マウンテンバイクはじめました(第3回)「オフロードのサイクリング」

一緒に楽しく成長!

「興味はあるけど一歩踏み出せない」そんな未経験者は必見! MTBに興味を持ってこの本を手にした貴方、友人や家族の横でこの本をチラ見している貴方。そして、友人や家族の影響で挑戦したものの「いきなり難しいコースに連れ出されて挫折してしまった」という貴方。乗り出すなら気になったいまがチャンスです! 一緒に楽しく成長してみませんか?

 

教えてくれる先生はこの人!
高山一成さん
埼玉県和光市のプロショップASTのメカニカルスタッフでありながら、秩父滝沢サイクルパークのコースディレクター&インストラクターも担当する高山さん。BMXレースでは世界選手権でも活躍、MTBではエリートクラスで4Xに参戦してきたプロライダーキッズたちの育成ほか、日本のBMX&MTB の普及に尽力する頼もしい先生。

HARO DOUBLE PEAK 27.5"COMP

「高額なMTB ではなくても楽しく走れる」ことを証明するべく、先生が新たなパートナーとして選んだMTB。完成車価格は税込み15万4000円。山遊びに必須となったドロッパーポストの装着、自分好みのポジション合わせと軽量化を見込んでハンドル&ステムを交換、グリップ力が増すタイヤなど、最低限の出費でできるカスタムが施されています。

 

教えてもらう生徒はこの人!
猫のミヤハラ

スポーツバイクの乗車経験はほぼ皆無ながら、本企画を遂行するために『猫びより』編集部から連行されてきた若手の人柱。連載化が決定したことでMTBにも俄然、興味が湧いてきました。都内在住で、MTBを運ぶクルマも所有していないため、気軽に山遊びに出かけられないのが目下の課題。まずは身近なオフロード探しからです

KONA BIG HONZO DL(借りもの)

ミヤハラ専用機として投入されたニューバイク。小柄な女性でも扱いやすい27.5インチのハードテイルで、エアサスペンションフォークを標準装備しながら、自転車本体の価格は税込み15万5100円とコストパフォーマンス抜群のモデルです。Sサイズのメーカー推奨身長は152センチからなので、体格面で無理する必要もなし(ドロッパーポストは借りもの)。

 

砂利道から始める山道のオフロードのサイクリング

高山先生のレクチャーを受けて、前々号でMTBの操作方法を覚え、前号でスタンディングの基本フォームを身につけたミヤハラ。「今号ではいよいよMTBパークデビュー?」などとドキドキで妄想していたところ、高山先生から「MTBを手に入れたからといって、必ずしもMTBパークでスポーツ的な乗り方をする必要はないんです。

MTBに限ったことではありませんが、自転車本来の楽しみがサイクリングにあることは間違いありません。せっかくオフロードを快適に走れるMTBを手に入れたのですから、まずは自然に囲まれた山道でサイクリングを楽しんでみませんか?」との提案が。もちろん、興味があればスポーツとしてMTBパークでテクニックを駆するような走り方をするのもいいと思いますし、それらコースでのスポーツ走行を入り口と考える人も少なからずいるはずです。

しかし高山先生によれば「サイクリングを楽しむことのできる人の方が長く自転車と付き合っていける」のだとか。なるほど、スポーツは追求していくとストイックになりがちだし、息切れしちゃうこともありますからね。

というわけで今回はめでたく、ミヤハラのトレイルライドデビューとなりました。とはいえ、MTB初心者のミヤハラですから、木の根や大きな石のあるシングルトラックを走るのはまだまだ先のお話。まずは道幅が広めの砂利道でオフロードのサイクリングを楽しみます。

 

必要なものはこれだけでOK!

