究極にシンプルながら、かくも奥深き乗り物、自転車。楽しみ方から歴史、モノとしての魅力、そして個人的郷愁まで。自転車にまつわるすべてに造詣の深いブライアンが綴る「備忘録エッセイ」です。
輪行は自転車旅における最高の手段……なのですが
旅の始まりと終わりを自由に設定できる。疲れたり、天候が悪くなったりしたときには、早めに切り上げることができる。
標高の高いところから始めて低いところで終えるズルもできるし、走り終わったらビールで乾杯もできる。
こんなに自由度が高い「輪行」は、自転車の旅の手段としては最高のものです。
乗り鉄でなくったって、普段あまり利用しない路線に乗ること、すごくワクワクしてしまいます。
ちょっと弊社商品の宣伝で失礼。ツーリング系として販売しているモデルはどれもフォークが抜きやすく、輪行ヘッド小物を装備しています。
また、分割タイプでないドロヨケの賢い外し方もあり、その辺りもぜひともお伝えしたいのですが……。
輪行は旅のいい方法なのですけれど、メーカーとして積極的におすすめできないことに、いつも歯痒さを感じます。
自転車をご自身で分解して組み立てることは、誰彼となくできることとは言えません。旅先でペダルやハンドルを入れ忘れたことに気がついても笑い話ですみますが(本人にとっては笑い話ではありませんけど)、不用意な組立で万一の大事故になれば、笑い話ではすみません。
輪行講座や専門誌・ネットの情報などを参考にするのもいいですが、最初は慣れた方とご一緒されることを強くおすすめします。
自転車は大切なお体を預けるものです。取説を見ながらキャンプでタープを張ることとはちょっと違う気がします(タープだってエエ加減に張って事故になることもありますが)。
また、ハード面とは別の問題もあります。以前の輪行は、本当に限られた方だけが行うものでした。
最近ではテレビ番組などの影響も手伝って、より多くの方が輪行を楽しむようになりました。
それ自体はいいことですが、残念ながら、なかにはお行儀のよろしくない方もいます。
輪行に限らず、ある方面の人口が増えると仕方ないことですが、最近JRさんの駅に掲示されだした輪行についてのご注意も、そんな人がポチポチ現れてきたことによるものでしょう。
例の道路交通法改正と同じで、なにも厳しくなったわけではなく、当たり前のルールをあえて明文化しなければならなくなったのです。改めて発表されることで、悪のように捉えられてしまうことはとても悲しいことです。メディアの過大報道の影響もあるでしょうが……。
輪行をされる場合はハード面はもちろん、マナーもキチッと考えたいものです。弊社製品について、「このランドナーは輪行可能でしょうか」とご質問をいただいたりします。
輪行では要するに、自転車をちゃんと輪行袋に収めればいいわけです。しやすいか否かが大きなポイントであって、極端なお話、ママチャリでだって輪行できないことはありません。
旅のイメージが強い輪行。雰囲気のあるツーリング車なんかで行う印象もあったりします。
でも、輪行のパッケージングだけを考えると、ドロヨケがないストリップなロードやクロスバイク、MTBの方がずっと簡単です。前後輪を外してフレームの両側から挟んで袋に詰めるだけで、既定のサイズ(※車内持ち込みサイズ規定/JR の場合……タテ・ヨコ・高さの合計が250cm以内)に収まってくれるでしょう。
ツーリング車では、車輪だけでなく、ドロヨケ外しのコツがあります。場合によっては前輪・ドロヨケ・キャリアが付いたままのフロントフォークごとフレームから外す方が早くて簡単な場合も。
こうして言葉にしているだけでもややこしそうなので、最初の輪行はストリップ自転車でおすすめしたくなってしまいます。
それに輪行袋はとても大きく(だからこそ先のマナー問題も発生するのですが)、そしてとても重い荷物です。ストリップ系の軽量な自転車の方が有利なこともお分かりいただけるでしょう。
「輪界」とか「輪店」「輪業」からもわかるように、「輪」一字で自転車を意味します。その自転車で「行く」から「輪行」。遠い昔、自転車による遠乗りを輪行と称したようです。
それが現在の意味合いへどのように変わったのかわかりませんが、「輪」とはすなわちリムのこと。
ですから、リムは自転車を代表するコンポーネントであるーーなんて牽強付会も甚だしいですが、「銀輪」というぐらいなのでその通りでしょう。
輪行についての詳細はこの誌面では難しいですが、機会があればご説明したいと思います。夏のツーリング特集に寄せて。
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『自転車日和』vol.37(2015年7月発売)より抜粋