多分に漏れず、こちらの対談もリーモートにて。PCやスマホの操作に明るくないメンツがそろってしまったため、現場はなかなかのグズグズっぷりです(笑)。編集部ヨコキ立ち会いの元、MTBのサイズについてなかなか興味深い話が展開されています
Profile
中沢 清(画面左)
CS ナカザワジム店主。西多摩マウンテンバイク友の会会長として、MTBを取り巻く環境の改善と次世代のマウンテンバイカーの明るい未来のために日々奮闘中。弊誌『MTB 日和』ではインプレッションライダーも担当。
https://nakazawagym.amebaownd.com/
今泉紀夫(画面右)
ワークショップモンキー店主。MTB誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。
http://www.monkey-magic.com/
編集部ヨコキ(写真手前)
身長153cm の弊誌編集長。購入する気があるのか? ないのか? 日々フルサスMTBをチェック中。気にしているのは足つき性よりもハンドルの高さ。しっかりとペダリングするためには大切なポイントですからね。
中沢(以下、敬称略):横木さんの「身長153cmでも無理なく乗れるフルサスMTBはどこにありますかー?」というSNSのつぶやきに対して多くの方がコメントしていましたが、女性や小柄な人のバイク選びは本当に難しいですね。
26インチが主流の頃はいろいろと選べたけど、ホイール径が27.5や29インチになり、サスのストローク量も増えていますから。女性用として販売されているモデルの中にも、無理矢理乗れるようにしちゃっている感じのものはありますよね?
今泉:・・・・(アイドリング中/BMGは山下達郎)
中沢:20年近く前、妻が100mmストロークくらいのターナーのダブルサスに乗っていて、それがすごく乗りやすかったみたいなんです。
ダウンヒルレースにも出ていて、その後は小柄な人用の150mmモデルにも乗りました。最後に200mmのダウンヒルバイクに乗ったら、直線はいいけどコントロールしにくくなったと不評だったのです。
今泉:いわゆるどこにベーシックがあるか、基準があるか、そういうものだから。身長に対する自転車の設計は本当に難しいんですよ。うちもかみさんと出会った頃に乗れる自転車がないっていうもんだから、いよいよやりましたけど。まず身長の1/10くらいでクランクの長さを出して。でも、いまの時代はそういうものでもないし。
中沢:クランクの長さということはペダリングありきですか?
今泉:違いますね。クランク長は股下の長さと同じ意味だから。足をまわすときだけではなく、立ったときの前後の足の幅も変わります。長いクランクで大股広げて足をまわしてたら嫌でしょ、子どもに170mmのクランクは使わせないし。
昔はそういう総合的な考え方でもの作りをしていたけど、いまはマーケットももの作りの発想もそうではない。売らなきゃいけないから。ある程度の価格で提供できればいいんです。いわゆるレディメイド主体の世の中になってしまった弊害がそういうところに出てくるんです。
中沢:昔はハードテイルで走るのが主流でしたけど、いまは明らかにダブルサスに優位性がありますよね。すごく楽だし気持ちよく走れますから。ハードテイルならまだ小柄な人向けのものを見つけやすいけど、ダブルサスだと……。数が売れないから? 作りにくいから?
今泉:カネに糸目をつけなければ、あるいは。商品としてはダメです。
中沢:本来、そういうバイクの機能の恩恵を受けるべき人たちが受けられていないのが残念で。
今泉:それを話しはじめるとテクノロジーをだれでも教授できるかどうか、という話になります。完全フルリジッドよりサスペンションがあったほうがいいけど、そこで難しくなってきます。違ういい方をするなら、自転車の根本的な楽しさはどこにあるんだろう、と。
中沢:横木さんの軽いつぶやきが根本にまできましたね(笑)。妻が200mmストロークのフルスペックDHバイクより、ストロークの短いフルサスやハードテイルのほうが乗りやすいといって、ダウンヒルへいくとそれらにばかり乗っていました。
私としては最新のフルスペックバイクが持つ世界観を味わってほしかったのですが、ハンドル位置が高いし、バイクが勝手に進んじゃうって。
今泉:基準がどこにあるかというだけの話ですよ、ものとか判断とか。例えば、速く走るというのも基準のひとつ。つまり、MTBに乗る楽しさはどこにあるのか? ダウンヒルでぶっとばすのが楽しいというのであれば、どうにもならない部分はあるでしょう。フォーミュラーカーでラリーは走れないわけだし。
そうではないのだとしたら、その人に丁度いいサイズの靴を作ることはできます。でも、普段歩きやすい靴で山を歩けるか、といったらそうではない。体に合ったものは作れるし、効率のいい道具作りはできるけど、その世界観をだれにでも与えられるようなもの作りは非常にむずかしい。
小柄な人の体に合わせて自転車を作れば当然、車輪は小さくなります、けれど、それだと武器としてのトップタイプは出せない。
中沢:背の低い人たちにも27.5インチや29インチならではの走破性の高さ、その恩恵を受けてもらいたいし、サスペンションの量があるとこれだけ楽なんだとか知ってもらいたいんです。
でも、それだとバイクをコントロールしたり、自分の支配下に置くことが難しくなる。なんとかできないんでしょうか? アラブの富豪云々とかではなくて。
今泉:カネですよ、カネ。
~~~~~~~中略~~~~~~~
中沢:最近のダブルサスはとにかくラクできて速い。悪いことじゃないんだけど、メーカーやライダーの動画を見ると、縦に横にピョンピョンしたり、ギュって感じやザザーって感じで曲がったり。
でも、横木さんは26インチに乗っているときの方が体とバイクがスムーズに繋がっているみたいでした、ノーブレーキでスタンディングを上手にやれるスキルがあって。速さではなく、程よい速度で緩急をつけて滑らかに道を流している方が楽しそうに見えるんですよね。
今泉:26インチでもの作りできる環境さえあれば……。
中沢:メーカーはその辺りをカバーできないんでしょうか?
