究極にシンプルながら、かくも奥深き乗り物、自転車。楽しみ方から歴史、モノとしての魅力、そして個人的郷愁まで。自転車にまつわるすべてに造詣の深いブライアンが綴る「備忘録エッセイ」です。
今やスポーツバイクは 「現代のママチャリ」だ!
んなわけねーだろ……のツッコミは十分覚悟。第7回でチラっと触れましたが、対極にある自転車への思いから、自転車の未来予想まで独善に走って2回にわたっての連載です。長くなりますが、よろしくお願いします。
以前ジュニアスポーツについて記した際、自転車産業史を自分なりに調べたり、いろんな方々に訊いてきた中で、このジャンルの奥深さを知りました。
現在までの経緯から、スポーツバイクは今日のママチャリに代わる存在になるのではないかと思えてきます。
かつて自転車は極めて実用的で、存在感と価値ある乗り物でした。愉しむだけでなく、頑丈でなければならない。丈夫な荷台を装備して荷物もしっかり積みたい。しっかりした両立スタンドで駐輪時も安定する。ケーブル切断の不安から完全に解放してくれるブレーキシステム。
当時はタイヤ・チューブの品質も道路の舗装率も低かったため、パンクしても少々なら走れるぐらい、タフな足まわりも必要でした。当時の自転車はそれらすべてを満たし、夢のような(?)フィーチャリングを有していたのです。
現在でも稀に見る、ロングホイールベースでヘヴィデューティーな「運搬車」(カーゴバイクではないですよ)とも異なる実用車は、働く自転車でもあり、時に遠乗りも愉しめる自転車で、英国ロードスターに起源を求めます。
クルマで言えば、背が高めで乗りやすく、荷物も積めて、ドライブも楽しめる現代のSUVのような存在でした。
頑丈すぎる荷台やスタンド、丈夫だけど重い足まわり。その後誕生した「軽快車」はこれらをライトな仕様にしたものですが、今見ればちっとも軽快ではありませんでした。
この時点でもまだ、ブレーキは、鉄の棒を連結したロッド式でした。これも当時の品質のせいでもありますが、ワイヤーは切れるという抵抗感があったのです。
このころは、ワイヤー式ブレーキでリアハブに内装変速を備えているだけで、立派に「スポーツ車」と謳うことができました。この「スポーツ車」は、現代なら実用車に見えてしまうようなもの。
外装変速機はすでに存在しましたが、一般の方にはまだ抵抗がありました。
——と、ここまでは、先の東京オリンピックまでのお話です。六ちゃん( ※1)が修理していたのが、まさに実用車のロッドブレーキでした。
しかし、70年代に入って、さくらさん(※2)のミニサイクルのブレーキはワイヤー式になっています。
このことからもわかるように、人々の中になんとなくアレルギーがあったひとつひとつの要素が、時代を経て普遍化してきました。
現在、街角で見かける外装変速を装備したママチャリなんか、当時へタイムスリップさせれば、垂涎のスポーツ自転車になったことでしょう。
そう、外装変速は今ならママチャリに普通に装備されていますが、以前は一般の方にはとても嫌われていました。
理由は「チェーンが外れるから」。かつての自転車の鬱陶しさは、パンクと並んでこれでした。外装変速は、チェーン外れを増長させてしまうと考えられていたのです。
北の地では、外装変速でもないのにれいちゃんの自転車のチェーンが外れてしまい、純くんが修理してあげていました(※3)。
しかし現代では、日本で販売されている自転車の4割以上が外装変速だそうです。スパスパ決まる変速機能充実化の恩恵もあるのですが、一般の方の外装アレルギーがすっかりなくなったと言えます。
裏話として、ボトムラインでは外装変速の方がコストを抑えられるという業界事情もあるのですけど。
そして、現代。クロスバイクやミニベロを普通に街で見かけます。スポーツバイクのもうひとつのハードルであった、前傾ポジションに対しても抵抗が薄まったように感じます。
フレームジオメトリーのせいもあるのですが、女性の方がカッコよくスポーティなポジションでお乗りのようにも思います。
またスーパーやホームセンターでは、超エントリーなクロスバイクも相当数が販売されているようです。大きなアレルギー要素であったドロヨケなしの仕様も、抵抗なく受け入れられるようになりました。
クロスバイクを中心として、今ではもうスポーツバイクがママチャリにとって代わろうとしている……と思いませんか。
以上、簡単な系譜を記しましたが、次回は背景をもう少し深堀りしたいと思います。
Profile
編集部注……※1 映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で、堀北真希が演じた星野六子のこと。舞台設定は昭和33年の東京。
※2 山田洋次監督による国民的映画・ドラマ『男はつらいよ』シリーズの主人公・寅次郎の妹。倍賞千恵子が演じた。
※3 テレビドラマ『北の国から ’87 初恋』で、横山めぐみ演じる転入生・大里れいの自転車を純(吉岡秀隆)が直すシーン。
『自転車日和』vol.47(2018年4月発売)より抜粋