わたしが自転車で旅する理由 第4回 フランス

風を感じ、音を聴く。ほどよいスピードで道端の小さな花に気づく。それぞれの土地で人々とふれあい、自分と向き合う。そんな自転車旅の魅力にとりつかれたサイクリストのストーリーをつづります。

今回は2019年の、フランス、スペイン、ポルトガルまでの旅をつづる。輪行をまじえながら3カ国を走る予定だ。

9月6日 ナント

フランスを訪れるのは初ではないが、パリ以外を走るのはほぼ初めて。ナントの町は小さく、古い町並みが多いからか、道も狭い。クルマにクラクションを鳴らされながら大きい荷物を載せて走っていると魔女の宅急便のキキにでもなったような気分だった。

9月7日

田舎は牛が多く、ゆっくりと時が流れているようで気持ちがいい。出会った人に気さくに話しかけられるが最初からフランス語。

「Oue~?」というのは「Where~?」ということらしいので「ハポン!」と答える。なんとかやりとりができると嬉しい。

9月8日

キャンプ場でおばあちゃんが「私のキャンピングカーにおいで」と招待してくれた。彼女はまったく英語が話せず、私はまったくフランス語が話せない。身振り手振り、知っている単語を並べて会話した。

9月16日 ラ・ゴッシェル

大西洋に面した古い建物の多い美しい街に2泊滞在した。ユースホステルで同室のディアナはストリートミュージシャン。今夜、歌うというので一緒に行ってみることにした。歌うディアナを見ながら私は、彼女の中に翼を広げて空高く舞う大きな鷲をイメージした。

3~4件回ると夜の11時を過ぎ、ほとんどのお店は閉まっていた。マクドナルドに行く? と聞くと、「どうせなら体にいいものを食べたい」と。

ようやく開いているバーを見つけたので、そこで大盛サラダをオーダーした。ベジタアンなの? と聞くとそうではないという。何が入っているかわからないハンバーガーや、どんな油を使っているかわからないフライドポテトは食べたくないだけ、らしい。

9月14日

松林と砂の道で迷う。ひたすら南へ自転車を押して歩く。

キャンプ場を出てから走りだしは順調。このまま沿岸を南に進むだけだ! と松林に続く道を飛ばしていると、どこで間違えたのかだんだん道なき道となり、ついには深い砂の上を押して歩く羽目に。

見渡す限り松林で、正しい道がわからない。スマートフォンは圏外で、太陽を見ながら方向を探るしかない。林の中にいても暑く、のどは乾くし、おなかも減る。アブや蚊が寄ってくるし、泣いてもわめいてもだれもいない。自転車で走れば何ともない距離だが、30キロくらいを延々と押して歩いた。幸い水には余裕があったので、今日抜け出せなくても明日にはこの森を抜け出せるだろうと、意外と落ち着いてはいた。

少し開けたところでふと横を見ると丘の上を人影がさっと通り過ぎた。ようやく自転車に乗って走り始めることができた。ビーチに出たので野宿の場所を探す。カナダでは平気で野宿をしていたが、フランスでの野宿は初めてだ。言葉が通じないことや海が近いので水道の水を安心して飲めないことからの不安が大きいのかもしれない。田舎に行っても観光客が多く、どこにでも人がいるので野生動物の危険性より、レイプや人さらいの方が怖かった。

9月11日 ビアレッツ

知り合いの実家に滞在。ビアレッツの町は波がいいのでサーファーが集まっている。観光スポットもあるしビーチもきれいなので観光客も少なくない。自転車を置いてビーチでのんびり。美味しいご飯を用意してもらい、身体もしっかり休まった。

フランスでお世話になった知り合いへ描いた、イラスト。

フランスの美しい教会の前で一休み。

 

Profile

かみとゆき
1988年、宮城県仙台市生まれ。小さい頃から家族でバックパッカー、アジアを中心に歩いてきた。19歳で自転車旅に目覚め、その後カナダ横断、ヨーロッパ旅行など自転車旅の面白さを体感していく。愛用自転車はKHSのTR-101。

文・イラスト:かみとゆき
『自転車日和』vol.58(2021年4月発売)より抜粋

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