2014 年にM9070 シリーズでMTB 初の電動変速システムを投入したシマノ。
あれから11 年、レース&トレイルシーンで培った技術を凝縮し、フル無線化された新たなDi2 を世に送り出してきた。
変速システム、ブレーキ、ホイール……シマノの快進撃は始まったばかりだ。
シマノが誇るMTBテクノロジーの頂点
満を持してデビューを果たした新型XTR
トップライダーも唸らせるM9200シリーズの実力
ついにその全貌が明らかになったMTB用コンポーネントのフラッグシップ、新型XTR。フル無線化された電動変速を採用するこのM9200シリーズには、高速で正確な変速システムに加え、岩や木の根などの障害物に対するタフな設計が採用されている。
より直感的なエルゴノミクスを追求したブレーキシステム、ライダーの要求に応えるカスタマイズ機能を装備したシフターが、理想的なコックピットを形成。隙のないラインアップにより、プロレースをはじめとするハイレベルの走行シーンでも、あらゆる地形において最高のパフォーマンスを提供する。
今回、弊誌「MTB日和」では国内のダウンヒルレースで幾多の勝利を重ね、海外のエンデューロシーンでも経験を積み重ねてきたグラビティ系レースのトッププロライダー、永田隼也選手にインタビューを実施。新型XTRの進化および読者のみなさんが愛車に投入するメリットについて、詳しくお話を伺った。
M9200シリーズの主な特徴
・フルワイヤレスのDi2(電動変速)プラットフォーム:高速で正確な変速を実現するDi2システム
・タフなドライブトレイン構造:障害物等との接触に耐えるように設計
・直感的に操作できるエルゴノミクス:調整範囲が広く、自然なフィット感と操作性がさらに向上したコックピット
・思い通りに機能するブレーキシステム:広い温度範囲で一貫した性能を発揮
・幅広い選択肢:より多くのオプションとDi2機能が提供され、地形、スタイルパフォーマンスの最適化が可能
価 格
リアディレイラー(RD-M9250 SGS/ロングケージ 10-51Tカセット用)… 価格:9万6616円
リアディレイラー(RD-M9250 GS/ミドルケージ 9-45Tカセット用)… 価格:9万6616円
シフトスイッチ(SW-M9250)… 価格:3万1826円
トレイル/エンデューロ向けクランク(FC-M9220)… 価格:4万4734円
XCレース向けクランク(FC-M9200)… 価格:4万4734円
カセットスプロケット… 価格:7万2566円
エンデューロ/トレイル向けブレーキレバー(BL-M9220)… 価格:1万5312円
エンデューロ/トレイル向けブレーキキャリパー(BR-M9220)… 価格:2万4292円
XCレース向けブレーキレバー(BL-M9200)… 価格:1万4110円
XCレース向けブレーキキャリパー(BR-M9200)… 価格:2万990円
エンデューロ/トレイル向けホイール(WH-M9220)… 価格:12万7991円(フロント/ 840g)、14万6276円(リア/ 951g)
XCレース向けホイール(WH-M9200)… 価格:18万2843円(フロント/ 517g)、20万1128円(リア/ 640g)
ハブ(HB-M9210)… 価格:2万3943円(フロント/ 121g)
ハブ(FB-M9210)… 価格:5万1369円(リア/ 231g)
interview
すべてがグレードアップした印象です。まず、ワイヤレス電動変速に関しての一番大きなメリットは、変速時に足を合わせなくてもいいことですね。従来
のワイヤーを介した変速では、無意識ながらもペダルに掛かるトラクションを抜いて、気を使いながらシフトチェンジしていました。
変速ショックも大きかったので、足を合わせてあげないとチェーンが暴れたり、シフトのズレが生じたりして、ギアが飛ぶようなことも。それが気になってペダリングを我慢したり、特に疲れてきた場面ではストレスに感じることもありました。
対してこの M9200 シリーズでは、ペダルを踏み込む力を無視して、どのタイミングでも変速できます。コースのちょっとした繋ぎでもペダリングを我慢する必要がないため、レースではタイムアップに直結します。
