写真と文:星野哲哉
梅雨の晴れ間を狙って、ちょっと身体を動かしてくるか、ぐらいの感覚で走ってきた。観光スポットも激坂も自然も何もないが、一生懸命走るだけが自転車じゃない、という原点を思い出した。
久しぶりの100㎞ライドで心地よい疲労感を味わう
自転車といえども、コロナ禍の中遠出をするのは気が引けたので、乗るにしても荒川を河口まで行って帰ってくるぐらいだった。
緊急事態宣言が解除され、都道府県間の移動も解禁されるようになって、ようやく後ろめたい気持ちを持たずに走れるようになったので、隣県の埼玉県まで走りに行ってきた。
そもそも、家から会社のある新宿より県境の方が近いのだが。
走ったのは、荒川を上流へ行き、45㎞ぐらいのところで東方面へ進路をとり、北本市内を抜けて緑のヘルシーロードへ。南下して芝川自転車道を経由して帰ってくる、約100㎞ぐらいのコース。
家から荒川へ向かう道。赤羽と川口市を結ぶ都県境の橋につながる道が、いつもより混んでいた。移動が解禁されて、皆どこかへ出かけようとしていたのだろうか。
それに比べて、サイクリングロードはのどかだった。
途中から、普段の道が工事のため迂回して、住宅街や田んぼのあぜ道に毛が生えたような道を走ると、家族連れでサイクリングする人や、ノンビリと散歩をする高齢の方などが多くいた。
100㎞ぐらいを走ったのは、2ヶ月半ぶり。想像以上に身体にきた。この全身にずっしりとくる独特の疲労感は、自転車じゃないと味わえないものかもしれない。なんだか懐かしい感じがした。
ロードバイクにまたがってしまうと、ついつい走りすぎてしまう。「こまめに補給を取りましょう」とか、あらゆる人が言っている基本中の基本を、当然わかっているのだけれど、走っていると「まだまだ平気」って感じで走り続けてしまう。気をつけないと。
ロードバイクでゆっくり
走ってもいいじゃない!?
翌週。梅雨の晴れ間に、またどこかに走りに行きたくなった。中止になった富士ヒルクライムのコースを登ってみるのも良いかもしれない。
高速バスの空席状況を確認してみると、午前中の便はすべて満席。それじゃあ、電車で行こうか。などと、計画を立てるのも久しぶりな感覚だ。
しかしここにきて、東京都の新型コロナの新規感染者数がまた増え始めてきた。やっぱり、むやみに出かけるもんじゃないのでは? と考えだして、いつまでもうじうじとして決まらずにいたところに、妻の助言が。
「そんなところは、また来年とかに開催されたらどうせ行くでしょ。こんな時だからこそ、近場をブラブラっていうのも良いんじゃないの」
確かに。ロードバイクに乗っていると、どうしても長い距離を走ったり、坂を登ったりしたくなってしまうが、たまにはそういうのも良いかもしれない。
隣の板橋区に「植村冒険館」というものがあるのを見つけた。冒険家・植村直己の業績を紹介しているらしい。ちょっと面白そうなので、行ってみることにする。
そういえば、周辺に東京大仏なんてものもあったはずだ。そこまで行ったら、豊島園の方に行ってみよう。この夏で閉園してしまうし。
そんな感じで、なんとなーく行くところが決まった。ざっくりと地図を見て、それぞれの位置関係を把握して出発する。
40分くらい走って、植村冒険館に到着。この日は、植村直己さんが行方不明になったマッキンリーに残された記録の展示を行っていた。
山頂に残された旗や、発見された装備、最後の日記など、当時のことがつぶさにわかる物が展示されていた。気付けば50分くらい堪能していた。
次の東京大仏までは、20分ほどで到着。名前は聞いたことがあったけど、これまで行ったことはなかった。建てられたのは40年ぐらい前とのこと。想像していたよりも立派な大仏で驚いた。
20分ほど滞在して豊島園方面へ向かう。少し道に迷ったりしながら、40分ぐらいこいで入場門の前へ。
一度も来たことがなく、初めて来たのが自転車で外周をぐるっと廻るだけとはいえ、子供のころから名前は聞いている有名な遊園地が閉園というのは、やっぱり寂しいものがある。
38㎞を4時間40分で走るノンビリ旅。思った以上に楽しかった。スピードを出して遠くまで走るのもいいが、家の周辺を走って新たな発見をするのもまた、良い。今度はどこへ行こう?
Profile 星野哲哉
『自転車日和』vol.56より抜粋