究極にシンプルながら、かくも奥深き乗り物、自転車。楽しみ方から歴史、モノとしての魅力、そして個人的郷愁まで。自転車にまつわるすべてに造詣の深いブライアンが綴る「備忘録エッセイ」です。
グラフで見る自転車と経済
栄枯盛衰がくっきりと
自動車生産世界首位をも争う日本の自動車メーカーさんが、販売戦略を見直し、車種数も絞る決定をされたとの報道がありました。手垢の付いた「若者のクルマ離れ」だけでなく、消費が低迷していることも背景にあるでしょう。
私たちが親しく接しているスポーツバイクの未来は明るいと信じていますが、現在も続く消費低迷の影響は、残念ながら自転車の販売状況にも及んでいるようです。
国内生産自転車の推移をグラフ化して(1)に示します。
第二次世界大戦後、国内生産はほぼゼロの状態から復興し、高度経済成長期には増産を続けます。
その後1974年と、1990年にふたつのピークが見られます。前者がオイルショックによる特需。1971年に始まったアメリカのバイコロジーブームによる対米輸出増加もありました。
当時は主としてアメリカへ毎年100万台ほど輸出していたのです。後者はバブル景気によるものです。
両者とも反動でその後は大きく数値を落としますが、21世紀になるまでは、6~800万台の国内生産を維持していました。このほとんどが一般用自転車で、春の新入学に向けて通学用の自転車も多く生産販売されました。
21世紀以降は輸入に転じ減少しますが、近年、金額は増加しています。これは国内生産の自転車の多くが電動アシストで、平均単価が高いためです。
対して輸入[グラフ(2)]は、1990年半ばまでは欧米からのハイエンドのみ。ほぼゼロの状態でしたが、1995年の円高と、台湾・中国の生産力向上で、21世紀以降に急増します。近年、台数が減っても金額が増加したのは、2013年から円安に転じたことと、原材料や人件費の高騰によります。
1990年以降は国内生産車が輸出されることはほとんどなくなりました。つまり、輸入自転車と国内生産自転車の合計が、国内での自転車消費の目安といえるようになりました。
(3)はその台数をグラフ化したものです。
東日本大震災の影響もあって、2011年に1053万台のピークがありますが、その後減少を続けています。
2017年では767万台となり、2011年比で73%になってしまいました。2018年は8月までの実績が出ていますが、17年をさらに下回る傾向となっています。すなわち、国内での販売台数は2011年以降連続で減少を続けているのです。
対して自転車輸出[グラフ(4)]は、前述のように70年代のアメリカのブームでピークを迎え、オイルショックで急激に落ち込みますが、その後増加。特に金額面で上昇します。日本製のスポーツ自転車は、1980年代半ばまで、主にアメリカで高級車として扱われたのです。
その後はプラザ合意後の急激な円高と、台湾や中国からの輸出に押されて減少。しかし、今度は21世紀以降で急増に転じます。
輸出先はこれからの新興国となるアジア諸国、あるいはアフリカ諸国。放置自転車などで回収された自転車の多くが、そのままの状態で輸出されるようになったのです。
日本製でなくても、日本向けに生産された自転車は高品質傾向です。手を加えれば十分に生き返るとして、彼の地で二個一や部品取りによって愛用されているとのことです。
ただ、そのような自転車ですから金額は低く、2017年実績で平均単価は約1600円程度になっています。
さらに戦後から現在までの、経済関係の主なトピックスを列記しました。自転車においてもそれぞれの経済動向に影響を受けていることがわかります。
1949 年: ドル360円固定相場導入
1954 〜1973 年: 高度経済成長期
1971 年: ドル切り下げ308円固定相場
1973 年: 変動為替相場制移行
第一次オイルショック
1979 年: 第二次オイルショック
1985 年: プラザ合意 急激円高化に突入
1986 〜1991 年: バブル景気
1993 年: 消費税導入 税率3%
1995 年: 1ドル=79円台突入
阪神淡路大震災
1991 〜2002 年: 失われた10年
1997 年: 消費税5%に引き上げ
1999 〜2000 年: ITバブル
2004 年: 消費税8%に引き上げ
2006 〜2007 年: 不動産プチバブル
2008 年: リーマンショック
2011 年: 1ドル=75円台突入
東日本大震災
2013 年〜: アベノミクス始動 異次元規制緩和 急激な円安化
2014 年: 消費税増税 5→8%
個人消費低迷化
統計に基づき、私見を入れずに述べた結果、何かと暗い話題が多くなりました。
また、退屈な内容になった前編にお付き合いいただきましてありがとうございます。
ならばどうなんだということを、後編に示したいと思います。
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『自転車日和』vol.49(2018年10月発売)より抜粋