風を感じ、音を聴く。ほどよいスピードで道端の小さな花に気づく。それぞれの土地で人々とふれあい、自分と向き合う。そんな自転車旅の魅力にとりつかれたサイクリストのストーリーをつづります。
カナダ横断自転車旅
19歳の夏、北海道を旅した。29歳の夏は?
ワーキングホリデーで訪れていたカナダ。せっかく北米大陸にいるのだから陸路でそのサイズを体感したい。
決断後、バンクーバーで今の愛車KHSのTR-101を購入、旅に必要なものを準備し、友達の協力も得て自転車の修理道具や靴などもそろえることができた。
カナダ大陸約4500キロの横断旅行、どんな冒険が待っているのだろうか。
2018年5月15日
ワーキングホリデーの拠点として滞在していたウィスラーを出発。ウィスラーからリロエットへ抜けるダッフィレイクロード、 初日にこの急な山道は、辛かった。
クルマで登るのも大変な坂。休み休み登ったが、途中で野宿を決めた。
初めての森のなかでたったひとりでの野宿は、緊張よりも疲労感が強く、思ったよりぐっすり眠ってしまった。
5月24日
ロッキー山脈のロブソン山が目の前に見えてきた。ジャスパーに向かう途中は、ロッキーの山々に囲まれて走る。
日中は、日射病に悩まされるくらい日射しが強いが、朝晩は歯が噛み合わないほど冷え込む。
ついにロッキー山脈を前にした時は、その偉大さに感動して、まさかの涙が出た。
アイスフィールドの展望台までは恐ろしい坂と向かい風。登りきった感動よりも寒さと疲労が強かった。坂の途中では多くの人に声をかけてもらえ、心強かった。
ロッキー山脈では野生の熊や鹿によく出会った。熊を真横に発見した時は、何も考えずに前だけを見て走り抜けた。
クルマやバイクと違い、スピードもでない、身体を守るものもない。生身対生身。キャンプをしているときも常に耳は森へ向かっていた。ある意味、私も野生にかえっていた時間だった。
バンフからは旧道を走ってカルガリーへ抜けた。 久しぶりの街、クルマを避けながら必死で走っていたが何度もクラクションを鳴らされる。
友だちの紹介で同じく自転車でトロントへ向かう友だちと合流した。
ウィスラーを出て約1ヵ月ひとりで走っていたが、これからはカナダ人と二人旅。一人旅とはまた違った味わいがある旅になっていった。(つづく)
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『自転車日和』vol.56(2020年7月発売)より抜粋