができます。ブレーキフルードの変更、ブレーキ本体をモノブロック構造としたことも影響しているのでしょうか? 路面状況の悪い下りステージでも、乗り手の感覚に近いところで反応してくれるため、ブレーキ操作に対する不安感は思いの外ありませんでした。シマノらしいブレーキのフィーリングを継承しつつ、フラッグシップモデルらしい質感のある操作性を提供してくれます。
多くの方にとって興味の対象となるスラムのTタイプに対するアドバンテージは……まず変速性能について。前代のM9100シリーズでも変速ショックの少なさ、変速の滑らかさについてはシマノの優勢を実感していました。そこに電動シフティングの反応性の高さが加わることで、大きなアドバンテージを得たと確信できます。また「当たっても壊れない」Tタイプのディレイラーは、スプロケットとディレイラーの位置関係が固定されているため、細かな調整が不要(そもそも調整する機能が搭載されていない)というメリットこそありますが、前方向から強い衝撃を受ければ当然、アクスルを軸としてディレイラーが回転してずれる可能性は否めません。そうなれば当然、バイクから降りてアクスルを緩め、ディレイラーの位置を戻すことになります。対する新型XTRには、乗車したままディレイラーの位置を微調整できる第3のスイッチが搭載されています。つまり、レース中でもバイクから降りことなく、レースを中断せずに変速できるようにリカバリーできる寸法です。
では、新型XTRの変速システムに死角はないのか? 電動化によるチェーンがスプロケットの歯を捉える速度の向上は明らかですが、それはあくまで従来のシステムの延長上にあって、登りステージでダンシングするような場面において、スムーズなシフティングを得るためには最低限、ライダーが変速ポイントを意識しながら操作する必要はあります(ペダルに全体重を乗せて雑なシフト操作も試してみました、ゴメンなさい)。対して、Tタイプには乗り手のスキルを問わず、ペダルに全体重をあずけるようなタイミングで無秩序に変速しても、バチンバチンとギアが切り替わるイージー感があります(乗り手のシフティング操作と変速のタイミングがずれる感覚はありつつも)。つまり、Tタイプは乱暴な変速操作にも対応する、乗り手を選ばないシステムと捉えることができます。この点ひとつとっても「シマノとスラム、どちらが上?」云々以前に「開発コンセプトのベクトルが別の方向を向いている」そう捉えるべきでしょう。
7年ぶりのモデルチェンジを受けてデビューを果たした新型XTR。新たに投入されたBL-M9220を含め、レース機材として捉えるならば「新型XTRに軍配が上がる」と言えそうです。今後、リリースされるであろうデオーレXT以下のグレードにも当然、XTRに採用されたテクノロジーが搭載されることは必然。ファンライドを楽しむマウンテンバイカーみなさんの期待の大きさもうかがい知れるところです。
ちなみに、個人的に注目度の高いアイテムがもうひとつ。XCレース向けにラインアップされた新型XTRの完組みホイール(WH-M9200)は、内幅29.6ミリのワイドリム(軽量化を前提としたフックドリム)を採用しながら前後重量で1167グラムという驚異的な軽さを実現(チタンスポークを採用)。趣味層のマウンテンバイカーにも受け入れやすいシールドベアリングを採用している点もポイントで、グラビティ系の走り方を重視していないトレイルライドを好むライダーにとって飛び道具的な、絶対的なサポートアイテムとなってくれることは間違いありません!

テストバイク:ロッキーマウンテン ・インスティンクトほか
文:トライジェット
小さいタイヤの自転車、大きなタイヤの自転車、電気の力で助けてくれる自転車まで、ペダルをまわす乗り物ならなんでもござれの『MTB日和』編集スタッフ。