究極にシンプルながら、かくも奥深き乗り物、自転車。楽しみ方から歴史、モノとしての魅力、そして個人的郷愁まで。自転車にまつわるすべてに造詣の深いブライアンが綴る「備忘録エッセイ」です。
自転車素材の鉄&アルミ
どんなものかご存じですか
自転車に関心のある人が、クロモリってフツーに言ってます。同じ乗り物好きでも、クルマの場合では、そんなにフツーには言いません。
クロモリに限らず、何番アルミとか、カーボン、チタン、マグネシウムとか。さらには非常に強い特殊なステンレスなど、自転車には素材に関する話題が多いです。
ただでさえ特殊な専門用語が多い上に、マテリアルについても語らなければならない。自転車はじめてみようかなと思う方々にとって、ハードルを上げてしまっているのではないかと、ちょっと気になったりします。
他の自転車専門用語も同じですが、無理に覚える必要はありません。困ったら自転車を指し示してお店に相談しましょう。
BMX乗りの人がサドルを「イス」なんて言うのですが、案外おしゃれでもあります。歴史が比較的新しく、自由な表現が許される世界なのでしょう。
また反面、文系女子と思しきサイクリストさんが「クロモリ」なんて普通におっしゃることは、微笑ましいことでもあります。
スポーツバイクの重量は、たかだか10kg前後。1tを優に超えるクルマと違い、贅沢な素材を使うことができる恵まれた環境であるとも言えます。
冷戦時代も遠い昔になりました。本来なら、予算もタップリ取れるハイテク兵器専用の素材や加工方法が、自転車に使えるようになったことも大きいです。
テロをはじめ、物騒なことが起きているものの、まだいい時代でもあると言えましょう。
代表的な素材である「鉄」と「アルミ」について、硬い内容にならないように、フレームを中心に進めたいと思います。
鉄、と言いますけど、実際には鋼なんですよ、なんて理屈はこねません。関心のある方は、注で示したURLをご参照ください(※)。
古代の戦争も鉄をめぐる争いが多かったとされ、人類とお付き合いが長い素材です。
それだけ知り得ている部分が多く、信頼性が高いと言えます。自転車にも古くから採用され、長年の歴史から乗り心地に関してのノウハウもあって、それがよく言われる「しなやかな乗り心地」に繋がっているのでしょう。
もちろん、細身のフレームが好きという理由で選択しても、何ら問題はありません。
対して、アルミと人類との付き合いは近代に入ってから。自転車のフレームに積極的に使われるのも1980年代以降、アルミTIG溶接技術が確立してからです。
アルミは疲労限度を持たない……と言う事には触れません。が、少し例を挙げて説明します。
たとえば、バネは伸びたり縮んだりするのが役目です。これは何回も素材がイジめられている状況。
特殊な用途を除いてアルミのバネがないのは、何度もイジめられることで、一回一回はわずかなストレスだとしても、いずれは壊れてしまうからなのです。
自転車のフレームは、こぐ力だけでなく路面の振動からも常にたわみ、ストレスを受けています。
アルミフレームは、繰り返されるストレスですぐに壊れないよう、鉄のフレームに比べて強い(よく言うところの「高剛性」ですね)設計になっています。
アルミフレームは硬いと言われたりしますが、その「硬い」の正体はここにあります。アルミ自体は決して硬いわけではありません。
とはいえ、強くしてはいても、やはり限度はあります。すぐに寿命になる事はないですが、ずっと使えるわけでもありません。
また、歩道の段差の乗り上げ降りが激しければガツンガツンと衝撃も加わり、小さな亀裂が入ることがあります。
一度そうなると、一気に破断するまで年月はかかりません。
航空機はフライトごとに入念な整備・点検が行われるのでしょうが、御巣鷹山の不幸な事故は、アルミの疲労破壊が大きな原因でした。
アルミフレームの異常は見つけにくいですが、乗り心地が変だとか、大きな衝撃が加わった場合には、お店で十分な点検を依頼されることをおすすめします。
もちろん、アルミフレームには非常に大きなメリットもあります。それは鉄に比べて絶対的に軽量に作れるということ。若干硬いとしても、軽いということはとても魅力的な事です。
そして定期的な点検が必要であることは、鉄フレームの自転車でも変わりません。
自転車には車検はありませんが、安全のためです。他の部分も含めて、せめて年に一度の整備依頼を強くお願いします。
Profile
※アルミ、鉄以外も含む素材についての詳しい説明は、ラレーWebサイトのコラムページ(http://www.raleigh.jp/column)の「自転車の素材とレシピ」でお読みいただけます。
『自転車日和』vol.40(2016年4月発売)より抜粋