温故知新 徒然MTB談話室 第16回 

トレイルのあり方を再考すべく、長野県は伊那市まで遠征してきたご両名。MTB専用コースとMTB向けトレイル、MTB向けトレイルとさまざまな人が利用する一般のトレイル……それぞれの違いは一体どこに? 今回もマウンテンバイカー必読の内容です。

Profile

今泉紀夫(写真右)
ワークショップモンキー店主。MTB誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。
http://www.monkey-magic.com/

中沢 清(写真中央)
CS ナカザワジム店主。西多摩マウンテンバイク友の会会長として、MTBを取り巻く環境の改善と次世代のマウンテンバイカーの明るい未来のために日々奮闘中。弊誌『MTB 日和』ではインプレッションライダーも担当。
https://nakazawagym.amebaownd.com/

名取 将【 スペシャルゲスト 】(写真左)
MTBによるガイドツアー、トレイルカッターを主宰(詳しくはP39からのガイドツアー企画を参照)。総距離数では間違いなく日本一、MTB向けのトレイルを切り開いてきたマスター・オブ・トレイルビルダー。
https://trail-cutter.com/

中沢(敬省略、以下同):ノリさんとトレイルカッターに走りにきたのは2年ぶりくらい? そもそもノリさんって、あまりこういうガイドツアーとかには来ないですよね?

今泉:はっきりいってガイドツアーが嫌いとかそういうことではなくて、単にお小遣いが少ないから……。

中沢:そういう理由(笑)。踏み跡にできた道をトレイルと考えている人が、あえてここではトレイルコースと呼ばせてもらうけど、こういう人の手が入った道を走ってみて実際、すごく楽しんでるわけですよ。

今泉:まぁまぁ、内容はわかっているしね、はい。

中沢:ところでマーシー、そもそもトレイルカッターって一体どういう意味なの?

名取:僕がカナダにいたときにノースショア、バンクーバーの北側の山が当時はマウンテンバイカーの聖地みたいに言われていたんだけど、そこでひとりコツコツと道を切り開いて、トレイルを作り上げた伝説のおじさんがいて。その人がトレイルカッターと呼ばれていて、そういう存在に憧れ、目指して、勝手にその名前を拝借した、と。20年くらい前の話かな。

中沢:いまの事業を始める前から?

名取:トレイルカッターという名前を使い始めたのは、ガイドツアーという事業として立ち上げたときからですね。

今泉:自分は昔からある道、死に道になっちゃうようなところを走らせてもらってきたけど、そうやって道を切り開いていくという考え方は、まだ日本にはなかったような。

中沢:自分なんかもそう。すでに存在している道を使わせてもらう、眠っている道を走らせてもらう感じだったから。MTBの専門誌で当時の、カナダの情報を読んだりしていると「道が痛むからラダーを作る」とか、なんかすごいなって。

名取:「普通に走っていたら掘れちゃったからラダーを作る」と。

中沢:で、某所にてマーシーが作っていたでしょ?

今泉:はい、うちの息子たちも遊びに行かせてもらいました。

中沢:こんなことが日本でもできるんだ!って感じのすごいやつ。

名取:若かりし頃……。

中沢:自分も地元の山で勝手に橋を作ってみたり、掘れたところを直したり、川を飛び越えやすいようにキッカーを作ったり。

今泉:発想はわかります。

中沢:そうしたら某所でも問題になったわけでしょ?

名取:はい、その通り。

今泉:昔はまだMTBという乗りものがなくて、それが遊びとして出てきたとき、体験してもらうために草レースを開催したり、いろいろやりました。そこで危険性とか、単純に道具としてのMTBの使い方を知ってもらうのが近道だったので。

中沢:自分も30年以上乗っているけど、それまでMTBのコースを作る人はいても、トレイルを切り開くという概念はなかった。

今泉:そう、それを言いたかった。

中沢:カナダにいってみて分かったのが、レクリエーションのために道が切り開かれていること。生活のためとか、仕事のための道ではない。

今泉:日本は山岳信仰とか、いろいろとありますから。

中沢:コースではない、MTBで楽しく走れる道が切り開かれていたんです。マーシーは、その影響でトレイルを作ろうと思ったの?

名取:結論からいうと、カナダにいく前から日本で作っていました(笑)。海外のビデオを見て「こんなん自分たちでもやってみたい!」と。スピードの問題とかもあったりするし、人がたくさん入るような山だとトラブルが起きちゃうから、人がいない場所を探したり、昔の埋もれてしまったような道を探し出したり。それで藪を刈って、走れるようにして。当時のカナダだと、大きなジャンプだったりラダーだったり、激しい映像が多かったから、同じようものを真似て作ったりしましたね。

中沢:衝動だね、バイカーとしての。

名取:それがだんだんエスカレートしていって、いまだから言っちゃうけど、勝手に山の木を切って、でかいラダーを作ったり。

中沢:動画も撮ってたよね?

