わたしが自転車で旅する理由 第6回 北海道

風を感じ、音を聴く。ほどよいスピードで道端の小さな花に気づく。それぞれの土地で人々とふれあい、自分と向き合う。そんな自転車旅の魅力にとりつかれたサイクリストのストーリーをつづります。

今回の旅は北海道の釧路から苫小牧まで約300kmの距離を走る。まだ4月上旬の北海道。雪のちらつく日もあった。

釧路スタート

海沿いを走り浦幌で一泊、次の日は晩成温泉の近くの浜でキャンプ。温泉で温まるも夜は凍えるほど寒い。夜中に寒さで目を覚ましては浅い眠りにつく。

晩成温泉のビーチで。焚き火にあたって冷えた体を温める。

峠越え

天馬街道を目指す。風が強く体力が奪われる。徐々に雪がチラついてきて手も顔もカチカチなのだが、体は汗ばんでいて寒いやら暑いやらで忙しい。

峠の頂上には4kmほどの長いトンネルがあり、そこを抜けるとやっと下りだ。路肩がないトンネル、となると、当然車道を走らなければならない。国道なので大きなトラックも通る。

トンネル内のライトはあまり明るくなく、ヘッドライトをしないと前方確認ができず危険だ。脇を通り抜けるトラックの光が闇夜を抜ける流星のようにも見える。ボーっとしてはいけない、長いトンネルでは集中力が必要だ。

 
夕食

なんといっても楽しみは食事だ。夕食のメニューはだいたいパスタ。北海道の美味しい野菜を使って野菜盛りだくさんのナポリタンや牛乳を混ぜてスープパスタなど。たまに米も使った。米を炊くというのが私にとってハードルが高かったが、放っておけば炊けるので慣れてしまえば意外と簡単だ。野菜も一緒にいれて、よく炊き込みご飯を作っていた。

 
新ひだか

天馬街道を抜けるとサラブレッドで有名な土地、新ひだかに出る。ちょうど仔馬が生まれる時期で、親子で牧場に立つ姿が見られた。生まれて間もない仔馬でもスッとしたいでたちは凛々しく、背筋を伸ばして地を蹴る姿からは活力が感じられた。

 
アイヌの町

海沿いから再び山間に入り、平取町、二風谷とアイヌの町を訪ねる。ふきのとうが出始めていたので見つけるたびにせっせと収穫した。醤油で炒めたり、パスタに混ぜたりすると美味しい。

北海道では40年くらい前までお土産用の熊の彫り物を作る人が多く、そのためアイヌの伝統工芸品を作る人が減ってしまったという。二風谷は元々観光目的で工芸品を作っていなかったので、今も使うもの、必要なものを作り続けているそうだ。若い人にもその伝統を受け継いでもらいたいと活動している施設もあった。

 
今回の旅は苫小牧まで。春の北海道はまだ寒い日が多かったが、だからこそ、毎日キャンプをして、自転車で走ることで一瞬一瞬、春の訪れを肌で感じられた。自転車旅をしていると一週間でも季節の変化が感じられる、それほど自然と一体になって旅ができるのだ。

新ひだかではあちこちに牧場が。馬たちが自転車で走る私を興味深く見てくる。

 

Profile

かみとゆき
1988年、宮城県仙台市生まれ。小さい頃から家族でバックパッカー、アジアを中心に歩いてきた。19歳で自転車旅に目覚め、その後カナダ横断、ヨーロッパ旅行など自転車旅の面白さを体感していく。愛用自転車はKHSのTR-101。

 
文・イラスト:かみとゆき
『自転車日和』vol.60(2021年11月発売)より抜粋

-OTHER, 連載