こんにちは! 昨年日本でMTBと出会い、今はカナダのMTB天国スコーミッシュにて日々トレイルに繰り出している寺井杏雛(あんじゅ)です。
前回のスコーミッシュMTBガイドに引き続き、今回はクマとの共存を目指すカナダBC州でのクマに関するルールと、MTBライド中のクマとの遭遇時の対策等をお伝えします。
1.クマとの共存
日本では、ちょうどクマによる深刻な事件が多発していますね。
衝撃的かもしれませんが、私はスコーミッシュにやってきて、もう何度もクマと遭遇しました。
家の前、トレイル上、バイクパークの中……どこにでもいます。
この写真は先日家の前に現れたクマ。
この光景が大ニュースになることもなく、日常茶飯事なのです。
なんと、ここカナダBC州ではクマは恐怖の対象ではなく、共存を目指す存在なのです。
森は私たち人間のためのものではありません。
たくさんの生き物が住み、クマも住んでいます。
私たち人間もそんな豊かなブリティッシュ・コロンビアの森で遊ばせてもらっている生き物。
だからこそ、ここでは、クマとの共存を目指しています。
クマを駆除するのではなく、一緒に生きていく。
そのために、スコーミッシュではいくつかの工夫があり、人間が守るべきルールがありますので、お伝えします。
2. スコーミッシュに住むクマ − ブラックベア
まず、スコーミッシュにいるのは、ブラックベアという種類のクマです。子連れや驚いた際には攻撃的になることもありますが、基本的には温厚で臆病なクマです。
BC州が共存を目指すクマ=ブラックベアになります。
北海道で最近事故が起きてしまったのはヒグマ。本州や四国にいるのはツキノワグマですね。
特にヒグマは攻撃性が高く、ツキノワグマも時に攻撃的です。
ちなみに、北米にもグリズリーという種類のヒグマがおり、グリズリーは非常に危険視されています。
3. クマを守るためのルール
さて、本題です。
これだけクマが身近でも、クマが襲ってこない、あるいは人に近づいてこないのにはちゃんとした訳があります。それは、人間とクマが必要以上に近づかないためにルールがあるから。
ルールはシンプルです。絶対に人間の食べ物をクマに与えないこと。
そのために、食べ物や匂いのあるゴミはすべてクマが開けられないようにロックのついたゴミ箱に捨てます。
キャンプ場では、必ず、食料や匂いのあるものはベアボックスかクルマに収納します。
テントに食糧・匂いのある物を入れることは禁止されています。
スコーミッシュの州立キャンプグラウンドではこういったベアボックスがテントサイトの近くにあります。
ゴミ箱もベアボックスも、このように、取手の奥に手を入れて、指でロックを押し上げるとロックが解除される仕組みです。
キャンプ時だけでなく、MTBやハイキング中、街中でも食糧を放置したり、食べ残しやゴミのポイ捨てをしたりするのは絶対にやめましょう。
先ほどの家の前に現れた写真のクマは、食糧を探しにやってきています。
カナダでは各家庭が、大きなゴミ箱を家の外に置いていて、家のゴミが溜まると外の大きなゴミ箱に移します。そして決まった曜日にゴミ収集車が各家庭の箱を1個ずつひっくり返してゴミを収集していく仕組みです。
ゴミ収集当日の朝以外ゴミ箱はロックしておきます。
なので、各家庭がしっかりゴミ箱にロックをかけることで、クマは「食べ物にありつけない」とわかりまた森へ帰っていくのです。
ここまでの話、キャンプサイトや住宅街、街中に限ったルールに感じるかもしれませんが、MTBトレイルでも同じです。
例えばMTBトレイルやトレイルの駐車場で食べ物が放置され、クマがそれを食べてしまえば、何度もクマがそこに食べ物を求めてやってくるようになります。
そうするとどうなるのか…
4.”Food-conditioned bear”(食糧に慣れてしまったクマ)によるエリア封鎖
人間の食糧を食べてしまったクマのことを、”Food-conditioned bear”(食糧に慣れてしまったクマ)と呼びます。”Food-conditioned bear”は何度もそこに食べ物を求めて現れるようになったり、そのエリアに居座るようになったりしてしまいます。そうなると、私たち人間の安全が担保されなくなってしまうので、エリアを封鎖しクマに森に帰るよう促します。当然その間、そのエリアに立ち入ることができなくなってしまいます。