名取:本当にもう、悪いことばかりしてたな、と。

中沢:でも、続かないんだよね、そういうやり方だと。

名取:そう、続かない。僕も当時は地権者に許可を取ることもなく「山はみんなのものだろう」くらいにしか思っていなくて、「どうせ荒れてるんだからいいじゃないか」くらいの感覚で。それを、山を管理している団体に見つかって「お前らなにやってんだ!」って怒られ。

中沢:で、その後に?

名取:そう、それがトレイルカッターにつながりました。ちゃんとやらないと自分たちの理想には近づかない、ちゃんとやるにはどうしたらいいのか? いろいろなことを考えてはじめたのがガイドツアーでした。

中沢:それがMTBのおもしろさを追求していく、理想を実現するためには一番いいと思ったから?

名取:自分は自転車のことしかできないから、自転車で食っていくためにはどうしたらいいか?で、行き着いたのがガイドツアー。山のことはいろいろと経験していたし、伝えられるものを持っていると思っていたから。それで仕事としてガイドツアーを始めるに当たって、土地を使わせてもらう許可を取ったり、最初は緩いところからはじめました。

中沢:自分たちはいろいろな山を走ったりするけど、マーシーはいま自分でやっている山以外には走りにいかないの?

名取:いまは行ってないです。

中沢:それどころではない?

名取:了承を得られていない山に入ることが、どんな事態を生むか?実際に「マウンテンバイカーが山に入って好き勝手をやっている」という話をいろいろな地域で聞かされてきて、自分たちがやってきた行為のせいで、いま多くのマウンテンバイカーが肩身の狭い思いをしている、自業自得だった、と。

これで僕が「あそこによさそうなトレイルあるぜ!」みたいなことをやってしまうと、次の世代に負の遺産を残してしまいますから。MTBに対するマイナスのイメージを作らないためにも、いまは「自分で許可を得た場所しか走らない」というルールは自分に課しています。

中沢:自分はお互いの顔が知れている、人と人のつながりとか、そういうものの上に成り立っている世界もあると思うんですよ。走っているときはわからなくても、山を下りて会話してみたりして、地域と共存するような形が。でも、一般のマウンテンバイカーにはおすすめしづらい。だって、分かりにくいから。

今泉:そう意味で、自分は反省しきりなんだけど。昔は山岳サイクリングという文化があって、富士山のてっぺんまで自転車を担いd(略)

中沢:だれもが分かりやすい形を求めるのなら、富士見パノラマのようなMTB専用のコースだったり、トレイルカッターのようなツアーだったり、走る場所を限定した方がいいのかも、きちんとお金を払って。そうではない、昔からある山の遊び方はやっぱり難しいのかな? 折り合いをつけてやっていく方法は?

