温故知新 猿屋の山チャリズム《マレット》編 Part.2

時間の流れ振り返ることで見えてくる未来のMTB像。このコーナーでは誕生から現在に至るまで、日本のMTBシーンのすべてを見てきたノリさんから、引き続き興味深いお話をうかがいます。

今泉紀夫
ワークショップモンキー店主。MTB誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。
http://www.monkey-magic.com/

メーカー車のラインアップにも、エントリーモデルなどには小柄な人向けのモデルが少ないながら残っているようですが(XSサイズを26インチに設定するなど)、そういう感覚で車輪を小さいものへ入れ替える発想はあっていいと思うんです。

マレットの乗り味云々という話ではなく、例えばうちのカミさんは身長は150センチしかなくて、乗りたいと思っても実際、29インチには乗れないわけですよ。

自転車は歩くこととは別の楽しみを感じられるスピーディに移動できる倍力装置だったりするので、そう考えると履けないサイズの靴を無理やり履かされて山道を歩けと言われているようなもので。流行り廃りではなく、現状でも車輪の大きさが選べるのであれば、無理なく乗れるサイズの方がいいと思うんです。そういう意味でマレットを捉えることもできるのではないでしょうか。

小径後輪を使うというアイデアは昔からありましたし、それを今の時代にアレンジしつつ、甦らせてみるのもいいと個人的には考えています。「だったら前後小径でもいいのでは?」という問いもあるかと思いますが、オフロードでは車輪が大きい方が乗り越え抵抗が少ないので楽ですよね。なので、前輪が大きくて後輪が小さなマレットは理にかなっているんです。

モンキーのルーツを振り返ると26インチがスタンダードだった時代、女性や小柄な方向けに前輪が26インチで後輪が24インチという車両は作っていました。その後、フロントサスペンションが登場したこともあり、フレーム設計を工夫することで、なんとなく前後26インチでうまくまとめられるようになった時期もありました。

でも、29インチが主流になってくると体格的に難しくなってくる人も出てきますその流れの中でまた実験を始めて、ジオメトリーを見直しながら下り系にも強い98SO9というハンドメイドフレームをビルダーと作り始めました。

「ひとつの設計で身長の差のある人が乗れるバイクを」というモンキーのコンセプトの基(SO)に立ち返ってみて、基本は29インチ用のフレームながら、小柄な人であれば後輪を27.5インチにすれば足つき性がよくなることまで視野に入れて設計しています。

多少BBハイトが下がり、ヘッドアングルが寝ぎみになりますが、それでもモンキーらしさを失わない範囲で遊べるフレームに仕上げることができました。世の流れはどうしても流行りに左右されがちですけど、30年以上みてきた時間を振り返ってみると、結局は似たようなことを繰り返しているんだと改めて感じます。

 

MONKEY 98S09 (マレット仕様)

モンキーバイクとしては2代目となる29インチフレーム、98SO9。クロスカントリー系の発想から生まれた初代29インチフレーム(レディメイドの98ST9を含む)と異なり、流行りのバイクパークのようなフィールドでの遊びまで視野に入れた下り要素を持つモデルだ。メーカー系の下り寄りの車体にはない、モンキーらしさが継承されていることは言うまでもない。

 

『MTB日和』vol.52(2023年3月発売)より抜粋

 

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