いまさら聞けない自転車の基本をコッソリおさらい|チリンチリン基礎講座「カスタムにまつわるあれこれ」その1

自転車を趣味にしたら、いずれは辿り着くカスタムへの道。目的はそれぞれ違えども、より自分のスタイルにマッチした愛車へ少しずつでも変えていきたい。今回はそんなカスタムの話を少々。

自転車のカスタムってどんなもの?

“カスタム”と言葉にすると、なにやら大袈裟に聞こえるかも知れません。

クルマでいうところの“カスタム”や“チューニング”が、いわゆる“改造車”をイメージさせる非合法的行為と捉えられがちだからでしょうか。

きちんと法律に適合する範囲でカスタムを楽しんでいるモーターファンにとって、それはとても悲しいことですよね。

では、自転車の場合はどうでしょう?

一部にハンドルを極端に短くカットしたり、ブレーキを取り外したり(または取り付けなかったり)、安全性を損ねるカスタムをおこなう人も見かけます。

ですが、それは極めて稀な例。大半の人は、自分のスタイルに合わせて見た目や機能を向上させる、スマートなカスタムを楽しんでいます。

気に入ったベルを取り付けてみたり、ステッカーを貼ってみたりするだけでも、それは立派なカスタム。初心者のみなさんも臆することなく、愛車を自分流にアレンジしていきましょう!

公道を走ることを前提とすると、クルマやオートバイは交換できる部品が限られてきます。そもそも取り外せる部品もそれほど多くはありませんし。

ところが自転車の場合、骨格となるフレームを基軸に、すべての部品を取り外し&交換することが可能です。

元々自転車の形で販売されている“完成車”であっても、ごく一部の特殊な車両を除き、そのほとんどが部品単体までバラすことができるのです。

つまり、カスタムの可能性は無限大といっても過言ではありません。

もちろん、パーツを交換するだけがカスタムではありません。気に入ったアイテムを追加したり、部分的に色を塗ってみたりするのも大いにアリ。

大まかなセオリーこそありますが安全性が損なわれない限り、自由な発想で楽しむことができるのです。

例えばこんなカスタムの楽しみ方

では、カスタムの方向性にはいったいどういった傾向が見られるのでしょうか?

まず、自転車を購入した目的を思い起こしてください。

ある人は通勤や通学の足として、またある人はライフスタイルを彩るアイテムのひとつとして。競技にエントリーするためにスポーツ車を購入した人もいることでしょう。

その目的の数と同じだけカスタムの方向性が存在し、それらを組み合わせて自分好みに仕上げていくケースもあります。

懐具合も人それぞれですし、狙って真似てみたりでもしない限り、まったく同じ自転車を作り上げる方が困難。

イメージが湧きにくい場合は、自転車を購入したショップのスタッフに相談してみましょう。目的に合致したアイデアを提供してくれるはずですよ。

◎速度域を向上させるには……


車体各部を軽量なパーツに交換、ベストなポジションを作るハンドル&ステムに交換、転がりの軽いタイヤに交換、回転部位のチューンアップ、ギア比の最適化など

◎快適性を向上させるには……

路面の段差や継ぎ目に強いクッション性の高いタイヤに交換、お尻の形にフィットするサドルに交換、手の平に馴染むグリップ&バーテープに交換など

◎ルックスを向上させるには……

各部を自分好みのカラー&素材&形状のパーツに交換、フレームほか気になる部分を自分好みのカラーにペイント、お気に入りのブランドでコーディネイトなど

◎実用性を向上させるには……

夜間も視界を確保できる明るいライトを装着、積載性を高めるキャリアやバスケットを装着、停車時の安定感を高めるダブルレッグタイプのスタンドを装着など

カスタムの基礎知識 PART 1
タイヤのはなし

自転車を含めた路上の乗り物が唯一、路面と接している部分がタイヤ。つまり走るも止まるも、タイヤの話を抜きにしては始まりません。

で、このタイヤも交換可能です。「そんなんあったりまえじゃん」と、自転車上級者はおっしゃるかもしれませんが〈タイヤ=車輪まるごと〉と思っている初心者もいらっしゃるのでお許しを。

もちろん、知らなかったからって恥ずかしいことはありません。

タイヤとは車輪の外側をグルっと巻いている黒いゴム部分のことで、そのゴムを取り除いた残りがホイールです。

さらに分解していくと、ホイールの枠に当たる輪っかの部分がリムと呼ばれるパーツで、タイヤはこのリムにはめ込まれています。

一般的なタイヤの内側には浮き輪状のチューブが収められていて、そこに空気を入れることでタイヤが膨らむ……そんな仕組みになっています(近年はチューブレスタイヤも増えています)。

