温故知新 徒然MTB談話室 第3回

「コースデビューはもう少し上手くなってからじゃないとカッコ悪いし。まずは身近なトレイルでコソ練してから……」そんな声を耳にしたことがあります。気持ちはなんとなくわかりますが、それってちょっとおかしい? そもそもMTB専用に作られたコースとさまざまな人が利用するオープンフィールドは似て非なるもの。今回のおふたりの会話にその答えがありました。
 

Profile

  

中沢 清(写真左)
CSナカザワジム店主。西多摩マウンテンバイク友の 会会長として、MTBを取り巻く環境の改善と次世代の マウンテンバイカーの明るい未来のために日々奮闘中。 弊誌『MTB日和』ではインプレッションライダーも担当。
今泉紀夫(写真右)
ワークショップモンキー店主。MTB誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。

 
中沢:昔、雑誌で見たんでけど、ノリさんたちがパンプトラックっぽいもの作ってたの、あれっていつ頃でしたっけ?

 
今泉:2000年過ぎくらいですね。身近なフィールドとして、うちはちょうど狭山周辺から離れてほかに場所を移したんですよ。

それでこれを作ってたんです(当時のMTB専門誌を開きながら)。アパートを借りてね。猿小屋なんて呼んでいました。うちらが草刈って、走りやすいようにしていたら道がきれいになって、歩きやすくなって。

そうしたら、地元の山岳愛好家たちが利用するようになり、結果、自分たちは使えなくなっちゃったんですけど。まぁ、お役に立てたみたいだから、それはそれでよかった。

 
中沢:これを見て思ったんです。みんなが山で安全に、楽しく、長く乗れるようにするにはこういう場所が必要だと。

で、自分にも同じことができるんじゃないかって。そんなとき、お客さんが自転車で散策中にたまたまいい斜面を見つけてきたんです。

あとは畑仕事をしている人をつかまえて「ここの持ち主だれ?」って聞いて、地主さんを直撃して。荒っぽいんですよ、やり方が(笑)

 
今泉:おっしゃる通りで、うちらもツーリングで廃道を見つけては興味を持ったりして。そういうのが根本にあるんでしょう。

 
中沢:性です(笑)

 
今泉:キヨシさんはよく自虐的にエゴっていうけど「この斜面いいよね」っていう欲望があってこそじゃないですか。だから衝動的に動けるんですよ。望まなければなにも起きませんから。まぁ、欲望はみんなあるんだけど持っているだけで。

 
中沢:思考のポイントがちょっとズレてると動き出すわけですよ(笑)多分、海外の濃いローカルシーンもそこを放っておけない人、なんとかしたい人が「走りたい」という欲望で動き始めたはずですから。

いまから30 年ほど前、多摩テックで開催されていた「モンキーカップ」。現在のようにシステムができあがってない時代、今泉さんが遊び心をエッセンスとして加えながら、手作りで運営していたレースイベントだ。

今泉:純粋にただ乗っていただけかもしれないけど、その行為を続ける情熱があってこそ。日本人は、国民性というか、自分もそうだけど、いい子過ぎちゃうと結局なにもできなくて。ちょっと元気すぎるくらいの人がいないと。

 
中沢:東京都自然公園利用ルールのときもそうでしたけど、市とか行政とかが管理する場所でなんらかの問題が起きたとき、自分はまず「なぜなんですか? どうしてダメなんですか?」って聞くんですよ。逆に「どうやったらダメじゃなくなるんですか?」って。そこを走りたいからなんとかしなきゃって、それだけなんですよ。

 
今泉:情熱がないと認めてもらえませんからね。決まりっていうのは国の法律だけじゃないし、ローカルの中で、生活の中で、自然と認めてもらわないと。

 
中沢:そう、まずそこを利用していたとか、守っていたとか、関わっていた人たちと面通しする。それだけでもできることがいろいろと増えます。ただ、大きいエリアは大変。だから、まずノリさんたちがやっていたように小さなフィールドからはじめたんです。

「MTBを販売するからには、買ってくれたお客さんが走れる場所も提供しないと」という中沢さんの思いを形にした下り系のショートコース、通称「タナトレ」。年齢や性別を問わず、気づけば集まったマウンテンバイカーたちが自主的に管理するようになっていた。作業自体を楽しんでいるキッズたちの姿を見ることも少なくない。

