究極にシンプルながら、かくも奥深き乗り物、自転車。楽しみ方から歴史、モノとしての魅力、そして個人的郷愁まで。自転車にまつわるすべてに造詣の深いブライアンが綴る「備忘録エッセイ」です。
自転車の代名詞だったリム
ポイントは規格と精度
かつて、自転車は「銀輪」と言われていました。現代のスポーツバイクはコンポーネントが注目されがちですが、〝銀色の輪〟、つまりリムが自転車の顔であったのです。
また、自転車を商う屋号には、「鈴木輪店」や「内藤輪業」というのも見られます。ある社の自転車部門は「輪界営業部」と称していますし、「輪行」というのもありますね。
自転車を代表する〝輪〟。奥深さいっぱいです。
シンプルだけれど、ニットのように繊細に編まれたスポーク。普通は組み立ててみようとは思いませんね。
しかし、もちろんスポークの調整ができるほうが、アクシデントの緊急対応に役立ちます。
フレームとのタイヤクリアランスが少ないロードバイクなどでは、リムが振れて(※)しまうと、自転車を押してお店まで行くことすら難しい場合もあるのです。
とはいえ、ホイール調整は、自転車の組立調整の中でも難しい部類です。まずは行きつけのお店、あるいは詳しいお仲間さんと親しくなって教えてもらってはどうでしょうか。
各国で独自の発展を続ける中で、ホイールには多様な寸法規格が生まれました。
クルマのホイールの場合はETRTO規格に収斂されており、ドイツ車でもフランス車でも、あるいは大統領おススメの米国車でも、日本で容易に補修ができます。
しかし自転車の場合、少し様相が異なるのです。
ハイ、出てきましたね、時たま目にする「ETRTO」。自転車に限らず、さまざまな輸送機器ホイールに関する欧州発祥の規格です。
ジェット機の着陸用タイヤも、耕運機のタイヤも、みんなETRTOで規格されているのです。欧州内ですらバラバラだった自転車のホイールを、この規格に統一していこうという流れができています。
しかし各国の思いもあり、なかなか進んでいないのが現状。ETRTOは日本工業規格(JIS)とも少し乖離がありますし、国際規格ISOも、ETRTOにならい始めてはいるものの、一部に従来規格も残しています。
このことから、一部のリムとタイヤで相性のよくないものがあるのです。欧州ブランドと日本ブランドを組み合わせる場合は気をつけましょう。
これに対し、規格がほぼ統一されてきたのがマウンテンバイク。このジャンルの大きな功績として、世界共通の寸法規格を作り上げたことが挙げられます。
米国発祥のMTBですが、80年代半ばまで日本から多くの車両が輸出され、必然的にこの日本規格がベースになりました。その後、輸出元は台湾や中国に移りますが、寸法関係は踏襲されます。
MTBは日本で普及しただけでなく、当初は難色を示していた欧州でも受け入れられ、今では新興国やそれに準じた国々でも普及しています。
欧米でトレッキングバイクと呼ばれるクロスバイクもMTBから派生したものなので、この規格に準じているわけです。
歴史の長いロードバイクも、現在はスローピングフレームやアヘッド、オーバーサイズなど、MTB由来の規格を多く取り入れています。
グローバル化が難しかった自転車ですが、近年のいわゆるスポーツバイクは、MTBのお陰でグローバル化したとも言えます。
ただし、ミニベロやツーリング車、ピストなどは、少し注意が必要です。これらの自転車は、ホイールの寸法関係が大変ややこしい。
あんまりややこしいので、ここでは注意喚起のみに留めます。詳しくはラレーのコラムに記していますのでご参考になさってください。
リムに求められるのは、ほかの部品でも問われる強度や機能だけではありません。今まで述べた寸法、そして「輪」の精度が非常に重要です。
精度がイマイチでもホイールの形にはなりますが、スポーク張力が不均等になったり、タイヤバーストの恐れがあったり。
精度の高いリムできっちり組まれたホイールは、優れた走行性能を持つだけでなく、頻繁な調整からも解放してくれます。
つまり、いいホイールとは「タイヤとの相性がいい」ことを大前提に、強度だけでなく円の精度も高く、誠実なものであると言えるでしょう。
いいホイールに出会いたい。それならそのための第一歩は、長年の歴史の中で確立された精度を誇る、そんなメーカーのリムを選ぶことから始まる……。いえいえ、宣伝のつもりではないのですけど。
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※編集部注……「リムが振れる」とは、ホイールのバランスが崩れた状態で起こる現象のこと。ここでは歪んだリムの影響でタイヤがフレームやフォークに干渉し、車輪がうまく回転しない状況について述べている。「ホイールが振れる」とも。
『自転車日和』vol.43(2017年4月発売)より抜粋