実録リアル自転車ライフ vol.25

写真と文:星野哲哉

レースが中止になったので
同じコースをひとりで走ってきました

お金を払ってヒルクライムレースにエントリーしていると、「普段タダで走れるところを、お金払ってツライことするなんて物好きだねぇ」という声を聞くことがある。

今回タダで同じコースを走ってきたが、お金を払う意味があることに気がついた。共に走る同士や沿道の応援があることで、普段以上の元気がもらえる。

そしてこれらは、お金を払ってエントリーしたからこそ得られると。来年は無事に開催されることを祈ります。

滝雲で有名な峠を
朝飯前にヒルクライム

今の編集部で働いて20年になる。多少の入れ替わりはあるが、多くのスタッフが変わらず働いている。

当時は20代だった者たちが40代になり、話題は健康診断での数値が上がっただの下がっただのとなってきた。健康診断の特徴として、健康状態を前年と比較できる点がある。

そう考えると、毎年のように同じレースに出るのは、自転車乗りにとっての健康診断と言えるかもしれない。脚は動いているか。呼吸は苦しくないか。激坂でも辛くないか。最終的に、タイムという結果が出るからわかりやすい。

Mt.富士ヒルクライム、枝折峠ヒルクライム、乗鞍ヒルクライム、赤城山ヒルクライムといったレースを、私も毎年のように走っている。年によって上下はするものの、だいたい横ばいっていうところか。

何年も走っているのに、全然成長がないとも言えるが、下降線をたどらずに健康を維持できているんだとも言える。

しかし今年は、これらのレースが軒並み中止になってしまった。関東地方の真ん中に住んでいる身としては、きっかけでもないと、わざわざ山へ行く機会もない。

その、わざわざ行くきっかけがやってきた。GoToトラベルだ。

9月の段階では、まだ東京都は対象外だったが、きっかけには変わりない。レースと同じコースを走りに行ってみることにした。

9月上旬の平日。友人が経営する温泉旅館に、妻と一緒に行くことにした。

当初の目的は、妻が応援するアルビレックス新潟の試合を見に行くことだったが、旅館のある地は、枝折峠ヒルクライムを毎年行っているところ。当然のように、クルマに自転車を積んで出発した。

サッカーの試合を見て、宿に着いたのは23時過ぎ。翌朝5時に起きて、ヒルクライムに臨んだ。

走り始めてしばらくすると、最初の激坂が訪れる。緩い斜面を気持ちよく走っていたところに、いきなりガツンとくるので、なかなか堪える。

まだ走り始めて少ししか経っていないのに、「戻ろうかな」というヘタレな気持ちが湧いてくる。

その後も、「キツいなぁ」「あと何キロだろう」「ここで引き返そうかな」と自問自答を繰り返しながら、なんとか登り続ける。

レースではないので、今回は余力を残す感じで楽に走ることを意識したつもりだったが、それでもキツいものはキツい。

1時間以上経ってようやく、レースの時より10分ぐらい遅いタイムでゴール。なんだかんだ言って、走りきると気持ち良い。レースの日は、ここでスイカが振る舞われる。

ちなみに枝折峠は、雲海ならぬ滝雲が見られるということで、近年有名なスポット。峠の駐車場には、滝雲を見にきたであろうクルマがたくさん止まっていた。

私もせっかくなら、と思っていたが、見えるタイミングは日の出の直前とのこと。その時間までに登るのはさすがにキツいので諦めた。

宿に帰ると8時ちょっと前。風呂に入ってちょうど朝食だ。「よくあんなところ登るねぇ」と妻に呆れられたり、宿の友人には「タフですねぇ」と感心されたりしたのも、ちょっぴり誇らしい。

一年に一度は走っておきたい
乗鞍ヒルクライム

自転車で走っていける、日本最高地点。乗鞍。ここから見える絶景は、やっぱりハズせない。10月になると寒くなると思い、9月の4連休に行くことにした。

宿を探そうと電話をしてみたら、「いっぱいだったけれど、さっき二人組のキャンセルがあったから、ひとりだったら大丈夫ですよ」とのこと。

行楽シーズンの連休でGoToトラベルが始まったところで、直前に都合よく空いてるわけもなく、ラッキーだった。

乗鞍までは輪行で行くことにした。松本駅まで特急あずさに乗り、松本からはアルピコ交通の鉄道とバスを乗り継ぎ乗鞍まで。

松本から乗鞍までの道は、狭くてカーブが多い山道。途中にはクルマで道幅がいっぱいになる狭いトンネルがいくつもある。

この道を自転車で走る猛者もいるらしいが、クルマでも走りたくない私からしたら考えられない。今回は往復ともバスを利用したので、とても楽に行くことができた。

宿で一泊し翌朝、乗鞍のテッペンを目指して走る。

今回もゆっくりと景色を堪能しながら走るというテーマのもと臨んだが、時折押し寄せる激坂は、ゆっくりなんていうペースで登れるほど甘くはない。最後の方は、ほとんど止まりそうなスピードだった。

10キロほどの距離の枝折峠に対し、乗鞍は倍の20キロ。かかる時間も倍で、それだけ耐える時間も長かった。

しかし乗鞍では枝折峠の時とは異なり、次から次へと降りてくる人や抜いて登っていく人がいる。その際に「こんにちは~」とか声をかけられるだけでも、元気が出てくるから不思議だ。

ゴール地点の畳平バスターミナルは、多くの人でごった返していた。自転車で来た者だけでなく、登山客でにぎわっていた。

今回この地に来て気がついたのは、関西方面から来ている人が多いこと。東京がまだGoToトラベルの対象になっていないのもあって、関東方面から来た人の割合はとても少なかった。

登ったら今度は下山。反対車線には、まだまだ続々と自転車で登ってくる人がいる。泊まった宿のご主人の話では、ヒルクライムレースをやる予定だった日は、1000人ぐらいの人がやってきたらしい。

レースのために予約していた宿をキャンセルせずに、そのまま来た人も多くいたそうだ。

観光センターまで下り、自転車を輪行袋にしまい、帰りのバスに乗り込む。予定では、その前に温泉に入るつもりだったが、登るのが遅かったせいで、時間がギリギリになってしまった。

乗鞍では、最近eバイクのレンタルを始めたそうだ。頂上までバッテリーも持つらしい。

そういえば、すれ違う人の中に、eバイクの人もいた気がする。これなら楽に登れて景色も存分に楽しめそうだ。今度走るときはeバイクを借りて走ることにしよう。

乗鞍岳の山頂は、バスターミナルから300mぐらい上にある剣ヶ峰。できれば登ってみたかったが、時間の都合上、すぐ近くの魔王岳に登って帰ってきた。3時間ぐらい余裕をもてば行けそうなので、次行く時はそれも加味して予定を立てることにしよう。 

 

Profile 星野哲哉

同じ社の別の編集部で働くアラフィフ社員。最近、映画「弱虫ペダル」を観に行ってきた。スポーツものの実写にとって、いかにしてリアリティさを出すかが鬼門だと思っていたが、この作品は、メインの自転車に乗っているシーンに嘘くささが全くなく、逆に、坂道を登るシーンはどうやって撮ったのかが気になっている。

『自転車日和』vol.57より抜粋

- 連載, ロードバイク