ブライアンの自転車備忘録 vol.3

究極にシンプルながら、かくも奥深き乗り物、自転車。楽しみ方から歴史、モノとしての魅力、そして個人的郷愁まで。自転車にまつわるすべてに造詣の深いブライアンが綴る「備忘録エッセイ」です。

メンテナンスについてのメーカー&お店の本音とは

テレビなどの家電製品を購入したとします。最近の家電はPCのように初期設定が必要になる場合がありますが、その後は完全にダウンするまで、何のメンテナンスをすることもなく使い続けられます。

自転車と同じ乗り物であるクルマだって、義務がある車検や定期点検を除いては、しなければならないことはほとんどありません。

エンジンフードを開けたところで、がっちりとカバーされていて、個人でできることはほとんどありません。3回目の車検くらいまで、大幅な修理は必要ないでしょう。

では、愛すべき自転車はどうでしょうか? 数か月でネジの緩みなんかが出てきたりして、お店で調整を依頼する必要もあるかもしれません。

あまり気づかない部分ですが、チェーンも伸びていて交換したほうがいい場合もあります。

そのチェーンは触りたくないくらい油と埃で汚れています。ブレーキでこすられたリムからは黒い汚れが出てしまっています。電化製品やクルマに比べて、なんて手間のかかる製品なのでしょう。

しかし、触らないようにがっちりカバーされたそれと違って、自転車はキカイがほとんどムキダシです。メンテナンスに関しては、ムック本やネットなど、多くの情報が溢れています。ちょっと自分でやってみようかな、って気持ちになってしまうこと、よーく理解できます。

よく見かけるツールセットの例。販売店さんのワークショップなどでプロが使うには、耐久性と精度がちょっと……かもしれませんが、個人で使うには十分とも思います。フルセット仕様だと自転車に使う工具が一式揃いますし、しまう位置が決まっているので、紛失したりすることも防げます。ただし十分に自転車のことがわかってから使い始めるようにしてください(写真は少しだけツールを買い足して、クルマ搭載用にしている筆者所有のツールセット)。

まずはメーカーや代理店などに聞いてみようと、メールや電話をしたりします。返ってくるのは「販売店でご相談ください」など、テンプレじゃないの?と疑いたくなるような返信だったりします。

自分でメンテナンスする旨を伝えてお店で相談するも、店での調整を強く勧められてしまいます。意気込んだのに、どうしてこんなにイヂワルなんだって思ったりもします。

まず、これはイヂワルでないということを申し上げたい。メールや電話を受けた会社は、お客様の技量が分からないのでこう答えるしかない。お店にしても、ちょっと難しいかもと感じたりして、そのようなアドバイスをされているはずです。

メンテナンスに初めて挑戦するには、極端な話、自転車を1台つぶすぐらいの覚悟も必要。つぶすならいいのですが(いいことないですけど)、いい加減に行った調整で大事故になったらこれは取り返しがつきません。

お客様から電話でご相談いただいたとき、先のテンプレのような回答をした後に、「ここからは自転車好きのオッサンとしてのお話ですが……」と前置きして言うことがあります。ホントはご自身で触ってもらいたい。

メンテすることで、不具合も早めに見つかるかもしれない。冒頭のデメリットの裏返しにもなるのですが、自転車ほど互換性に富んだ製品はほかにありません。

○ペシャのサドルをラ○―のバイクに付けることができるなんて、クルマではあり得ないこともいっぱい。メンテだけでなくカスタマイズの愉しみなども幅広いこと……など。

そして、続けて言います。まずは自転車を掃除してみてくださいと。掃除はとりあえず、工具や調整の技術を問いません。

油汚れはちょっといやだけれど、細部まで掃除することで、それまで見えていなかった各部の構造を改めて確認できます。

使い捨てのペーパーウエスという便利なものもありますし、作業手袋(いわゆる軍手ですね)の下に薄手のゴム手袋をすれば、指先のしつこい油汚れからも逃れられます。

ペーパーウエス、作業手袋、薄手ゴム(ビニール)手袋。まずはこれで、拭き拭きのお掃除から始めましょう。ケミカル用品もさまざま発売されていますが、使い方を間違えると、樹脂系パーツなどが損傷してしまう場合もあるのでご注意。また、乾いた泥が付いたまま拭き取るとフレームや部品の傷になることも。「ちょっとヤバいかな」と思われるときは無理せず、水分を含ませて柔らかくしてから拭きましょう。怪我には十分注意して作業してください。薄手ゴム手袋は、細かい作業もできて輪行にも便利。

これだけ買っても、近くのホームセンターで1500円足らずの投資。パーツクリーナーは頑固な油汚れには強力だけど、不向きな部分もあるので熟練者向きです。

自転車がキレイなだけでお店からも一目置かれ、もっと相談に乗ってもらえるようになるかもしれません。調整を依頼して預けた自転車の順番待ちが繰り上がるかもしれません(確信ないけど)。

あるお店の方がおっしゃっていました。お客様にあえて変速機の調整方法は教えないけれど、パンク修理・チューブ交換だけはマスターしてもらうそうです。変速できなくなっても、走り、押し、帰ってくることはできるけれども、出先でパンクした自転車は、押すことすらできないから、というわけ。なるほど、です!!

自転車は、唯一残された男の子のキカイのおもちゃ、とも言えます。昨今は残念ながら男子のキカイへの関心が薄れ、むしろ女子の方が関心高くなっているかもしれません。技術立国ニッポンのためにも、もっと多くの方々へ、機械の基礎である自転車に関心を持ってもらいたいと思います。

Profile

ブライアンこと内藤常美(ないとう・つねよし)

最近は、協会や専門学校の講師の要請も承け、頑張っているブライアン。

リムやラレー・ツバメ自転車でも知られる新家工業、輪界営業部勤務。溢れる自転車愛とエモーショナルな語り口の知る人ぞ知る業界の重鎮。「ブライアン」の由来は入社間もない頃に行った英会話教室でのニックネーム。そのとき英会話は身に付かなかったが。30年経った今も当時の仲間とは仲良し。
【新家工業】http://www.raleigh.jp/

『自転車日和』vol.38(2015年10月発売)より抜粋

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