ヘッドアングルは寝かされ、シートアングルが立ち気味に設計される昨今のトレイルバイク。遊びの幅が広がったように感じられますが、それはどちらかというと下りに関してのはなし。
登りやすさも増していますが、それはあくまでトレイルヘッドまでのアプローチのためのものであって、クロスカントリー的な速さや爽快感が得られるようなものではありません。
逆にトライアルっぽいテクニカルな、難しいセクションをクリアしていくおもしろさは増えているように感じます。
MTBで走る気持ちよさの根源といえば、やはり下りステージ。フルサスと同様、中上級者向けのハードテイルはそこを強調したジオメトリーに変わってきていますが、必ずしもヘッドアングルが寝ていれば下りやすい、ということではありません。
まっすぐ下るだけのルートは現実のトレイルにはほとんどなくて、途中で曲がっていたり、縦の動きが必要な路面の形状になっていたり、実際に走ってみるとさまざまな動きが求められます。
今回乗った3台を振り返ってみると、一番ヘッドアングルが起きているザスカーLTは、フロントタイヤにも乗れている感じがあるおかげか、ちょっとしたきっかけで跳んだり、急に曲げてみたり、ワンアクションの入れやすさがありました。
コモドはザスカーLTよりヘッドアングルは寝ていますが、どことなく昔ながらのクロスカントリー系の乗り味が受け継がれていて、アクションどうこうというよりもむしろ、軽快な操作感とペダリングを活かしてアドベンチャーライドを楽しむタイプ。
ホンゾESDについてはものすごくポテンシャルが高いので、あえて辛口なことをいわせてもらいます。バニーホップのような動きができない人だとコントロールできず、ただバイクに乗せられてしまうだけなので危険に感じます。
斜度や速度域にもよりますが、わざわざアクションを入れずとも、フォークの性能や寝かせたヘッドアングルのおかげで普通に下れてしまう、そのあたりが最新ハードテイルの凄さでもあり、ライダーを助け
てくれる要素が強くなったのは確かです。
でも、それならばフルサスを選んだほうがより快適&安全です。それなりのコストを割けるのであれば、の話ですけど。
それでもハードテイルを選ぶのならば、バイクの性能まかせで走るのではなく、積極的にコントロールしていく楽しさを追求していくべき!
今回乗った3台を含め、多くのトレイル系ハードテイルがフルサスの設計思想を踏襲するようになってきました。
フレーム自体がガンガン下れる設計になっているだけに、フォークの質の高さは必須。ハンドルまわりのセッティングもより重視する必要があります。
スピードが上がるということは、より短い時間の中で多くの動きが求められるということ。ハードテイルにはリアサスがない分、ハンドルの高さ、レバーの位置の調整を含め、フロント側の処理をしやすいセッティングが欠かせません。
コモドにはそのエッセンスが残っていましたが、最新のトレイル系ハードテイルはタイヤを地面につけてのんびりと走るスタイルではなくなってきています。ザスカーLTはアクション要素を強くしたバイクで、ホンゾESDは完全に攻めるためのバイク。
自分がホンゾESDに乗るなら、仮にタイヤを滑らせても問題にならないような場所、ゲレンデなどのダウンヒルコースなどに持ち込んで、思いっきり乗りたい走らせたいですね。
ハードテイルはフルサス以上にフレームの剛性、タイヤやサスペンションのアッセンブルで印象が変わってきます。
ジオメトリーは目安にこそなるけど、それですべてが決まるわけではない、ということを改めて実感させられたインプレッションでした。
Profile
写真:村瀬達矢 文:トライジェット
『MTB日和』vol.44(2020年11月発売)より抜粋