ディーラーマニュアルを隅々まで読み込んでいるようなマニアはともかく、MTB 初心者にとって自転車のメンテナンスは間違いなく高いハードル。そこで短時間&簡単な作業で走りが変わるとっておきのメニューをご紹介!
AST店長 高山さん
指南役はMTB&BMXのプロショップとして、これまで多くのライダーをサポートしてきたASTパパ。MTB初心者でも挑戦しやすい整備のコツをレクチャーしてくれます。
AST
埼玉県和光市白子1- 24 - 21 ☎ 048 - 461- 2370
営業時間:11:00~20:00(火・木・土)11:00~18:30(金・日・祝日)
定休日:月・水曜日
http://www.astbikes.com/
スムーズに変速しない?そんなときはここをチェック
「走行中にチェーンから不快な振動が伝わる」
「シフト操作をしたのにギアが変わらない」
「勝手にチェーンがトップ側(小さいギア側)に落ちる」
など、変速に関する不具合の大半がシフトワイヤーの伸びによるもの。高山さんによると、特に新車やシフトワイヤーを交換した車両に見られる現象で、ワイヤーの初期伸びが落ち着くまでは、週単位で微調整が必要とのこと。作業自体は難しくないため、愛車に同様の症状が出ている人はレッツトライ!
シフトワイヤーが伸びるとディレイラーのガイドプーリーが外側にずれて、チェーンがトップ側に落ちやすくなるが、シフターの調整ボルトを反時計方向に回すことでワイヤーを張り直し、正常な状態に戻すことができる。ナットはいきなりたくさん回さず、
1 クリックずつ回して様子を見るのがポイント。回していいのは最大でも3 ~ 4 クリックまで。それでも正常な状態に戻らない場合は故障の可能性大。ショップに相談を。
チェーンが車輪の内側に落ちるときの応急処置
転倒などでリアディレイラーに強い力が加わると、衝撃でハンガー(フレームにディレイラーを固定するためのパーツ)が曲がり、変速時にチェーンがホイールの内側(大きいギア側)へ落ちるようなトラブルも。
これはハンガーの破損が原因なので本来はハンガーの交換が必須だが、出先でスペアのハンガーを持ち合わせていない場合、自宅またはショップにたどり着くまで応急処置にて対応することも可能だ。
ディレイラーの取り付けボルトにアーレンキー(シマノの場合、5mm)の短い部分を固定し、ディレイラー本体を内側から軽く押しながら、テコの力を利用してアーレンキーの長い部分を上方向へ持ち上げていく。
このとき、親指でアーレンキーをしっかりと車体方向に押しつけておくのがコツ。いきなり強い力で持ち上げるとアルミのハンガーの場合、ハンガーが折れてしまうので作業はゆっくりじわじわと。ハンガーの曲りを修正していく。
こちらの3本のボルトには触るべからず!
いずれもリアディレイラーの可動域を調整するボルトで、変速関連のパーツを組み付ける際にのみ、必要な調整箇所。ゆえに「なんかこのボルト、緩んで飛び出してる?」と勘違いして締め込んだりすると、正常に変速しなくなるので要注意。
チェーンを掃除したのに変化がない?それはプーリーの汚れのせいかも
意外と気づいていない人が多いというディレイラーのガイドプーリー(上側)&テンションプーリー(下側)に固着した汚れ。チェーンを清掃しても、プーリーが汚れていたら変速性能が低下する。
チェーンオイルに付着する泥や埃、草などが重なって汚れていくため、それを取り除くことでプーリーが回転しやすくなる。またチェーンのプーリー離れもよくなり、変速性能の正常化を見込むことができる。
スタンドで車体を持ち上げ、後輪を回しながら先の細い工具などを使って、上下のプーリーにこびりついた汚れを取り除く。チェーンを洗浄するときには、併せておこなっておきたい作業のひとつだ。
プーリーの清掃に役立つ高山さんおすすめのツールがこちら。ホーザンのソルダーエイトという商品で、フック&リーマー、ナイフ&スクレーパー、ブラシ&フォークが3 本セットになったアイテム(1782 円/税込)。
走行中、チェーンがガチャガチャうるさいときはスタビライザー機能を確認しよう(for SHIMANO)
シマノの12速対応リアディレイラーに採用されているチェーンスタビライザー。リアディレイラーの内部にクラッチ機構を搭載することで、高いチェーンテンションをキープ、チェーンの暴れを抑えるとともに、チェーンの脱落リスクを軽減するシマノ独自の機構だ。
パンク修理やタイヤ交換など、後輪着脱時以外はチェーンスタビライザーをオン、が基本となる。オフのまま走行しても問題はないが、オフロード走行では有益な機能。レバーのチェックをお忘れなく。
レバーを上側に切り替えればスタビライザーはオンの状態。チェーンテンションが高くなるため、チェーンが暴れにくくなる。
レバーを下側に切り替えればチェーンスタビライザーはオフの状態。チェーンテンションが弱まり、後輪の着脱作業が楽になる。
ケージロック機構を使えば後輪の着脱が容易に(for SRAM)
近年、スラムのリアディレイラーに採用されているケージロックは、プーリーを支えているケージ(プレート)を後ろ側から押した状態のまま固定できる便利な機構。
ケージをロックすることでチェーンにテンションが掛からなくなるため、パンク修理や輪行時に後輪を着脱する作業が劇的にスムーズになる。構造は極めてシンプルだが、一度使ってしまうと二度と手放すことができないこの便利なケージロック機構。使わない理由はなにひとつない。
①シフターを操作してチェーンをトップギア(一番小さなギア)に移動する。
②後ろからディレイラーのケージが弧を描くように左手で前側に押し込む。
③ケージを前側に押し込んだまま、鍵マークのついたボタンをプッシュする。
④ケージを押し込んでいた左手を静かに離せばOK。チェーンのテンションが完全に失われる。
ロックを解除する方法は?
ロックされている状態からさらにケージを前方向に押し込む。するとボタンが元の状態に戻ってロックが解除される。
変速性能を簡単に最適化できるチェーンギャップ調整ツールの使い方(for SRAM/12speed)
スラム・RD チェーンギャップ
アジャストメントゲージ・イーグルV2
赤や紫色の初期モデルと比較して、格段に使いやすくなった2 世代目のチェーンギャップ調整ツール。初期モデルを使用している人も是非、V2 を入手して、その進化を実感してもらいたい。
先ほど「触るべからず」と記載したB調整ネジ(エンドアジャストボルト)だが、スラムのイーグル(12速)対応リアディレイラーの場合、チェーンギャップ調整ツール(ディレイラーやアップグレードキットに付属)を使えば、だれでも簡単ベストの状態にセットアップできる。
完成車には付属しないためメンテナンスのスキルアップを見据えるならば、手に入れて、自らの手で調整してみてもいいだろう。
①シフターを操作してチェーンをローギア(一番大きなギア)から2 枚目のギアに移動させておく。
②写真のようにチェーンギャップ調整ツールをスリットの間にローギアを挟み込むようにセット。
③チェーンギャップ調整ツールの△がガイドプーリー固定ボルトの中心に合うように3mm のアーレンキーで調整ネジを回す。
×チェーンギャップ調整ツールの△がガイドプーリー固定ボルトの中心に合わなければNG。
〇チェーンギャップ調整ツールの△がガイドプーリー固定ボルトの中心にぴったり合えばGOOD。
写真:村瀬達矢 文:トライジェット
『MTB日和』vol.46(2021年5月発売)より抜粋