温故知新 徒然MTB談話室 第7回

前回「なぜ日本のMTBブランドは姿を消してしまったのか?」というテーマを中心に会話が進んでいったこのコーナー。しかし、Eバイクを取り巻くシーンはちょっと様子が異なります。パナソニック、ミヤタ、ヤマハほか、日本を代表するメーカーが続々と参入。今回もスペシャルゲストをお迎えしてお届けします。

Profile

  

中沢 清(写真左)
CSナカザワジム店主。西多摩マウンテンバイク友の会会長として、MTBを取り巻く環境の改善と次世代のマウンテンバイカーの明るい未来のために日々奮闘中。弊誌『MTB 日和』ではインプレッションライダーも担当。
今泉 紀夫(写真右)
ワークショップモンキー店主。MTB誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。

中沢:かつて、日本のMTBブランドはあこがれの対象でした。海外のレースも走っていたのにいつしか……。

その理由について前回、ノリさんは「パッションが足りないから」っていってましたよね。

そんな中、Eバイクという新しいアプローチで日本のブランドから次々とMTBタイプがリリースされています。

ノリさんはすでにミヤタのリッジランナーを所有していますけど、一体どんなつもりで買ったんですか?
 
今泉:ものとしての興味は当然ある。で、海外の状況を見ながら、MTBの電動アシストはどういう方向にいくのか考えていたら日本でも騒ぎ出して。

乗ってもいないのにどうこう言えないし、シマノのSTEPSも使ってみたかったから。借りものを乗るだけじゃなく、自分が所有するバイクとしてちゃんと判断しないと。

一般車としての電動アシスト車はすでに普及しているけど、そういうものにも乗ってこなかったからよくわからなくて。
 
中沢:自分は立場的にEバイクに乗る機会は結構あるんです。二次交通サービスを充実させるための東京都の事業などをお手伝いさせて頂く中、一般車の電動アシストでガイドすることもあって、その実験的なプランに少しだけダートを入れてみたら意外におもしろかったんですよね。

ただ、昨年たくさん発売された(MTBタイプの)日本向けEバイクを見ていて、MTBが好きで作ったようには見えなかったんです、失礼かもしれないけど。
 
今泉:それは同感。
 
中沢:MTBの形をしている電動アシスト車でとりあえずダートも走れる、くらいなイメージ?
 
今泉:海外ではシマノをはじめ、普通のコンポを供給するようにスポーツ車メーカーへユニットを卸していますよね。僕はそれでいいと思うんですけど、日本は型式認定とかいろいろあるから。
 
中沢:海外のEバイクって、それまで作ってきたMTBの延長上にあるじゃないですか。

日本の場合、そこにポッカリと穴が開いていて突如出てきた感じがするんですよ。とりあえず的なレジャーツールみたいに。
 
今泉:海外でも観光用にEバイクを活かしていて、レンタルで乗れるところはありますけど。
 
中沢:正直、メーカー側がなにをしたいのかよく分からないから、逆に興味があるんですよ。

パナソニックが最初に出したモデルはハンドル幅が660mmだったじゃないですか。

ヤマハにしてもこれまで一般車のPASを売ってきて、今度はMTBを出してきた。オン、オフ問わず、これまでスポーツ車として世界の頂点を争うオートバイを作ってきたヤマハがですよ。果たしてPASの延長として出したのか、MTBとして考えて開発したのか。
 
今泉:僕にとってのヤマハは発動機屋さんですから。トヨタのスポーツエンジンはヤマハだし、PASに関しても自転車メーカーが作ったママチャリの車体にヤマハの発動機を積んだもの、そういう印象でした。

自転車というパッケージで考えたとき、MTBというスポーツ車に落とし込んだとき、それって乗っても楽しくないんじゃないの? という疑問がありました。
 
中沢:自分が遊んできたMTBの世界感に対して、電動アシスト車はイレギュラーな存在ですからね。

これまで自転車を作ってこなかったメーカーが出してきたEバイク、実際のところどうなんでしょうね?

GUEST
ヤマハ発動機
SPV事業部マーケティング部
商品企画担当 鹿嶋さん(取材時)

中央がYPJシリーズの商品企画を担当するヤマハ発動機の鹿嶋さん。自身もロード、MTBを所有するスポーツバイクの愛好家だ。

中沢:今回はこの対談のため、YPJ シリーズの生みの親としてヤマハ発動機の鹿嶋さんに、はるばる静岡県の磐田市から西多摩までお越し頂きました。

ノリさんとも話をしていたんですよ、パナソニックやミヤタが電動アシストの可能性をテーマにMTBタイプのEバイクを発売する中、電動アシスト車の元祖でもあるPASを世に送り出したヤマハがなぜYPJ-XCをリリースしたのか。

意地悪な言い方に聞こえるかもしれませんが、ロードバイクタイプ、クロスバイクタイプが先にありましたよね。そこで、「MTBも出しておこう」だったのか「MTBを出さなくちゃいけない」だったのか。
 
鹿嶋:そこは「絶対に出すべき」というか「出さなくちゃ意味がない」ですね。
 
中沢:それはどうして?
 