今泉:いまのセールスがレース主体だから。そのときに勝つための、速く走るための道具を作らなければならないから仕方がありません。なので、その中で選ぶしかない。
中沢:一緒に走りにいく男性たちは強烈なエンデューロバイクとかに乗っていますよね。ハードテイルではリズムが合わないし、26インチでは同じ速度域で走れないという問題が出てきます。
今泉:男性の中で走らざるを得ない仲間内の女性から「女子だけでMTBに乗るつながりができるといいな」という声が上がっています。男性たちとはどうしても道具の差が出ちゃうし、遊びづらいですからね。
中沢:結局、小柄な女性はどんなMTBに乗ればいいんでしょうね。
今泉:26インチのフルサスが―。
中沢:あれば。
今泉:自分は男ですけど、29インチのサスバイクとかになると上手く乗れません。ふじてんで開催される試乗会で、フレームサイズの合ったバイクを借りたときにもそう感じました、たしかに速いんだけど。同じことを感じている人は少なくないと思います。体力も必要だし、男でもそう思うくらいだから、小柄な女性はなおさらでしょう。
中沢:趣味の世界ですから、すごいバイクに乗ることは悪いことではありません。でも、フィールドで出会う人の中には、バイクに乗せられちゃっている状態の人、何かのきっかけでぶっ飛んじゃうんじゃないかと心配になる人を多く見かけるようになりました。
フレームだけじゃなくて、サスペンションやブレーキ、タイヤやホイールの性能も上がっているからそれなりにいけちゃっているんだけど、ちょっと滑りやすかったり、タイトなところだったりすると顕著にバランスが悪くなる人がいます。メーカーがいうところの適応身長には収まっていても、バイクの求めてくるものとライダーがフィットしていない? 進化が凄すぎて自分の基準が分かりにくいのか。
今泉:この話題は1回では終わりそうもありません。
中沢:26インチのバイクなら分かりやすい?
今泉:モンキーのフレームでは、その傾向のその乗り方をする女性であればこんな感じ、といったデータはあるけどサスバイクは……。
中沢:もの作りの観点からダブルサスのバイクを考えると、横木さんくらいの身長の人は切り捨てるしかない、という状況でしょうか。自分なんかはストロークがもっと少なくていいと思うんで。
タイヤはこれからの時代、26インチはなかなか出てこないだろうし、サスを120mmくらいまでに収めて、27.5インチでこのくらいの乗り方にすごくいい、っていうモデルに出てきてほしいですね。ほどよくコントロールできて遊べるバイク。その方が楽しいんじゃないかな。
今泉:逆に26インチのサスバイク、小柄な女性が乗れるエンデューロマシンとか? 26インチでやってきたテクノロジーがあるわけだからそれを一度持ち帰って、身長に合わせて車輪径を変えてもいいし。大人でも乗れる26インチ。
中沢:そうですよね。操ってなんぼの楽しさは26インチだと個人的には感じてますが、安心感は27.5や29インチの方がある。それでも26インチのものを作ってくれるメーカーがあってもいいのかな?
今泉:ヨツバが作ればいいんです。
中沢:うちの妻用には26インチのターナーを残してあります。
今泉:いまはそれしか手はない。
中沢:結論、横木さんがダブルサスを買うなら、古い26インチを探すか、アラブの富豪と仲よくなる! 「いやいやウチのバイクに乗ってみてください、乗りやすいから!」という企業さまを大募集します。横木さん、次号のインプレ企画が決まりましたね。
編集部ヨコキ :・・・・(涙)
写真:村瀬達矢 文:トライジェット
『MTB日和』vol.42(2020年5月発売)より抜粋