温故知新 徒然MTB談話室 第10回

この日は林道を経由しながらMTBで五日市周辺をサイクリング。ときにはバイクを降りて山道を歩いてみたり、穏やかな時間を過ごした両名。走り終えたあとは、武蔵五日市駅前の山猫亭さんで恒例のランチ&トークタイムがスタート。

Profile

中沢 清(写真右)
CSナカザワジム店主。西多摩マウンテンバイク友の会会長として、MTBを取り巻く環境の改善と次世代のマウンテンバイカーの明るい未来のために日々奮闘中。弊誌『MTB 日和』ではインプレッションライダーも担当。
今泉 紀夫(写真左)
ワークショップモンキー店主。MTB誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。

 
今泉:こうして山猫亭さんでランドナーを眺めていると昔を思い出します。うちらはランドナーがルーツだから。最初は山にもランドナーでいって、それをストリップして、フラットバーにして、オールラウンダーにして。

中沢:山サイだ(笑)。

今泉:そういえば、この辺りもよく走りにきました。

中沢:長く乗っている人からよく聞くのが「昔は未舗装の林道ばかりですごく楽しかった」という話。最近は“グラベル”という言葉をよく耳にしますけど、その流れの中で今回、ノリさんと林道を走ってみたいと思っていたんです。

トレイルと呼ばれるシングルトラックを走るのではなく、サイクリングして、美味しいもの食べたり、景色を見たり、写真を撮ったり。反面、先日の台風で受けた被害のことも気がかりで。実際に川があふれたりしたじゃないですか。うちのお客さんのところにも避難勧告が出たくらい。

今泉:SNSで「MTB向けに作ったトレイルは無事だった」みたいなことが書かれているのを目にしましたけど、それって偶然でしかない。生活に関わる部分と区別して被害があるとかないとかいうのは……。

中沢:人々の生活が成り立たない状況下でトレイルビルド云々はない。

今泉:さびしいですね。

中沢:自分は住んでいる場所に近いフィールドのお手伝いをさせてもらっているので、MTBで走っている道がどうこうよりも「あの人は大丈夫だったかな?」とか、そっちの方が気になって。

だからこそ、マウンテンバイカーとしてもいろいろ解決していかないと乗りにくいし、アクションを起こしながら地域と関わる必要があるんです。道を整備する前にフィールドを守る方が先。道の話は後からでいい。

深沢地区は千年の契り杉、山抱きの大樫を有する自然の恵みを実感できる希少な場所。各々へ向かう途中の丸太階段は以前、西多摩マウンテンバイク友の会の活動のひとつとして、地域の人と交流していく中で作られたもの。「僕らも道を作ることはあるんです、ここは自転車用のトレイルビルドとは違うけど(笑)」と中沢さん。

今泉:自分なんかは遊ばせてもらっているだけだから、そういう意味では敬意を持ちながら見守るというか。大きな林道の復旧なんかはいわゆる行政の仕事なので。

中沢:それは僕らにどうすることもできない。

今泉:勝手にどうこうするのはよろしくない。まず地元の人の生活が最優先ですから。

中沢:生息している感じですね(笑)。

今泉:無理はしない、というだけの話ですよ。うちらが走らせてもらっているフィールドはここよりずっと田舎だから。群れないで遊んでいる感じですか。

元々、地元にいるライダーも自分たちなりに遊んでいますし。情報の交換はしているんですよ、道の状況とか。でも「じゃあ、具体的にいつ集まって直そうか?」とかいう話にはならない。