ディレイラーはテンションの強さが格段に上がっていて、チェーンの暴れをキックバックのように感じるシチュエーションもありません。
音が静かになることで走りに集中できます。正直、下りでもここまで電動変速の恩恵が大きいとは思っていませんでした。シフターを連打する必要もないし、ネガティブな要素は全く見当たりません。
ブレーキも飛躍的に進化していて、サーボウェーブの操作感がすごくスムーズになりました。従来モデルのオン / オフ感というか、引っかかるような感覚がなくなり、腕上がりしにくくなっています。
「サーボウェーブが苦手……」とシマノのブレーキを敬遠していた人もコントロールしやすいはずです。アップスイープしたレバーも握ったときに指と馴染みやすくて、考え抜かれた構造だと思います。
キャリパーに関して、以前はパッドのカタカタいう遊び音が気になることがありましたが、それも解消されてバイクの静粛性が増しています。全体的にス
ムーズさが向上した印象です。ハブやホイールを含め、M9200 シリーズはフルで使うメリットが大きいコンポーネントと言えるでしょう。
永田隼也選手(TEAM A&F / OAKLEY)
16 歳でダウンヒル競技の最高峰、エリートクラスに当時最年少で昇格。2006 年からW杯を転戦し、2015 年には全日本選手権で悲願の初タイトル獲得する。エンデューロ競技においても、国内第一人者として国内外でレースに参戦。ENSでは2020、2021、2023年の3シーズンに渡って総合優勝を果たした日本を代表するトッププロライダー。
永田選手が今シーズン使用するエンデューロバイク
ROCKY MOUNTAIN ALTITUDE CARBON
ロッキーマウンテン アルティチュードカーボン
M9200シリーズのホイール&ハブは隠れた名品
永田選手曰く「個人的な推しはハブです。電動変速に気を取られてノーマークでしたが、転がりはもちろん、掛かる角度や音もよくて、剛性も高く、とにかくバランスがいい。コーナーの抜けもよく、立ち上がりが速くなりました。耐久性についてはまだわかりませんが、シマノは特にその部分を謳っているので期待できます」とのこと。
フラッグシップ譲りのテクノロジーをリーズナブルに
編集部のテストバイクに新型デオーレXTをフル搭載してみました
これまでブレーキはM8100 シリーズを、ドライブトレインにM7100 シリーズを使用してきた編集部のテストバイク。「新世代のコンポーネントに載せ替える価値はどれくらいあるのか?」検証すべく、余すことなくM8200 シリーズをインストール。ユーザー目線でチェックしてみることに。
ファンライドレベルでもメリットを実感できる?
最新パーツ、スタッフが気になるパーツの装着などなど、編集部のテストバイクとして日々、活躍してくれているモンドレイカーのレイズ。カテゴリー的にはフロント150ミリ、リア130ミリトラベルのトレイルバイクに該当するため、取材の同伴はもちろん、スタッフの身近な山遊びからゲレンデ遊びまで、さまざまなシチュエーションへ日々、連れ出されています。
そんな大忙しのMTBに今回、話題のフル無線の電動変速、進化したブレーキシステム、コスパ最高のホイールまで、デビュー間もない新型デオーレXTをすべて搭載。長らく使ってきた前世代のコンポーネントと比較してどれくらい進化を遂げたのか? ファンライドレベルでの使用でも載せ替える価値はあるのか?
時間をかけてガッツリとチェックしてみることと相成りました。
なぜわざわざ編集部のテストバイクに装着する必要があるのか?確かに試乗会で触れる機会はありましたが、数時間ほどの試乗ではなかなかその本質にはたどり着けませんし、普段から乗っているバイクに装着しないことには、正確に違いを把握することはできません。
テストバイクはすでに12速化されていたため、シフトスイッチとディレイラーだけを交換してみるという選択肢もありましたが、シマノが膨大な時間を費やして開発したコンポーネントですから、余すことなく体感してみたいじゃないですか?
