MTB趣味層の間では、今年もエンデューロバイクを代表とする下り系のバイクに人気が集中していますが、『ダウンカントリー』という新たな可能性を秘めたワードとともに、XC(クロスカントリー)カテゴリーに対する注目度も高まってきています。そこで今回は、単なる〈レースバイク〉として扱うだけではもったいない、XCバイク本来の魅力について検証します。
私たちが身近なMTBとしてXCバイクを選ぶ理由
ROCKY MOUNTAIN
ELEMENT CARBON
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本誌インプレ担当ライダー
CSナカザワジム 店主
中沢 清さん
野山を飛び跳ねる動物たちのように
「私は昔から好んでロッキーマウンテンのエレメントに乗り続けています。なぜなら、エレメントはXCレースで勝ちにいくバイクというより、26インチ時代から〈アグレッシブクロスカントリー〉をうたっている山遊びの要素が強いモデルだからです。自分が考えるXCはレースというより、むしろオールマウンテンなんです。スキーでもランでもXCといえば、下りも登りもなんでもやりますよね?
理想はウサギや鹿などの動物たちが、野山を飛び跳ねるように登ったり、下ったり、曲がったり、そんなイメージです。だから、ローカルのトレイルを走るMTBは、反応性のよさと軽快さがあってナンボ。下りバイクでは切り取った部分しか楽しめないですからね。下り系のバイクに乗っている人たちにも是非、軽快に駆け上がれるMTBの楽しさを知って欲しいと思います」
GT
ZASKER CARBON
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本誌編集担当
トライジェット
トランスポーターいらずの快走オフローダー
「自分にとってのMTBはスポーツの道具というより、山道を気持ちよく移動するための道具。なので、ペダリング性能は一番大切にしたい部分なんです。XCバイクには片道20~30キロ圏内の移動であれば、わざわざクルマに積まずとも自走で山まで走っていける、軽快さとペダルをまわす気持ちよさがありますから。また、車体が軽量なモデルが多いので、電車など公共の交通機関を利用した輪行もさほど苦になりません。つまり、クルマを所有していなくても山遊びを満喫することができるのです。ダウンヒルやジャンプなど、アクション系のテクニックを磨きたくなったらほかに買い足してもいいし、所有していて邪魔にならない1台。〈XC=ピチピチのレーサージャージ&ビンディング〉のイメージもありますが、もっと柔軟につき合ってみてもいいのでは?」
徐々に細分化されつつある現代のXCカテゴリー
XC RACE
レースバイクに与えられた使命は〈勝利すること〉。XCレースに参加するライダーが表彰台を狙えるスペックは、ファンライドを前提としたトレイル系のMTBやオールマウンテン系のMTBとは異なり、限られた時間内に最大限のパフォーマンスを発揮することを目的としたものです。その突出した軽さ&ペダリング性能は、一般のマウンテンバイカーが参加しやすいイベントレース、距離を稼ぐような軽快なトレイルライドでも、理想の走りを実現してくれるはずです。
DOWN-COUNTRY
レースバイク譲りの軽快な走りにタフさをプラスした新カテゴリー。山深い場所まで続くシングルトラックを効率的に走破するために、レースバイクをベースとしながらも、それらとは別のベクトルでチューンされたモデルが登場しています。トラベル量を増やした長めのサスペンション、先の見えないシチュエーションにも対応するジオメトリーほか、トレイルバイク寄りのスペックを身にまといながら絶対的なペダリング性能を保持。日本の丘陵ライドにもマッチする内容です。
RECREATION