中沢:それは、その場所の形ですからね。

今泉:自分たちは走りながら少しずつ直していければいいんです。急ぎすぎるのはよくない。すぐに復旧させて、すぐに遊ぼうとか。

中沢:それは専用コースとして事業にしている場所の話ですよ。

今泉:昔は崩れた場所が何年も放置されているようなことも当たり前にありました。

中沢:自分たちの力でできる範囲のことをする。だから地元の人とつき合うし、行政ともつき合う。発言権が得られれば「ここを直して欲しい」などの要望も伝えられますから。

~~~~~~~中略~~~~~~~

中沢:最近は本当にグラベルロードが流行っていますよね。みんなが未舗装の林道を探しています。この辺も20年前くらいまでは未舗装だらけだったんですけど、それがどんどん舗装されていって。さっき走ったコンクリートのところもついこの間までは未舗装でした。

今泉:生活林道ですからね。

中沢:そう、僕らが遊ぶための道ではなく、地元の人が生活するための道なんです。自転車乗りはグラベルを探しているけど、一般の人は未舗装路なんて求めていない。 

今泉:その通り(笑)。

中沢:人々が行き交うために必要な道なんですよね。

今泉:トレイルの本来の意味もそれです。自分たちがランドナーで入らせてもらっていた場所も古い街道っていうか、生活を結ぶ道で遊ばせてもらっていただけ。でも、必要とされなくなるとなくなっちゃうんですよ、そういう道は。

悪天候による被害が出たためにコンクリートで舗装された林道。生活道路としてはこれが正しい形なのかもしれない。

中沢:いまはバイクが海外で開発されているためか、MTBを楽しく走らせるための道が〈トレイル〉みたいになっちゃってますよね。

今泉:どっちが正しいのかわからないけど。

中沢:そもそも日本で一般の人に〈トレイル〉といっても通じません。新しい形を作るのなら〈MTBトレイル〉のような言葉が必要なのかも。日本の山は元々信仰の対象だったし、レジャー的な意味で山には入っていなかったんだから。

今泉:どうにかそこまで入っていっていたんですよ、感謝するために。

中沢:自分なんかはその近くまで自転車をこいでいくだけで十分楽しいですよ。でも、そういう乗り方に丁度いいバイクが減りつつあるのが現状。エントリー向けのMTBですら、そこそこ登れて下りを思いっきり楽しむスタイルに変わりつつありますから。

逆にこぎやすいバイクはクロスカントリーレーサーに傾き過ぎちゃって。メーカーさん的には、そういう使い方をするならグラベルロードがいいということなんでしょうけど。海外ではこうだとか、MTBはMTBらしく乗ればいいとか。

今泉:もう少し日本のスタイルがあってもいいと思う。みんなアスリートになりたいのか、単純に運動のために乗っているのか。ゆったりと旅を楽しんだり、空間を楽しむ余裕がないんです。せっかくダートを走るんだから、舗装路では味わえない感覚を味わってほしいですね、ただ突っ走るんじゃなくて。今日、林道を走ってみて、いい景色も見れたし、あらためてそう思いました。

中沢:ダートを走るのなら、ハンドルはドロップよりフラットの方が走りやすいのに。

今泉:それはもう繰り返しているだけだから。MTBがパッケージ化されたときに「ドロップよりフラットの方がいい」となったわけでしょ。自分たちはすべて見てきたから確信を持っていえます。MTBもいまは下りの流れだけど、しばらくしたらまた普通に走る形に戻ります。

中沢:自分たちは立場上、いろいろなバイクに乗る機会がありますけど、どれか1台を選ぶとなったらこぎやすくて、移動しやすいバイクになっちゃうのかな。

今泉:こげばどこでも走れる。ママチャリだって林道は走れる。ツールだって昔はダートだった。旅なのか競技なのか、それだけの差ですよ。
 

取材協力:紅茶と珈琲の店 山猫亭

東京都あきる野市舘谷220-9
tel 042-596-6321
https://cafe-yamanekotei.jimdo.com/

武蔵五日市駅(JR 五日市線)の前にある美味しい紅茶と珈琲、手作りケーキ、雑穀米を使ったヘルシーフードのお店。サイクリングの休憩にオススメです!

写真:村瀬達矢 文:トライジェット
『MTB日和』vol.40(2019年11月発売)より抜粋

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