実際に今年の7月、スコーミッシュのクライミングエリアが ”Food-conditioned bear”の出現によって約1週間、封鎖されました。
クライミングエリアとしても世界的に有名なスコーミッシュ。世界中からクライマーがやってきますが、それでもその間広域なクライミングエリアが封鎖されました。
封鎖したことでクマが無事に森に帰ればいいのですが、必要以上に人間に慣れてしまった場合、本当に悲しいことですが、クマは殺されてしまいます。
私たちが最低限のルールを守らないことで、私たちの遊びの機会が失われるだけでなく、大切な命が奪われてしまうのです。
日本にいると、「人間の命を守らなければ」という感覚になります。「クマ=悪」と感じる人もいるでしょう。
もちろん私はその感覚を否定しません。クマの種類も、クマとの距離感も、クマに対する考え方も違うのだから。
でも、ここBC州では「クマを守るため」そして「私たち自身を守るため」に、シンプルなルールがあり、そのルールは実際に機能しています。
郷に入っては郷に従え。
BC州を訪れる人は必ずこのルールを守りましょう。
5.MTBライド中にクマと遭遇したら…?
MTBでのライド中にクマと遭遇した際は、まずクマの状況を把握しましょう。
クマがこちらを気にせず餌を探している場合は、そのまま静かに後退して別ルートに行くようにしましょう。
クマがこちらに注意を向けている場合は、自分を大きく見せ(両手を広げる、バイクを高く掲げるなど)、声を出しつつ後退しましょう。
大半はクマがこちらに気づいて逃げていきます。
しかし、攻撃的だった場合、バイクを盾にし、ベアスプレーを使用し身を守りましょう。
よって、ライド前にはベアスプレーの用意と、トレイルの入り口にBear sighting(クマ目撃情報)がないかのチェックをするようにしましょう。
ちなみに、先ほどの”Food-conditioned bear”はこちらに気づいても逃げていきにくいので非常に危険です。だからこそ、食べ物の管理は自分たちの身を守ることにも繋がるのです。
6.バイクパークに住むクマ!?
2か月間でMTBライド中に4回もクマに会いました。そしてその4回のうち、3回が親子グマでした。
これはペンバートンのトレイル脇の線路で会った親子グマ。
こちらはウィスラーにあるバイクパーク(冬はスキー場)に住むクマたち。
最初はクマの生息地にバイクパークを作ったの!? と驚いていましたが、どうやら母グマはあえてバイクパークに住んでいるようです。
というのも、オスグマは縄張り意識が強く、時に子グマを襲う、母グマにとって脅威の存在。しかし、オスグマは人間を嫌い、人のいるところに近づかない傾向にあるそうです。なので、母グマは子グマを守るためにあえてオスグマが近づかない人の近くに暮らしているんだそうです。すごく興味深い戦略ですよね。
以上、スコーミッシュ、いやカナダBC州に来る際には絶対に知っておいていただきたいクマ情報でした。
エリア封鎖の情報等は、以下のリンクから随時更新されていますので、ご確認ください。
・District of Squamish
・Squamish Access Society
どうかこれからもこの地で、人間とクマが接触しすぎることなく、適切な距離で共存できますように。クマも人間もみんなが平和に暮らせる世界が実現することを祈っています。
次回はスコーミッシュでのクルマとバイクラック購入編をお届けします。それではまた!
寺井杏雛(てらいあんじゅ)
山で遊び育ち、その想いのまま学生時代を過ごす。22歳でマウンテンバイクと出会い、山との新しい遊び方を知る。現在はカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州、スコーミッシュにて、マウンテンバイクとクライミングを楽しみながら生活を送っている。
Instagram:https://www.instagram.com/anju_terai/