今泉:これは純粋に土地を借りちゃっただけ。まずアパートを借りて、隣接する同じ地主さんの土地に「コースを作ってもいいですか?」って聞いて。

梅なんかも採らせてもらってたし、それはそれで楽しかった。だから梅トレなんて呼んでいました(笑)

話題に上った通称「梅トレ」。左右を囲んでいるのがその梅の木。

中沢:変な話だけど、MTBと関係ない部分にも関わっていくわけじゃないですか。小さい箱庭コースを作っているだけでも楽しいんだけど、そこにいくまでの通り道で畑のおじさんや周囲の人とコミュニケーションを取っているうちにだんだんおもしろくなってきちゃって。

 
今泉:いろんなものくれるし(笑)

 
中沢:こういうのって走っているだけではつながっていかないんですよ。だからコミュニケーションが大事。

 
今泉:古い言い方だと「豪に入る」ってやつですね。

 
中沢:みんながみんな入る必要はないけど、入った方がおもしろいじゃないですか。

 
 今泉:変人だと思われても認められればそれでいいんですよ。

 
~中略(アルコール濃度上昇中)~

 
今泉:いまはダウンヒルのフィールドがあったり、MTBが簡単に楽しめるスポーツになったことは確かですね。

 
中沢:少しわかりやすくなったのかな。

 
今泉:でもね、そこから入っちゃうとオープンフィールドに出るときにルールがわからない。

 
中沢:いまの日本のトレイルにはわかりやすさがないですからね。だからこそ、わかりやすいトレイルが必要。地元だったり自治体なんかと関わりながら、ここはこうするとか、ルールを作っていく時代だと思います。

 
今泉:レースなんかの危険は守られた中の危険であって。万が一、オープンフィールドで滑落事故でも起こしたら……。

 
中沢:楽しくなるとわからなくなっちゃうことがありますしね。自分がどんな状況におかれているのか。

 
今泉:仮にレースで死に至る事故に遭遇してもそれは契約上の話、自己責任で済むけど、外でそんな事故を起こしたら大変。まわりにめちゃくちゃ迷惑がかかる。うちらが山に入るときは当時、20mくらいの細引きは必ず持って入ったり、とにかく自力でなんとかするという考え方が当たり前だったけど、最近はそういう話をメディアも取り上げないし。

 
中沢:ユルいといわれる公園の丘陵地帯でも、足首を痛めて動けなくなったら季節によっては凍死しかねない。よく自己責任っていうけど、そのフィールドに救急車が呼ばれるような事故があったら、そこはもう走れなくなる可能性だってあるんですよ。厳しい言い方をすると、

 
今泉:ダメなやつは来るなっていう世界。

 
中沢:別にハードルを上げるつもりはないけど、自然てそういうものじゃないですか?

 
今泉:お互いに不幸ですからね。ダメなやつを死なせないように「来るな」というのは愛情です。

 
中沢:閉め出すとか、そういう意味じゃなくてね。うちでもお客さんから「自転車買ったから山に連れていって」とよく言われますけど、気安く連れてはいけません。

 
今泉:みんな権利、権利って口にするけど、その権利には条件というものがあってね。

 
中沢:後ろを走っているお客さんの安全を100%守るのは不可能です。どんなにペースを作っていい形で走っていても、後ろでなにかすれば突然、転ぶことはありますから。

 
今泉:できないことを無理にやらせるというのはよくない。泳げない人を無理やり泳がせたりしないでしょ? 死んじゃうから。

 
中沢:自分がコースを作ったのは、どういう状況になったら自転車は転ぶのか、自分なりの基準を知ってもらうための場所が必要だと思ったから。それを山でやるのは絶対にダメ。

 
今泉:コースであったりレースであったり、そこで学べばいい。

 
中沢:だから、小さくてもいいから楽しみながら学べるコースを作りたかったんです。ぼくはノリさんがまいた種を勝手に拾って真似てるだけですけど、いまはそういう活動が全国各地にいい感じで広がってきていますね。

 
今泉:バイクは進化しているけど、やっていることはそんなに変わりません(笑)

 
中沢:コースでスクールを開催している人もいるので、それらを利用してみるのもありですね。

 
写真:村瀬達矢 文:トライジェット
『MTB日和』vol.33(2018年2月発売)より抜粋

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