入門車に求められる必須条件、それはコストパフォーマンス。価格と走行性能のバランスを高次元で保ちつつ、扱いやすさを融合したレクリエーション向けのMTBなら、アウトドア遊びのパートナーとして連れ出すもよし。イベント型の耐久レースに参加してみるもよし。日常の移動ツールとして気軽に使いつつ、好奇心が高まればレースバイクに乗り換えるのもありでしょう。XCバイクならではの軽快なペダリング性で、スポーツバイクを駆るよろこびを教えてくれます。
スペシャライズドのラインアップに見る 細分化されたXCバイクのカテゴリー
EPICシリーズ
ペダリング効率、軽さ、操作性を究極のバランスで実現した世界最速のXCレースバイク。サスペンションの制御を自動的におこなう独自の機構『BRAIN』を搭載。トップカテゴリーでの歴代最多勝利数を誇るフルサスペンションモデル。
EPIC HARD TAILシリーズ
フレームの構造をシンプルなハードテイルとすることで、最軽量の市販モデルを目指したXCレースバイク。軽さと速さを追求しつつも、乗り心地や安定性を重視した設計により、乗り手を疲労させにくいハードテイルバイクを完成させた。
CHISELシリーズ
カーボンに肉薄する軽量なアルミフレームを骨格に持つ、いま最も注目を集めているハードテイルのXCレースバイク。トレイルに最適化されたジオメトリーを採用。
EPIC EVOシリーズ
シングルトラックを高速で駆け抜ける史上最速のXCトレイルバイク。エピックのフロントトライアングルはそのまま、リアフレームを新たに開発。テクニカルなステージにも余裕で対応する〈ダウンカントリー〉のアイコン的存在。
ROCKHOPPERシリーズ
コストパフォーマンスの高さと扱いやすいコンポーネントのアッセンブルにより、MTBの入門車として多くのマウンテンバイカーのトレイルライドデビューをサポート。豊富なバリエーションが用意されたレクリエーション向けXCバイク。
問:スペシャライズド・ジャパン http://www.specialized.com
元々ひとつの形しか存在しなかったMTB。ビーチクルーザーを改造した自転車で砂利道を駆け下りる、そんなカリフォルニア州マリン郡で数人の若者たちがはじめた遊びは瞬く間に世界に広がり、MTBはスポーツバイクのジャンルとして確立されていきました。日本のオフロードバイクの歴史はさらにさかのぼり、頑丈なツーリングバイクから実用装備を取り除いた自転車、パスハンターに端を発します。地図を開きながら道なき道を進む、XCの原点ともいえる遊びのスタイルだったのかもしれません。
遊び方のスタイルが変化していくにつれて、レースの世界ではペダリング性能を重視したXC系と下りステージでのスピードを競うDH(ダウンヒル)系に、レクリエーションの世界ではトレイル・オールマウンテン系、フリーライド系へとMTBは徐々に細分化されていきました。近年はDHを凌ぐ人気で注目される下り系の競技、エンデューロにも注目が集まっています。オリンピックの競技種目でもあるXCカテゴリーはというと……レースで勝利するためのストイックなレーシングマシン、トレーニングのためのMTBとして、ファンライドを楽しむマウンテンバイカーとはやや疎遠になっていた印象は否めません。
もちろんトップカテゴリーのレースでの勝利を目指すことはすばらしいことです。その表彰台に立つライダーはマウンテンバイカーの頂点ともいえます。そんな彼らが駆る機材を趣味のスポーツバイクとして扱うのは間違っている? いえいえ、決してそんなことはありません。舗装路、オフロードを問わず軽快なペダリングを体感できるMTB、登りから下りまで山の隅々まで満喫できるMTB……もっと柔軟に考えて、XCバイクを選んでみてはどうでしょう? ここ数年、XCカテゴリーはさらに細分化され、ピュアレースバイクとは位置づけの異なる、〈ダウンカントリー〉という言葉を耳にするようになりました。バックカントリースキーのように、山の奥深い場所まで続くシングルトラックを軽快に、効率的に駆け抜けるための新カテゴリーの登場。XCバイク復権の波は確実に押し寄せてきているのです。
写真:鈴木英之
『MTB日和』vol.45(2021年2月発売)より抜粋