着用が努力義務化されたヘルメット、手のひらを怪我から守るだけでなく疲労も軽減してくれるグローブ、タイヤに巻き上げられた砂や木の枝葉から目を守るサングラスはマウンテンバイカーにとって必須アイテム。山の中にはコンビニや自販機がないことがほとんどなので、水分とちょっとした補給食も忘れずに。

 

ヘルメット

オンロード、オフロードを問わず、スポーツバイクに乗るときのヘルメット着用はもはや常識と言えます。

 

グローブ

指をフルで覆うタイプのグローブがおすすめ。ロード用の指先が露出したグローブはなるべく避けましょう。着用感やサイズ感はアイテムによって異なるのでできれば試着して選びたい。

 

サングラス

オフロードを走る場合、路面の凹凸がくっきりと見えることが大切です。ゆえにサングラス選びは何気に重要なポイントです。購入を検討している人はなるべくショップで相談を。

 

飲みもの

これからさらに汗をかきやすい時期に突入します。ちょっとしたサイクリングでも飲みものの携帯は必須。走る距離や時間から逆算して、量は少し多めに見積もっておくことが大切です。

 

 

補給食

オフロード走行では乗っている本人が気がつかないうちに意外なほどエネルギーを消耗しています。おやつ代わりのつもりで糖質を摂取できる補給食を携帯しておけば安心です。

 

携帯電話・財布・身分証明書

非常時の連絡用としてはもちろん、スマートフォンであれば地図の確認等にも使えます。しっかり充電した状態で走り出しましょう。身分証明書は保険証として使えるものがベストです。

 

あるとなにかと便利なアイテム

特にこれからの季節、背中にリュックを背負っているとサイクリングの快適性は一気に低下。荷物はなるべく身につけたくありません。飲みものを固定するボトルケージ、財布や携帯電話を収納できるサドルバッグやハンドルバッグがあると快適に走れます。寄り道したくなったとき用のカギも持ち歩くと便利です。

 

サドルバッグorハンドルバッグ

山道のサイクリングはなるべくバッグ類を身につけず走った方が快適です。サドルバッグやハンドルにしっかりと固定できる小型バッグがあれば◎。

 

ボトルケージ

水分がそれなりの重さになるので、できるだけ自転車側に取り付けておきたい。ペットボトルをそのまま固定できるタイプのボトルケージもアリ。

 

カギ(左)・携帯工具(右)

走り出して初めて気がつく車体のがたつき……なくもない話です。自分用の携帯工具をひとつは携帯しておきたいところ。カギも用意しておけば寄り道したくなったときに安心です。

 

トレイルライドデビューの大原則

 

その① 経験者に同行してもらう

そもそもMTB初心者は走っても問題ないトレイル(山道)がどこにあるのかわかりませんし、トラブルが発生したときに対処もできません。必ず経験者に同行してもらいましょう。身近に経験者がいないという人はまずMTB を購入したショップのスタッフに相談を。ユーザーフレンドリーなお店であればアテンドしてもらえるはずですよ。

 

その② なるべく身軽な装備で走る

山の深い場所まで入っていく上級者であればパンク修理キットや工具ほか、相応の装備を抱えて出かける必要がありますが、荷物が多くなるほどサイクリングの楽しさは削られていきます。最初は走る距離を短めに設定して(10kg以下)、ポケットやポーチにすべて収まるくらいの、必要最低限の装備のみ携帯して出かけましょう。

 

その③ 絶対に転ばない

物事に絶対ということはありませんが、高山先生いわく「絶対に転んで欲しくない」とのこと。せっかくのトレイルライドデビューで転倒、ましてや怪我をするようなことがあれば、MTBに対する気持ちも萎えてしまいます。サイクリング中にスポーツ的なチャレンジ行為はご法度。速度を抑え、安全第一で自然に囲まれた風景を楽しんでください。

 

走り出す前にもう一度チェック


車体各部の緩み


車内に積んでいる場合はステムのボルトを緩めてハンドルを切っていたり、ルーフのキャリアに積んでいる場合は前輪を外していたり、クルマでMTBを運んで出かける人は特に注意。走り出す前に車体各部の緩みを必ず再チェックして下さい。「絶対に転ばない」ために欠かせないプロセスです。

 

タイヤの空気圧


家から自走する場合は出かける前に、山の近くの駐車場にクルマを停める場合はMTB を降ろす際に、タイヤの空気圧をチェック。オフロードは路面に凹凸があるので、タイヤのクッション性が活かせるように、空気圧はタイヤに記載されている規定値の範囲内で低めにセットするのがおすすめです。

 

安全に楽しむためのポイントとマナー


準備が整ったらいざ出発!