鹿嶋:一番の理由は、電動アシスト機能が驚きや感動を呼ぶシーンは舗装路の上を走る電動アシスト車以上に、それまでたどり着けなかった場所にまで連れて行ってくれる存在、現実と理想のギャップを最も表現できる存在がMTBだったからです。
 
中沢:それはPASにはない世界観ということですか?
 
鹿嶋:実用車的に、日常の下駄代わりとして楽に、快適に移動することが目的であればPASだけで十分です。

乗って楽しむことに重きを置いた電動アシスト車をあえて別ブランドで出したかった、それがYPJシリーズなんです。
 
中沢:ということはPASの延長線上ではないんですね?
 
鹿嶋:考え方としては延長線上にはありません。まず、YPJ シリーズ最初のモデルとしてドロップハンドルを装備したロードバイクタイプのYPJ-Rを意図的にリリースしました。

というのも従来、体力の補完器具として見られていた電動アシスト車と対極にあるところにロードバイクがあったからです。

新しいものを提案していくという意味でも、あえて一石を投じる必要がありました。PASに乗られているお客さまが「こっちの方がいい」と流入しているケースも相当数ありますけど。
 
今泉:それは仕方がないことですよね。フ○ラーリを購入してマ○クにいけるお金持ちであれば別にYPJをPAS 代わりに使ってもいいわけだし、メーカー側から「それはダメよ」とはいえませんから。

うちのフレームも「そうは使って欲しくない」という願望はあっても「カゴを付けてママチャリ風にしてくれ!」と言われればやりますよ、その人の使い方に納得できれば。
 
中沢:納得できるんですか?(笑)
 
今泉:可能性はある。 
 
鹿嶋:開発段階では社内のさまざまな人にさまざまな場所で乗ってもらい、スポーツ車に親しみのない人の意見も参考にしながらテストしてきました。

ただ、初代PASのときからリリースの1ページめに記載している〈人間感覚最優先〉という考え方はYPJシリーズでも変わりません。もの作りの基本思想として受け継がれています。

別に「受け継がなくちゃだめですよ」と言われているわけではありませんが、開発スタッフ、マーケティングのスタッフを問わずずっと通じている、流れているものはありますね。
 
中沢:今回、YPJ-XCに乗ってみてすごく平均点の高いところにあるバイクだと感じました。もちろん、MTBとして。

自分の感想としてはアグレッシブスポーツとかそういうのではなくて、普通に乗れるというか、レクリエーションバイクとしての落とし込みがすごく上手い。MTBにかなり乗っている人が開発スタッフの中心にいるのでは?
 
鹿嶋:企画の担当者は私ですけど、多くのスタッフが自らMTBに乗っていたり、YPJ-XCを開発するに当たってMTBを購入したり、実験スタッフには元々トレイル向けオートバイの評価を担当していた人もいますから、特にハンドリングや車体のバランスには自信があります。

単に趣味で乗っているスタッフだけではなく、オートバイで知見を貯めた人にも乗ってもらい、作り上げたモデルですから。
 
中沢:直球で伺いますけど、一番のターゲットとしているのはどんな人ですか?
 
鹿嶋:まず、2015年の東京モーターショーでコンセプトモデルを発表して会場の反応を見ました。

ターゲットをひとつに絞り込むのは理想ですが、どうしても絞り切れないところはあります。あえてターゲットを大きくふたつに分けると、ひとつは昔からMTB に乗っているけど最近、それがきびしくなってきたという方。

つまり、ヨーロッパと同様のパターンですね。同じコースを同じ時間では走れなくなったという方に、若返ったかのような走りを届けるために。

もうひとつは新しい乗りものとしてポジティブに捉えて頂ける方に向けてですね。そのどちらもターゲットとなり得る感触はあります。
 
中沢:だれが乗っても楽しい乗りものを作った、ということですね。話は飛躍しますけど、フルサスは考えていないんですか?
 
鹿嶋:フルサスに関して要望は多いですね。買って頂いたお客さま、買おうかどうか迷っている方、販売店を含めて。検討しています。
 
今泉:それはわかる気がする。商品としてもキャッチーだし、入口を変えるという意味でもいまの道具として考えるならフルサスはいい。

逆にハードテイルはより高いレベルの人のために作った方がおもしろい。
 
中沢:オートバイの世界で最高峰のもの作りをするヤマハがフルサスを作ったらどんなバイクになるのか、期待感大。
 
今泉:すでにいいユニットがあるんだから。
 
中沢:ちなみにこのYPJ-XC、すばり「ヤマハのEバイクはここが違う!」みたいなところは?
 
