東京オリンピックまで2カ月あまり(取材時)となっても新型コロナウイルスの脅威は収まる気配がない。そんな中、粛々と“最後の舞台”への準備を進めるマウンテンバイク代表候補の山本幸平に心境を語ってもらった。
XCキング最後のチャレンジ
新型コロナウイルスの影響で、静まりかえった羽田空港。その一角で取材は始まった。
チームメイトの北林力、仁そして鈴木雷太JCFマウンテンバイクヘッドコーチとともに「最後のワールドカップ」へとおもむく山本幸平は、いつものように飾ることなく率直な「今」を話し始めた。
「八幡浜の大会が延期になって、このまま7月を迎えていいのか? と考えた時、日本でじっとしていても何も起きないし、自分自身のモチベーションを高める術もない。それなら自分が居るべき場所で走りたいと、雷太さんと話し合って急遽ワールドカップに参戦することに決めました。
エントリーもチケットも期限ギリギリでしたが、当初からフランスに行く予定だった北林兄弟も一緒です。
正直、どの位置で走れるか以前の話。現場までたどり着けるのか? 期間中の感染防止対策はどうするのか?など、まったく手探り状態での遠征になりますが、1年半遠ざかっていたワールドカップで、他の選手にとってはオリンピック出場がかかる最後の闘いですから、その中で走るというだけで、この遠征は半分成功だと思います。
またU23最後の(北林)力、1年目の仁に、自分が戦い続けた舞台を見せることができるのも、今後を考えたらプラスにしかならないと思います」
高校卒業から15年以上にわたり、さまざまな立場で山本と関わってきた鈴木コーチも「日本での報道と、現地からの情報とのギャップもあり、選手として初めてヨーロッパに行ったとき以上の緊張感がありますが、自分にとっても最後の遠征ですので、選手達が悔いの残らないよう走らせてやりたい。特に仁は、初めての国際レースが、誰よりも“世界”を知っている幸平と一緒ですから、大きな財産になると思います」
現時点では、開催の是非に揺れる東京オリンピックだが、一昨年のプレ大会に出場した各国チーム、アスリートは1年越しの決着をつけにくる気満々の様子。
現地に行ったら、プレ大会に出場していないレーサーにもいろいろ聞かれるのでは? と水を向けると、山本は「そうですね。7月の日本、伊豆がどういうコンディションか、身をもって知っているのはボクだけですから、それはアドバンテージになりますね。面白いレースになるかもしれないですよ」と不敵な笑みを浮かべた。
山本幸平
写真と文:鈴木英之
取材協力:御嶽濁河高地トレーニングセンター、ATHELETEBANK
『MTB日和』vol.46(2021年5月発売)より抜粋