 


①なるべく道の左側を走行する

山道といえど走行上のルールは基本的に公道と大きく変わりません。特に道幅の広い林道では、進行方向から自転車や歩行者だけでなく、クルマやオートバイなどの車両が向かってくる可能性があります。一見、人の気配のない場所であっても、市街地を走行するときと同じように、なるべく道の左側に寄って走行するよう心掛けます。

 


②見通しの悪い場所での予測

道の幅が狭くカーブしている場所では、対向車や人をいち早く察知する必要があります。「多分、大丈夫」という考えはとても危険。特に速度が出やすい下りでは、勢いにまかせて進むことなく「反対側からなにか来るかも」と常に予測しながら、低速で進む必要があります。いかなる状況にも対応できるように気をつけて走るように。

 


③停車するときは後方に注意

停車するときは一気に速度を落とすのではなく、徐々にスピードを落としながら、後方から車両が迫ってこないことを確認して、なるべく道の端に停まるようにします。オフロードは舗装された公道と異なり、タイヤが滑りやすく急停車はできません。仲間同士で走るときも、追突事故を防ぐために「停まります!」の声かけを。

 


④山道でも歩行者優先は常識

山道ではトレッキングを楽しむハイカーに遭遇することも少なくありません。歩行者とすれ違うときや追い抜くときは、道幅に余裕のある場所であっても徒歩レベルまで速度を落として、歩行者に不安を与えないように通過します。道幅の狭い場所では停車、押し歩きで歩行者の安全を第一に。挨拶できるくらい気持ちにゆとりを持って。

 


⑤道端の草花の採取は厳禁

MTBで走れるような里山には、行政であり、民間であり、そのすべてに地権者が存在します。その山に生息する動植物はすべて地権者の所有物であって、許可なく採取することは犯罪行為と見なされます。部屋に飾れそうな美しい花、食べられそうな山菜を見つけたとしても、勝手に持ち帰ることはできません。目と心で堪能しましょう。

 

オフロードを走るときのテクニック

 

その① 下りではわずかにブレーキが利いた状態を保つ

砂利が敷かれた林道など、ある程度整地されているオフロードは、木の根や岩が露出しているようなシングルトラックよりも安全で走りやすい反面、浮いている砂利や砂で滑りやすい点は否めません。

特に距離の長い下りで速度が上がりすぎると、安全に減速また停車できず、転倒するような事故に繋がることも。そんな場面で必要なテクニックがこちら。ブレーキレバーを軽く引いて、ブレーキがわずかに利いている状態を維持したまま走行します。


車輪は転がっていくが、わずかにブレーキが利いているため、極端にスピードが上がることなく、安全に下っていける。


レバーを引いてもブレーキがかからない範囲(ブレーキの遊び)でレバーを引き、わずかに抵抗を感じる位置でキープ。

 

その② 通過しやすい路面のラインを選んで走行する

整地されている砂利道のオフロードであっても、路面の起伏は走るラインによって大きく異なります。仮に走れる道幅が1メートル程度であったとしても、タイヤが通過するラインは無数に存在するのです。大きめの石を乗り越えたり、路面がくぼんでいるラインを通過すれば当然、車体の挙動が大きくなり、安定感を失いやすくなります。MTB初心者であればなるべく路面の衝撃を受けにくい、走りやすいラインを選択した方が安全です。


大きな石の上を通過すれば当然、車体に挙動が出やすくなるが、スキルが追いついてくるようになったら、あえて難しいラインを選んで走るのも◎。


なるべく大きな石やくぼみのあるラインを避けて走るミヤハラ。前号でスタンディングの姿勢を覚えたこともあり、砂利道の下りはもう余裕!?


高山先生が示したわずか50 センチ程度の範囲ですら、大きな石と小さな石が点在しているライン、路面がくぼんでいるラインなど、いくつもの走行ラインを見つけることができる。


脱水しやすい季節になってきたので、こまめに休憩して、しっかし給水&エネルギー補給もしましょうね!

 

写真:村瀬達矢 文:トライジェット
『MTB日和』vol.53(2023年7月発売)より抜粋

 

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