鹿嶋:欲張りな言い方になりますけど、マニアックな人から初めてMTBに触れる人まで、その人の扱い方次第でだれもが山に入っていける世界観、そのためのバランスを追求しました。
 
今泉:ほかのメーカーのEバイクと比べて、YPJ-XCはハンドリングがすごくいい。
 
中沢:3サイズを用意している辺りにも、より多くの人に楽しんで欲しいというメーカーの誠意を感じます。設計段階でもかなり苦労したんじゃないですか?
 
鹿嶋:ヘッドアングルひとつとっても、私が知っているだけで何度か作り替えています。
 
中沢:なるほど、やはりパッションですね!

今回、YPJXCを初ライドしたおふたり。Eバイクと里山の関係性に疑念を抱きつつも、その快適さにやられ気味。果たして結論は?

中沢:YPJXCに乗ってみて、本当におもしろかった。モードの切り換えなども含めて、思った以上にテクニカルな乗りものでしたね。これはこれでアリ?
 
今泉:モードの切り換えをわかりやすくして欲しい。海外仕様には大きなディスプレイがあるのに。近眼老眼には◎△ $♪¥○&%
 
中沢:いや、自分はちゃんと使いこなしてたから(笑)。
 
今泉:もっとこう、電車のマスコンみたいな◎△$♪¥○&%
 
中沢:今日、気がついたんだけど、Eバイクはビンディングで乗った方がいいかもしれません。

きれいなペダリングでパワーが活きてくるし、ハイパワーなモードで踏み込むとギュンギュン押し出されて一定に登るのが難しい。
 
今泉:Eバイクはペダリングスキルの差が出やすい乗りものですね、マニアの視点だけど。

ちゃんと乗れる人がノンアシスト車と同じように足を回せば、エコモードでもすごく楽に登れます。
 
中沢:ケイデンスが遅いとパワーの掛かりはイマイチ。

でも、ギアを軽くして適正なケイデンスで回すとタイヤにパワーがしっかりと伝わり「この感じ、昔あった!」って。
 
今泉:月1000kmぐらいロードトレーニングしていた時代のーー
 
中沢:ーー「若い頃のおれたち! 」みたいな(笑)。

で、いい感じで登っていったら「ここまで登ってきたんだ、すごいねぇ」(たまたま上にいたおばちゃん)→「アシストだから」(その隣にいたおじさん)。
 
今泉:「……いや、ちょっと試しているだけ」って。
 
中沢:調子こいてたら見事に落とされました。

これまで山の世界観とかを大切にしてきた分、ヤマハさんには悪いんだけど、なんだか後ろめたい感じがして。こじらせてるんですよ、おれたち。
 
今泉:はい。
 
中沢:日本の山の在り方ってある意味、信仰の対象だったり生活とともにあるわけじゃないですか?制覇する感覚じゃなく。いつもは人がいないところを走っているのに今日に限って人に遭うし。
 
今泉:山の神に怒られてる。
 
中沢:Eバイクは林道とかオフィシャルな場所、もっと明るい世界で楽しんだ方がいいのかな?
 
今泉:別に否定的に言われたわけではないけど。
 
中沢:乗りものとしてどうこうでなく、自分自身の問題で。
 
今泉:そこは、中沢さんの方がガラスのハートだった。
 
中沢:Eバイクの走りが活きるコースも作りたいですね。


 
今泉:荷物積んで走ってもいいし、Eバイクでスポーツバイクの可能性はすごく広がると思うから。そこはやり方次第です。
 
中沢:確かに。方法論として山に入っていく分には楽しいし、余力の残して難度の高いところにも行けるから、癒される目的で山にいくならEバイクでいいかなって正直、思っちゃいますね。
 
今泉:おっしゃるとおり。個人的にはモーターの音がもっと静かな方がいいけど。
 
中沢:YPJXCに乗った後でノンアシストの自分のバイクに乗ったら、後ろからだれかに引っ張られているような気がしたくらい。思わず振り返って笑っちゃいました(笑)。
 
今泉:神様が引っ張った(笑)。
 
中沢:凹んだりもしたけど、乗りはじめるとまた楽しくなり。どうやって折り合いをつけたらいいのやら。
 
今泉:腰が痛い人のためにサポートする用具があるように、道具は活かし方次第だから。
 
中沢:いい意味で着地点がわからない。ノリさん、どうしたらいい?
 
今泉:おれは関係ない。

 
YAMAHA YPJ-XC

3サイズ設定としたラインアップも日本向けのE バイクとしては異例のこと。より多くのユーザーが無理のないポジションでライドを満喫できる設定だ。

■取材協力:ヤマハ発動機 https://www.yamaha-motor.co.jp/

 
写真:村瀬達矢 文:トライジェット
『MTB日和』vol.37(2019年2月発売)より抜粋

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