温故知新 猿屋の山チャリズム《マレット》編 Part.1

時間の流れを振り返ることで見えてくる未来のMTB 像。このコーナーでは誕生から現在に至るまで、日本のMTB シーンのすべてを見てきたノリさんから、引き続き興味深いお話をうかがいます。

今泉紀夫
ワークショップモンキー店主。MTB 誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。
http://www.monkey-magic.com/

最近、よく〈マレット〉という言葉を聞くようになりました。

いわゆる前後異径のタイヤを履いたMTBが流行っているようですけど、過去にもMTBに限らず、前後異径タイヤの自転車は存在していました。いまは競技のルール面でダメになっちゃいましたけど、ロードだと前輪が小径のファニーバイクとか。当時、雑誌の企画で相談されて、うちでは後輪小径のロードを作ったこともあったくらいで。ちょうどMTBが流行り始めた時期と重なっていますね。計算上の効率がいいとかで、前後24インチのロードもありました。実際、短距離ではタイムが案外よくて。でも、めちゃ疲れる。

そんなとき、デザイナーの高津さん(現ジラフの店主)が「1台のコンプリート車で体格の違う人が楽しめるバイク」というアイデアを出してきて、修さん(フレームビルダー/現雷神ワークス代表)と3人で〈ヤマサン〉という前輪26インチ、後輪24インチのMTBを作りました。高津さんは180センチあって、僕は168センチ。いまは2センチ縮んだので166センチですけど。

アメリカではスタンプジャンパーが量産されて、日本でもマディフォックスが発売されたり、うちの店はまだロード色が強かったけど、なんとなくMTBを意識し始めていた頃です。世界選手権に出場する選手のシクロクロス車を作っていたし、MTBはいろんな意味でオーバースックな印象でした。だから「もうちょっと遊びやすいバイクを」という高津さんのアイデアには共感できました。

日本の山遊びはアメリカで流行っていたダウンヒル的なものではなく、オブザーブドトライアルみたいにバランスを取りながらピョコピョコ動かす遊びでしたから。最近のダウンヒルコースのように寝かしたり、跳んだりする走りは山の中では当然できないので、ギャップなんかも前輪を落としていく乗り方で。だから、後輪を動かしやすくて、僕のような小柄な乗り手でも体格面で不利にならない後輪小径は、それなりに具合がよかったんです。

でも、ヤマサンは僕にとってベストと呼べるMTBにはなりませんでした。確かに下りだけの局面では使いやすかったけど、当時はレースに参加する人は別として、いまのようにバイクをクルマで運ぶ人はほとんどいませんでしたからね。自転車遊びは登りも含めて1日中ペダルをこぐスタイルが普通だったので、移動に関して不利だった後輪小径を、その後に続くモンキーのオリジナルフレームには採用していません。
(次回に続く)

 

MONKEY FIT MT.SON (マレット仕様)
モンキー フィット ヤマサン

ショップであるモンキーとプロダクトデザイナー、フレームビルダーがタッグを組むことによって誕生したMTB。オフロード用モーターサイクルのエッセンスを取り入れることで、体格差のある乗り手が共有できるように設計されていた。

フロントタイヤが26 インチ、リアタイヤが24 インチという現在流行中のマレット的なスペックを先取りした仕様も斬新で、後に前後26 インチのモデルも追加されている。

 

『MTB日和』vol.51(2022年12月発売)より抜粋

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