このタイヤですが、実にさまざまな形状(路面と接する部分の凹凸や溝)やサイズが存在します。

ここでは話が複雑にならないように形状の話はよそに置いておいて、サイズについて考えてみます。むしろ、太さといったほうがよいでしょうか。

まず、タイヤをはめ込むリムの径が同じ2組のホイールに、それぞれ太いタイヤと細いタイヤを取り付けてみましょう。

ここで「薄い、厚いじゃないの?」と思われた方は、きっとタイヤを横から見ているはずです。

縦に回して見ればよく分かりますが、前提としてタイヤの断面は丸いものと考えて下さい。

細いタイヤの方が使用しているゴムの量が少ないため軽量で、路面との接地面積が小さいために摩擦抵抗が少なくなりよく転がります。タイヤ自体のヨレが少ないのも特徴のひとつです。

対して太いタイヤの方は中に空気がたくさん入るため、クッション性に優れていますが、その分重量は重たくなります。

つまり、いまより軽快に走りたいのならさらに細めのタイヤを、路面の段差や継ぎ目を気にせず快適性を求めるなら太いタイヤを、といった具合に、太さはタイヤ選びの目安にもなります。

細いタイヤほど走りは軽快に。スピード重視のロードバイクの場合、25mm幅や28mm幅の細いタイヤが一般的。

太いタイヤほどソフトな乗り心地に。悪路を走るMTB(マウンテンバイク)の場合、2インチ(50.8mm)~2.6インチ(66mm)程度が一般的。

 
取り付けられるタイヤの太さには限界がある

自転車に取り付けられるタイヤの太さには限りがあります。まずは自分の自転車をよく観察するところから始めましょう。

後輪側のタイヤとフレームの隙間をよく見て下さい。自転車のフレームは走りの方向性に合わせて設計されていて、その方向性に合致するサイズのタイヤがセットされています。

よって、その隙間はそう広くはないはずです。この隙間分しかタイヤを太くすることができないため、極端に太いタイヤを装着することはできませんし、仮にできたとしてもその自転車本来の性能を損なう可能性もあります。

「だったらタイヤなんて交換する意味ないじゃん」と思われるかもしれませんが、そのわずかな太さでも走りや乗り心地は大きく変わります。ここがカスタムのおもしろいところでもあり、奥深いところでもあります。

また、同じサイズ表記のタイヤであっても、メーカーや銘柄の違いで誤差があるため、すべてがドンピシャで装着できるとも限りません。

ここでも、タイヤについて熟知したショップスタッフのアドバイスは欠かせません。「もっと軽快に走りたい」「もっとソフトな乗り心地にしたい」といった自身の要望を元に、相談してみることをオススメします。

太めのタイヤに交換したらフレームに干渉して車輪が取り付けできない……という事例も。基本的に現物合わせでしか装着の可否はわからないので注意が必要。プロのアドバイスを仰ぐのが1番です。

リムに関してもそれぞれ装着できるタイヤの太さは限られています。細めのリムに太いタイヤを無理に装着したり、太めのリムに細いタイヤを装着したりすると最悪の場合、走行中にタイヤが外れる危険も。


 
タイヤの価格の違いはどこにある?

少々乱暴な物言いではありますが、タイヤに限らずパーツの値段の違いは、その重量に起因することがほとんど。

つまり、タイヤに関しても高額なアイテムはそれだけ軽量、ということになります。

もちろん、軽くするだけであればその分薄く作ればいいのでそれほど難しい話ではありませんが、重いタイヤと同じだけの剛性&グリップ性能を維持しつつ、軽量なアイテムに仕上げるのは至難の業。

それだけ複雑な技術を駆使したり高額な素材を使用したりすることで、高性能なタイヤに仕上げているのです。

高級なレーシングタイヤには価格以上の価値があると考えて間違いありません。

ただし、耐久性や耐パンク性はまた別の話になるので、ロングライフのものを求めている人にはオススメしかねます。

 
どうしてタイヤの色は黒ばっかり?

最近はさまざまなタイヤメーカーがカラータイヤをリリースしていますし、それらをカスタムに取り入れている人も増えています。

つまり、自転車のタイヤはすでに“黒ばっかり”ではありません。

余談ですが、クルマやオートバイには自転車のようなカラータイヤが存在しません。

それはなぜ? 黒い必要があるからです。

タイヤの表面に使用するゴムにはカーボンが含まれています。

この炭素の粉を混ぜることでゴムの強度や耐久性は飛躍的にあがりますし、それらが“止まる&走る“に欠かせないからです。

となると「自転車のカラータイヤは危ない」という話にもなりそうですが、車やオートバイとは重量もスピード域も異なる自転車。

ゆえにカラータイヤでも走行に支障を来すようなことはありませんので、ご安心を。

ちなみに各自転車レースではほとんどの車両が黒いタイヤを履いているのが現状。

やはり、性能面を優先させるのであれば“タイヤは黒”、ということなのでしょうか?

 
イラスト:田中 斉 文:トライジェット
『自転車日和』vol.31(2014年1月発売)より抜粋

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