今泉:筋道をつけていくしかない、いままでの経験の中から。

中沢:多分、そういう道筋をつけていくのがショップやローカルの人たちが立ち上げたボランティア団体なんだと思うんです。海外を見てもそうですよね? なんでもかんでも事業化しているわけじゃなくて。

~~~~~~~中略~~~~~~~

中沢:今日はトレイルカッターとCABトレイル、ふたつのトレイルを走らせてもらいました。

トレイルカッターで走る道は、レクリエーションのために作られたトレイルだからうまく横にも振ってあるし、景色も見られるし、人と連なって走ることもできる。でも、どんなにスムーズでも山は山。「落っこちゃたらどうするの?」とか「こけたらどうするの?」とかあって、リスクがゼロにはならない。

でも、CABトレイルならファミリーで、3万円の自転車でも遊べちゃう。初心者だけでなく、上手い人も楽しめるコースですね。よくこの両面を作りましたね。カナダにいったときにはまだなかったでしょ? こういう発想。

名取:なかった(笑)。

中沢:昔のトレイルカッターはもっと山深い、ワイルドな感じだったし、CABトレイルは子どもたちがしゃかりきにペダルをまわしても登っていけるコースだし。どうしてこういうスタイルに変わってきたの?

名取:おいたをさんざんやらかして、次の形としてガイドツアーをはじめました。〈常に人がついて移動する=料金が高くなる〉ということで、それなりのツアー代金を頂かないとトレイルカッターは運営ができない。でも、それでは裾野を広げていくことにはつながりません。結局、好きな人が思いっきり楽しむだけのコンテンツにしかならないんです。

それが悪いわけではないけど〈次の世代が入ってきて、MTBを楽しむ人が増える〉それが思い描く未来だとしたら、もっと低額で、お金を払えば簡単に走れるような場所が必要。ちょっと前までMTB向けの常設コースといえばダウンヒルコースしかなくて「じゃあダウンヒルしない人はどうすればいい?」ってなりますよね?

本当はダメなのかもしれないけど、ルック車的な車両でも遊べる、自転車さえ持っていれば入っていける、そんなフィールドが欲しかったんです。そんな自分の思いとアイデアを伊那市が汲み取って、つないでくれてCABトレイルが完成しました。

中沢:これがあるから地元の人が走りにやってこれるんだね。

名取:CABトレイルを作ったことでキッズをはじめ、地元のマウンテンバイカーが急激に増えました。続けていくことで、さらに底辺を広げるという目標に近づきますし、そこからよりディープな世界を求める人が出てきたら、トレイルカッターにきてもらえばいいですから。

中沢:そういえば前、トレイルカッターで土地を借りている方に、なにかあったときに山を返さなくちゃいけないって話をしていたよね?

名取:大きな機械を使えば大きなバームやジャンプは簡単に作れるけど、そのためには森としての機能を壊さなくてはならない。自然の中で遊ぶのがMTBなのに、森を破壊して遊び場を作ることに違和感がありました。だから、できるだけ森を壊さないように道を切り開いているし、そのまま放っておけば元の山の形に戻っているくらいの掘削量は維持しています。

中沢:走らなければ道は自然に返っていく、ってノリさんがいつも言っているように。サーキットを作っている感覚ではないんだね。名取:いま関わっている場所は、木が生えている位置でコブの形を決めていくとか、うねりを決めていくとか。よほどのことがない限り、木を伐採しないように道を切り開いています。

今泉:それにはすごく感心している。マーシーのツアーに来て思うことはすごく多い。

中沢:トレイルカッターは搬送ありの有料ツアーだから、ダウンヒルコースと同じように見る人もいるよね。知って欲しいのはナチュラルな部分を大切にしているところなのに。タイヤを滑らせないように言ってるしね、トレイルカッターでは。

名取:言ってますね、日本一言ってるでしょうね(笑)。

今泉:正直、みんな言ってます。マーシーがうるさいって(笑)。

中沢:お金を払ってるんだから好きに走らせろってね。でも、細かく言うのは単にマーシーたちの維持管理が大変だからではなく、地形が変わって自然に戻らなくなると、元の形でお返しできなくなるからでしょ? トレイルの管理って生きものと付き合うようなものだから、その辺はシビアに考えないと。極論、スリルや気持ちよさを味わいたいならコンクリートの道でいいわけだし。

今泉:いまの機材としてのMTBもそうだけど、競技っぽい突き詰め方が主流なので。自然と親しむような自転車遊びとなると……。

中沢:難しい局面に来ていますね、確かに全開で走る気持ちよさはあるので。特にいまのバイクのスペックを活かすとなると。

今泉:せっかくお金を払ってるんだから、草木の話とか、ダムの話とか、その土地の歴史とか、すべてを楽しまないともったいないですよ。

名取:いま僕がやっていることのキーワードのひとつ、それが『持続可能』。トレイルカッターで走る道は山主さんからお借りしているところもあるけど、地域の人が生活のために、山と関わるために長年維持管理してきた道をお願いして、了承頂いて、再整備して、使わせてもらっているところも多いんです。人のものを使わせてもらうのに好き勝手はできない。礼を尽くすべきなんです。

元がMTB用に作られた道ではないので、斜度が上がるほど道の維持が困難になります。土砂が流出しやすくなるし、ガイドツアーという形でコントロールしていく必要があるんです。ガイドがつくことで地域の了承が得られるし、信頼も得られる。なにかあってもガイドが責任を取る、という担保が生まれる。地域の人たちはそこに土地を所有して、住んで、固定資産税を払って、だから権利が発生している。そのご厚意に甘えている立場にも関わらず好き放題するのは、人としてどうなんでしょう?

中沢:だからいまガイドツアーで走っている道をフリーで開放するのは難しい?

名取:地域の人たちに対しての失礼になるし、不特定多数の人が走ることで持続可能ではなくなってしまいます。事業でならお金という形で地域に還元することもできます。地域を守るために仕事を作ることもできるし、定住する余地が生まれれば地域のコミュニティを復活させることができるはずですから。

中沢:それがマーシーが現実と向き合って、出したいまの答えなんだね。

今泉:少しずつ努力したことが少しずつ積み重なって、新しい発想が生まれる。すごく地味だけど、MTBを通じて世界が広がってきている気がします。バイク作りと一緒ですね。

 
C.A.B. TRAIL(中央アルプスマウンテンバイクトレイル)

隣接する施設では、地元産100%の玄そばほか、信州の料理を味わうこともできる。

https://cabtrail.com/

みはらしファームのバックカントリーに開設されたMTB専用トレイル。また温泉、農業体験、食事各種を楽しめる、さまざまな施設と隣接しているので、MTBに乗らなくても丸1日退屈することはありません。友人同士で訪れるもよし、ファミリーで訪れるもよし。キッズ&初心者から上級者まで、すべてのマウンテンバイカーが走りを満喫できる極上のコースが出迎えてくれますよ。
 
写真:村瀬達矢 文:トライジェット
『MTB日和』vol.46(2021年5月発売)より抜粋

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