編集部スタッフの独り言コラム ~やっぱり自転車屋さんはすごいんです~

自転車専門誌の編集部には毎月数台の、多いときには10台以上の自転車がやってきます。主に商品紹介ページやインプレッション記事を作成するため、被写体用として自転車メーカーさまや輸入代理店さまからお借りする自転車です。

大きな段ボール箱に梱包されて送られてきますが、一般的に7分組みと呼ばれている、ペダルやサドル+シートポスト、前輪が外された状態で、ギュウギュウに詰め込まれていることが多く(プチプチや発泡材などで養生されています)、クイルステムやカンチブレーキなど、レトロスペック(といったら叱られるでしょうか?)の自転車は、さらにハンドル+ステム、ブレーキワイヤーが外されたまま届くことも。

組み上がった状態の自転車を直接、届けて頂くということもありますが(本当に助かります)、それはレアケース。遠方のメーカーさまや輸入代理店さまが、わざわざ新宿にある編集部まで自転車を届けにいくというのも、現実的ではありませんからね。
 
というわけで、撮影前の準備として最低限の組み立てと整備は編集部のスタッフがおこなうわけです。が、所詮は整備士の資格も持たない、いわば素人。手順は理解していても、プロのように短時間でビシッと形にするスキルは持ち合わせていません。

届く自転車の状態もマチマチで、ガッツリ試乗された痕跡のあるものから、完全未使用のド新車まであり、中にはそれなりに時間を割かないと撮影&試乗できないような車両もあったり、なかったり。置き撮り用の自転車であればまだしも、走行シーンを撮影する車両ともなると安全面を疎かにはできません。組みつけた部分は必ず再度チェック、素人なりに時間を掛けてしっかりと組み上げていきます。
 
如何せん、取材でプロがおこなうメンテナンスやカスタムの現場に立ち会っているためか、知識だけは一丁前。しかし、こんな生活を続けていても、年単位で見れば触れる自転車の台数はたかだか知れていますし、〈知っている〉のと〈やったことがある〉のとでは雲泥の差。

自宅のガレージ前で自分の自転車を整備しているとご近所さんから「すごいね、自転車屋さんもできそうだね」と声を掛けられることもありますが……できるわけないだろがーーー! 経験値が圧倒的に違うのですよ。

シートポストが固着していて動かないような、何年も雨風に晒された過酷な状態の自転車に接することはありませんし、そもそも遊びで自分の自転車を弄っているのと、仕事で他人さまの命を乗せて走る自転車を整備するのとでは、仮に同じ作業に見えたとしてもそれはまったくの別もの。限られた時間で、限られた予算で、責任を伴いながら、常にハイレベルのクオリティを保つ。それがプロの仕事なのですから。
 
さて、今回の1枚の写真、めねじのリコイルという作業です。作業に至った経緯をダイジェストでまとめてみました。
 
1.チェーンを張り直し、後輪側のスキュワーをアーレンキーで固定していると

2.「パキーン」と金属の棒が折れるような音が鳴り響く

3.当方「やばっ、スキュワー折れた」

4.確認、折れていない

5.当方「まさかアーレンキー?」

6.確認、やっぱり折れていない

7.なかったことにして作業再開

8.スキュワーのナットが締まらない

9.確認、ナットのねじ山がツルンとなくなっている

10.足下に小さなバネのような物体を発見
 
ナット側のねじ山がまるっと捥げてしまっていたのです。ねじ山をナメたという経験は幾度かありますが、捥げるというのは初体験。で、ここからが問題です。スキュワーのナットが少し珍しいタイプで、可愛らしい半球状の形をしていたのです。後輪を固定する分には、余っているほかのスキュワーのナットを使えば問題なし。しかし4箇所中(2箇所はボルト側)、1箇所だけナットの形状が違うというのは性格的に許しがたい。
 
1.いつもお世話になっている高円寺の自転車屋さんに相談

2.当方「かくかくしかじかで、同じナットが欲しいんですけど」

3.自転車屋さん「珍しい形ですね。部品で取れるかメーカーに聞いてみましょう」

4.自転車屋さん、メーカーに電話してくれる

5.自転車屋さん「ナットだけは取れないみたいです」

6.当方「スキュワーごとですよね、当然。それでお願いします」

7.自転車屋さん「いや、後輪まるごとじゃないと出ないらしいです」

8.当方「。。。」

9.自転車屋さん「気持ち悪いですよね、ひとつだけナットの形が違うの」

10.当方「はい。。」

11.自転車屋さん「じゃあリコイルしましょうか」

12.当方「!?」
 
ご存ない方のためにリコイルについて少々説明を。まず、専用の工具を使ってねじ山がなくなったナットの内側を削り、新たなねじ山を作ります。この新たなねじ山、以前のねじ山より径が大きくなっているため、おねじを固定することはできません。

そこで、ねじ山にリコイルインサートという小さなバネ状の部品を装着します。するとリコイルインサート自体が新たなねじ山となり再度、ボルトが固定できるようになる、という仕組みです。しかもリコイルインサートのフープ応力により、各ねじ山に掛かる負荷が分散、元のねじ山よりも強くなり、締結力が飛躍的にアップします。

母材がアルミのように強度の低い金属であっても、リコイルすることで強度の高いボルトが使用できるようになり、車体の軽量化にも貢献するため、モータースポーツの世界では割りとよく使用されるチューンアップ技術のようです。
 
このリコイル作業のおかげで、スキュワーの前後セットを購入するよりも低予算で(後輪を丸ごと購入するよりもはるかに)、オリジナルのナットをまた使用できるようになりました。

しかも、スキュワーの締結力は以前よりも向上しているというアップグレードつき。これぞまさしく〈ソリューション〉。

ユーザーの憂いに対して、的確なアドバイスを提示してくれる自転車屋さんは、まさしくプロ中のプロ。気持ちのいいサイクルライフを送るために、欠かすことのできない存在なのです(IDEさん、いつもありがとう)。
 

Profile

編集 トライジェット
MTBや小径車などを複数台所有する『MTB日和』&『自転車日和』編集スタッフ。「自転車はスポーツの道具ではなく移動道具」と割り切り、都内近郊の路地や暗渠(あんきょ)、山道の散策を楽しむ自称ロジラー。

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