ブライアンの自転車備忘録 vol.15 自転車市場に希望はあるか?—後編

究極にシンプルながら、かくも奥深き乗り物、自転車。楽しみ方から歴史、モノとしての魅力、そして個人的郷愁まで。自転車にまつわるすべてに造詣の深いブライアンが綴る「備忘録エッセイ」です。

大事なのは数ではない? 縮小社会で再起はなるか

前回、自転車の生産販売も経済動向に影響を受けると述べました。戦後の高度経済成長期、オイルショックやバブル前後には、自転車の輸出入にも為替動向による台数変化がありました。

しかし、2008年に端を発し、経済・産業面で世界的に大打撃を与えたリーマンショックにおいて、実は自転車はそれほど大きな影響を受けていません。

それどころかスポーツバイクに至っては、ブームに乗って増加すらしていました。「自転車は不景気に強い」といわれたこともあります。

維持費を嫌ってクルマから自転車に乗り換える人がいるとか、あるいは古い自転車も修理して乗り続けるようになるので、修理補修市場も活性化するとか。風が吹いたら……論議のようですね。

未曾有の不況下でも続いたスポーツバイクブームを牽引したのは、主に健康志向の中高年とみられます。コスト面の影響も大きかったようです。

でもご存知の通り、スポーツバイクやツーリングだって結構コストがかかるのですけどね。後にそのことに気付いても、自転車の魅力に憑かれた方々がそのまま残って乗り続けられています。

アニメから自転車に入った方もしかり。現在多くのスポーツバイクが見られるように、累積的にスポーツバイクの愛用者が増加するのはとてもいいことです。単に仲間が増えるということだけでなく、増えることによって自転車に市民権が発生し、声が大きくなることで環境の変化が生じます。

自転車活用推進法施行にもこの影響がありますし、少しずつではありますが、自転車利用環境が確実に向上しているように感じます。

前回では、自転車販売台数の減少傾向が止まらないとお話ししました。人口が減少に転じた現在、販売台数も減少することは避けられません。しかし成熟社会において、肝心なのは実績数値ではなく数値の中身です。

スポーツバイクだけでなく、自転車全体を取り巻く社会も健全に発展していると感じます。ママさんの声で幼児二人同乗可能の法令が実現したり、価値のある自転車が普及することで放置駐輪が減少したり。

自転車が高級品であった昔と比べて、クルマですらシェアする感覚になった現在、自転車もシェアすることが一般化していくことも考えられます。これらのことからも、現在、そして今後も、求められるのは数だけではなくなってくると思うのです。

Connected、Autonomous、Shered、Electric の「CASE」。この4つがこれからの自動車ビジネスのチャンスになるとされますが、これは、そのまま自転車にも当てはまりそうです。

自転車版「CASE」の例。上から「C」=多機能サイクルコンピュータ、「A」=電動コンポーネント、「S」=シェアサイクル、「E」= E バイクユニット。
画像提供:シマノ、キャットアイ、ドコモ・バイクシェア

「A」の自動運転実現化への道のりは一見すると遠そうですし、自転車の根本的な愉しみからも外れるように思えます。しかし、自動変速や電動自動トルク管理実現化など、自転車にも確実に自動化の波は表れていますね。

そして「S」。中国のシェアサイクルにおける現状(惨状?)が日本でも報道されて久しいですが、日本においてはさまざまなシーンを考慮して、慎重に進められているといえるでしょう。一般にいう自転車のシェアビジネスだけでなく、タワーマンション建設時に、最初から住民用に約20世帯単位で1台の電動アシスト自転車を用意する例も多いそうです。

だからといってスポーツバイク等の「所有する喜び」はなくなるものではないので、すべてがこれに取って代わられることもないはずです。

「C」でいわれる接続性と「E」の電動化を考えると、スポーツバイクの未来だけでなく、自転車全体の未来を予想することがとても楽しみになってきます。たとえばスピードメーターは単なる計測機器の域を超えてコンピュータ化、ナビゲーション化しています。

さらには盗難車両の捜索までのIoT利用が進んだり、スポーツバイクの楽しみも阻害せず、スムーズな動作を追求した電動アシスト車が登場したりするはず。

そしてこの進歩は、ハードの技術だけでなく、愛用される方のモラルの高まりや、利用環境の向上も伴って進んでいきます。ほら、これなら自転車全体の未来まで絶対に明るい!!

……と、またまた、夢を逐おう能天気な内容になったかもしれません。しかし、決して夢ではないと確信しています。

Profile

ブライアンこと内藤常美(ないとう・つねよし)

そうそうたる方々も在籍する大学サイクリング部OB会に所属してます(ブライアンは右から2番目)。

リムやラレー、ツバメ自転車でも知られる 新家工業・営業本部勤務。溢れる自転 車愛とエモーショナルな語り口の、知る人ぞ知る業界の重鎮。「ブライアン」の由来は、入社間もない頃に行った英会話教室でのニックネーム。英会話は身に付かなかったものの、当時の仲間とは30年経った今もいい仲間。
【新家工業】

『自転車日和』vol.50(2019年1月発売)より抜粋

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