ということで、長年に渡って永田選手のメカニックサポートを担当するマーシュさんにご協力いただき、編集部のテストバイクにM8200シリーズをすべてインストールしてまいりました。
シフトスイッチ(SW-M8250)
価格:2万5369円
SHIMANO RAPID ESを搭載したシフトスイッチは、XTRの性能を継承しつつ、長年の機械式変速の開発で培われた確かな操作感を提供する。新しいスイッチは取付位置が広範囲かつボタンも機能を変更可能で、ライダー好みの操作環境に細かくカスタマイズすることができる。
クランクセット(FC-M8200)
価格:2万3764円
XTR のデザインを踏襲しつつ、剛性と重量のバランスが最適化されたクランクセット。トレイル、エンデューロ、クロスカントリー(XC)ライディングに対応する1 種類の構成で提供される。ダイレクトマウントチェーンリング設計、標準のスチールアクスルは24ミリの設定。
リアディレイラー(RD-M8250 SGS)
価格:7万752円
ロープロファイルのウェッジ形状デザインによりスタビライザー機構をディレイラー本体へ統合。トレイル上の障害物にヒットしても滑らかに受け流し、
衝撃を回避してくれる。万が一衝撃を受けた場合でも、オートマチックインパクトリカバリーにより瞬時に元の位置へと復帰する。
カセットスプロケット(CS-M8200-12)
価格:2万3983円
負荷がかかった状態でもスムーズな変速を可能とするシマノ独自のテクノロジー〈HYPERGLIDE+〉が採用されたカセットスプロケット。ロー側2 枚のギア板はアルミ製、残り10 枚はスチール製とすることで耐久性の最適化とハイコストパフォーマンスを実現。歯数構成は10-51T。
ブレーキレバー(BL-M8220)
価格:左右各1万2880円
強力かつ信頼性の高いブレーキシステムは、シマノ独自のERGO FLOWテクノロジーを搭載し、XTRと同じピボット位置を採用することで、より自然なブレーキング動作を実現する。再設計されたSERVOWAVEトラックにより、スムーズかつ素早いパワー伝達が可能となった。
トレイル/エンデューロ向け
ブレーキキャリパー(BR-M8220)
価格:1万4263円
XCレース向け
ブレーキキャリパー(BR-M8200)
価格:1万1455円
トレイル/エンデューロ向けは対向4ピストン、XCレース向けは軽量な2ピストンの設定(編集部のテストバイクにはフロントにトレイル/エンデューロ向け、リアにXCレース向けを装着)。新配合の低粘度ミネラルオイルの使用により、滑らかで一貫したモジュレーションが可能。
ホイール( WH-M8200)
価格:3万9768円
(フロント:931g / 29インチ、877g / 27.5インチ)
価格:5万1653円
(リア:1052g / 29インチ、997g / 27.5インチ)
M8200シリーズのアルミホイールには、エンデューロやクロスカントリー(XC)ライディングに十分対応できる軽量かつ高耐久な設計を採用。ハブ設計も改良されており、メンテナンスが容易で高いシーリング性能を誇る。 29インチと27.5インチの両サイズをラインアップ。
12速のDEOREもワイヤレスへと進化
シフトスイッチ(SW-M6250)
価格:1万8823円
リアディレイラー(RD-M6250)
価格:5万8847円
デオーレM6200シリーズにも、上位グレードで採用された最新テクノロジーを継承。このリアディレイラーおよびシフトスイッチは、現在販売中されている 12速機械式変速のM6100シリーズと互換性があり、リアディレイラーとシフトスイッチ(+バッテリーと充電器)を導入するだけで、コストを抑えつつワイヤレス変速化を実現してくれる。
M8200シリーズをテストバイクに取り付ける
スマートフォンを使用して専用アプリでセットアップ
なにからなにまで新しいM8200シリーズ。安心して走り出すためにはやはり、プロショップにお力を借りる必要があります。新しいフルワイヤレス電動システムはリアディレイラーにバッテリーを内蔵しているため、あらかじめバッテリーを充電しておく必要があります。
充電済みのバッテリーをディレイラー内に収めたたら、スマートフォンにダウンロード済みのE︲TUBEアプリを立ち上げ、スマートフォンにリアディレイラーを登録します。
続けてシフトスイッチのコードをスマートフォンで読み込み、リアディレイラーとシストスイッチを同期させます。変速のセットアップは基本的にこれだけ。
ワイヤー不要なのでセットアップが楽なだけでなく、車体の見た目もスッキリ。変速に関する微調整とブレーキの取り付け&ブリーディング作業はマーシュさんにお任せします!
