写真と文:星野哲哉
The PEAKSラウンド8奥日光
走行距離190㎞以上+ 獲得標高5000m以上というコースを、12時間半以内に走るというイベント。今回は、奥日光湯元温泉から、金精峠を越えて白根ドライブインまでの往復をしてから、山王林道、川俣温泉を経由して霧降の滝駐車場までの往復をするというコースが設定された。コースの過酷さだけでなく、「完全自己責任での個人ライド」を原則としており、コースに案内表示や誘導スタッフがいなかったり、トラブルへの対応なども自己対応なのも特徴だ。そのため、日本のロングライドイベント史上、最も完走が難しいライドイベントと言われ、「真の坂バカ」たちが集まってくる。
完走できるかギリギリのイベントに参加してきた
「日本最強! 最悪!」
こんなキャッチコピーが躍るライドイベント、The PEAKSに参加してきた。二年前に長野県の蓼科で開催された回(この時の模様は、自転車日和53号に掲載)に次ぐ、二回目の挑戦だ。
今回の会場は、栃木県の奥日光。日光の有名な観光地、中禅寺湖を過ぎた先の、奥日光湯元温泉をスタート/ゴール地点とし、走行距離193km/獲得標高5121mを走るコース。これを、12時間30分以内に走ったら完走となる。
前回の挑戦では、途中のチェックポイントでタイムオーバーになり、リタイアに終わった。それだけに、今回こそは完走したいのだが、ろくに走ることなく大会まで残り二か月になってしまった。
さすがにこのままではマズいと思い、平日はインターバル的なもの、週末は数時間のロングライドといったトレーニングを始めることにした。
大会まで一か月を切った頃に、コースの試走にも行った。折り返しにあたる霧降高原の登りからゴール付近まで。終盤の70kmにあたるところを走った。
試走の結果をもとに、本番でどのくらいの時間で走れるか計算してみた。制限時間内で完走するのは厳しそう。頑張ってギリギリいけるかどうか。当日に向けて、作戦(と呼べる代物ではないが)を立ててみた。
● エイドステーションで長居をしない
● 序盤で飛ばしすぎず、一定ペースで走る
迎えた本番当日。朝5時半のスタートに向けて、参加者が集結する。前日宿泊した宿の同部屋の方から、「ゴールの制限時間は皆一緒だから、少しでも有利になるように、早く来てなるべく前の方に並んだ方が良いですよ。」とアドバイスを受けていた。それなのに、宿を出ては忘れ物に気づいて部屋に戻る、というのを繰り返して、結局後ろの方の並びになってしまった。
スタートして最初の、群馬県との県境、金精峠までの約6kmの登りで早くも、ほとんどの方に先に行かれひとりぼっち状態になってしまった。その後、1時間半遅れでスタートした「変態割」組と、2時間半遅れでスタートした「ド変態割」組にもあっという間に抜かれ、ほとんどのコースをひとりで走り続けた。
完走がほぼ絶望的な中 ゴール地点へ走り続ける
やがて、サイクルコンピューターの走行距離が、全行程の半分の距離を指した。ここまでの所要時間を単純に倍にすると、なんとか制限時間内におさまる。「完走できるかも?」という考えが、一瞬頭をよぎったが、冷静に考えると、登りはまだ全体の半分もこなしていない。登りを考慮して計算してみると……。深く考えても仕方がない。黙々とペダルを回し続けた。
The PEAKS には、コースの途中にチェックポイントがある。足切り時間が設けられていて、これを過ぎると走り続けることができない。霧降高原へ向かう途中の六方沢展望台が、チェックポイントになっている。間に合わなかったら、リタイアするしかないが、間に合ったらどうしようか?
なんて考えていたら、足切り時間の5分前に着くことができた。すぐに出発すれば、ルール上はまだコースを走れる。だが、行ったところで制限時間内にゴールをすることは絶望的だ。この先の下って折り返して登る道は、試走でキツかった道だけに、進まずに今来た道を引き返そうか悩む。悩んだ結果、戻らずに先へ進むことにした。
ツラい登りを終えて下っていると、後ろから追いついてきた人がいた。自分が最後尾だと思っていたからビックリした。パンクを重ねた上に、脚を痛めて遅れていたらしい。残りの道を一緒に走ることになった。
川俣温泉までの道を走り最後に待ち受けるのは、山王峠を越える林道。道幅は狭く路面は荒れていて、長い登りが延々と続く。このあたりになると、今まで皆さんどこにいたのか、ちらほらと参加者の姿が見えた。運命共同体のように、声を掛け合いながら最後の峠を登っていく。
走っている道は、何も明かりが無い山の中。次第に日没が近づく。真っ暗になる前に峠は越えたが、下りにさしかかってすぐに、一気に暗くなってしまった。その後ライトのバッテリーが切れるというアクシデントもありながら(スマホの懐中電灯で代用)、やっとのことでゴール地点に到着。制限時間から1時間半オーバーでのゴールだった。
『あなたの全てを懸けて挑むべきライドがここにある』
今回の参加募集ページにあったキャッチコピーだ。この本が発売されている頃は、オリンピックが開催されていると思うが、オリンピックがなぜ人々を魅了するのか?
アスリートたちが、全てを懸けている姿に心を打たれるのではないか。一緒にしてはおこがましいが、今回自分も、力の全てを懸けることができた。あきらめずに最後まで走って良かった。
Profile 星野哲哉
『自転車日和』vol.59(2021年8月発売)より抜粋