過去を振り返ることで見えてくる現代の、そして未来のMTB像が見えてくる。今回は流行の〈下り系〉ではない、山遊びを前提としたフルサスバイクをテーマに取り上げ、お話をうかがいました。
今泉紀夫
ワークショップモンキー店主。MTB 誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。
話は30年ほど遡ります。当時はマングースなどのメーカーがリアサス付きのMTBを作り始めた頃で、ダウンヒルの流れが勢いづき、アメリカを中心にダブルサス(フルサス)が注目され始めていました。
フロント側はすでにロックショックスやマニトウなどが台頭していて、リジッドフレームにフロントサスを取り付けるスタイルはかなり形になっていました。ダブルサスは大メーカーではなく、中小規模なメーカーがガレージブランド的に手がけていた印象で、AMPもその中のひとつ。
「フロントサスに追加してよりなめらかに走る」という発想でした。
ほかにもリアサスを開発するメーカーはありましたが、AMPのシステムはモンキーのようなクロモリフレームとも相性がよかったんです。
模倣から入っていく時代でしたし、自分たちでもオリジナルのシステムを考えていましたが、特許問題など難しい部分も出てきたので。AMPからマングースと同じシステムを供給してもらえたのは運がよかったと思います。
そこからピボットなどの小物作りを研究したりして、モンキーのダブルサス開発が本格化していきました。
スケルトン的にも「提示されたデータの範囲内で収めてもらえばいい」という大雑把な時代でした。マングースのアンプリファイアは少し腰高に感じたため「自分たちが山の中で使うなら、もう少し初期から動いて欲しい」とレバーの関係とかを見直しながら、それまで続けてきたリジッドフレームの設計の中に落とし込んだり。
理屈で考えるより先行して作ってみる…… 思ったより上手くできたと思います(笑)。その後、世のダブルサスはダウンヒル方向へ特化し、クロスカントリーは材料置換でハードテイルにカーボンを使って衝撃吸収する方向へ。「ショートストロークのダブルサスはいい感じに作れない」のように。
最近、縁があってエレメントに乗り始めましたが「気持ちよくこいで走れて、下りもそれなりに快適」という枠を捨てずに開発し続けていてくれたんですね。
大手のマスプロダクトはやりすぎというか、いい意味でレースバイクになり過ぎた感じですが、エレメントはいわゆる直押しのシステムにサポートリンクを入れたシンプルな構造で、凝ったフレーム設計ではありません。
メーカー的にはレースバイクのカテゴリーなのでしょうけど、大手メーカーが作るゴリゴリのレースバイクとは違います。自分にとっては90Kampの延長線上にある、現代版ダブルサスなんです。
日本人はレーシング好きだし、自分もオタクなので気持ちはわかります。でも「普段使うのであれば、マイフェイバリットはこっちだよね」と。だからモンキーはオーダーフレーム作りを続けています。
日本の山で乗ってもらうのならクロモリハードテイルの範疇でもそれができますから。
MONKEY 90Kamp
モンキー 90Kamp
90年代中期、マングースとのコラボモデルを世に送り出したAMP 社からリアサスペンションシステムの供給を受けることで生み出されたモンキーのフルサスバイク。オリジナルのクロモリフレームにAMP社のB2、B3アルミバックを組み合わせたモデルが当時、10台以上生産された。
今泉さんが現在のフルサスバイクを検証すべくパートナーの1台として選んだモデル、ロッキーマウンテンのエレメント。90Kampの開発コンセプトに通じる「単なるレーシングバイク」ではない乗車フィールが得られるという。
『MTB日和』vol.54(2023年10月発売)より抜粋