取材協力/マーシュ
神奈川県藤沢市亀井野359-5
☎ 0466-43-8389
営業時間:10:00 ~ 19:00
定休日:水曜日
http://www.marsh.co.jp/
IMPRESSION|もはや死角はなし? おそるべしM8200シリーズの完成度
とにかく変速が速くて滑らか! XTRのメディア向け発表会でM9200シリーズ搭載車に乗ったときの驚きと感動が蘇りました。
また、編集部のテストバイクにM8200シリーズをフル搭載&使用しているうちに思い出したのがさらに遡ること12年前、ロード用の6870シリーズのDi2を当時のテストバイクに装着したときのこと。
「そうだ、Di2化すると(シフターがスイッチになって押し込むストロークが激減することで)変速回数が増えるんだった」という現実。極めて無意識的というか、考えてそうしているというのではなく、変速に一切のストレスがないためか、変速する回数が自然と増えていってしまうんです。
それは〈あらゆるシーンで最適なギアにチェーンが掛かっている〉=〈走りがスムーズになる〉=〈体力も無駄に消費しない〉ということに繋がり、なによりも〈ライドしている時間が楽しくなる〉わけです。
読者のみなさんが気になっているであろうバッテリーの持ちについては、別のバイクで使用しているスラムの電動変速と比べて「こんなに充電しなくていいの?(シマノのデータによるとバッテリーマネージメントは1.5倍程度ですが)」と感じるほど、充電する頻度が少なくなっています。
バッテリーの進化は日進月歩と言われていますが、改めてそのスピード感を実感。ブレーキについては、XTR(エンデューロ/トレイル用)に見られるレバーのアップスイープデザインこそ採用されませんでしたが、こちらも大幅にアップデート。
シマノらしいフィーリングは引き継ぎつつ、中間域のコントロール性が格段に上がっています。
逆にコンポーネントをM8200シリーズに載せ替えるデメリットは……ひとつも見当たりません。「充電めんどくさいし、変速はひも引きで十分」という方(まさに自分がそうでした)にも是非試していただきたい、愛車の魅力を格段に引き上げてくれる最高のカスタムとなること請け合いです。
この変速の気持ちよさとバイクを操る楽しさを味わってしまったらもう後戻りはできそうにありません。
SHIMANOのニューコンポーネントはなにが違う?
気になるポイントQ&A
今回発表された最新のXTR(M9200 シリーズ)、DEORE XT(M8100 シリーズ)、DEORE(M6200 シリーズ)について、素材や機能の違いなど、よくある疑問点をピックアップしました。
リアディレイラー
Q.XTR、DEORE XT、DEOREについて、具体的にはどこが違う?
A.素材や仕上げなどに違いがあり、それが重量に反映されています。重量は、XTR(GS)389g、DEORE XT(GS)446g、(DEOREは非公表)。素材について、XTRはアウタープレートがカーボンでインナープレートがアルミ。DEORE XTはどちらもアルミでDEOREはどちらもスチール。また、インナープレートの仕上げでは、XTRとDEORE XTはアルマイト処理、DEOREは塗装。ほかにも、パーツのアルマイト処理、メッキ処理など、細かな違いがあります。
カセット
Q.XTRとDEORE XTの違いは?
A.素材の違いで、重量にも差があります。具体的な素材は
○XTR(9-45T):ロー側からアルミ2枚、チタン5枚、スチール5枚
○DEORE XT(9-45T):ロー側からアルミ1枚、スチール11枚
上記の違いにより、重量はXTR(9-45T)327g、DEORE XT(9-45T)426gと100g近い差となります。
XTR(9- 45T)
DEORE XT
(9-45T)
シフトスイッチ
Q.XTR、DEORE XT、DEOREで、操作方法などの機能面に違いはある?
A.XTRとDEORE XTはダブルアクションで変速(スイッチのストローク幅で、「1段分だけ変速」「2段分一気変速」を使い分ける)が可能ですが、DEOREでは、シングルアクション(スイッチ操作で1段ずつ変速)のみとなります。XTRについては、ダブルアクションとシングルアクションの切り替えが可能です。
Q.どのグレードも角度調整ができる?
A.XTRとXTは自分の押しやすい向きにそれぞれのスイッチの角度調整できますが、DEOREシリーズはスイッチの角度調整には対応していません。
ブレーキ
Q.XTRとDEORE XTの違いは?
A.XTRのブレーキレバーは、〈エンデューロ/トレイル向け〉と〈XC向け〉の2タイプが用意されています。エンデューロ/トレイル向けのレバーはピボット位置、レバー角度(アップスイープ)の見直しほか、全面的な改良により、革新的な進化を遂げています。カーボンレバーを採用する軽量型のXC向けは、外見こそ先代XTR(BL-M9100)と変わりませんが、内部構造はアップデート。キャリパーは4ピストン、2ピストンともにワンピース構造を採用しています。対するDEORE XTのブレーキレバーは1種類で、基本構造はXTRのエンデューロ/トレイル向けを踏襲していますが、レバーのアップスイープ機構は採用されず。キャリパーは従来通り、2ピース構造を継続しています。
レバーがアップスイープしたXTRのエンデューロ/トレイル向けモデル。
ワンピース構造のXTRエンデューロ/トレイル向けキャリパー。
2ピース構造のXTエンデューロ/トレイル向けキャリパー。
『MTB日和』vol.59より抜粋