温故知新 徒然MTB談話室 第11回

今回はオーダーメイド版のモンキーSHをはじめ、数々のハンドメイドフレームを手がけてきたサンライズサイクルズさんにお邪魔しているおふたり。ん? 工房を主催するフレームビルダーの高井さんとは別にもうひとり、怪しげな人影が。

Profile

高井 悠(写真左)
既存の枠に捕われない創造性により、これまで造形美を極めた数々の作品を生み出してきたフレームビルダー。今泉さんが考えるモンキーのテストフレーム、オーダーメイド版のモンキー98SH の製作も手がける。

中沢 清(写真中央左)
CSナカザワジム店主。西多摩マウンテンバイク友の会会長として、MTBを取り巻く環境の改善と次世代のマウンテンバイカーの明るい未来のために日々奮闘中。弊誌『MTB 日和』ではインプレッションライダーも担当。
https://nakazawagym.amebaownd.com

今泉紀夫(写真中央右)
ワークショップモンキー店主。MTB誕生以前からそのシーンのすべてを見てきたまさに歴史の生き証人。日本人による日本のフィールドにマッチする日本人のためのフレーム、モンキーシリーズの開発にも意欲的。
http://www.monkey-magic.com/

片桐朋生(写真右)
中沢さんの知り合い。西多摩ローカルにもたびたび出没するマウンテンバイカー。その実体は、自転車部品の卸一筋、明治37 年創業の100 年企業に勤務する無類の自転車好き。猫と奥さんも大好きです。

中沢(敬称略):うちでは台湾で生産されているレディメイドのモンキーを扱わせてもらっていますけど、オーダーメイドのスペシャルに乗るとまた違うんですよね。どこかシックリくる感じというか。

ノリさんはいまオーダーメイドのモンキーをサンライズさんに製作をお願いしているし、一度来てみたかったんですよ。どんなところで作っているのか。ちなみに高井さんはどこでノリさんと知り合ったんですか?

高井:10年前くらいでしょうか、シングルスピードMTBの大会が日本で開催されることになって。その頃、ちょうどフレームを作りはじめた時期だったんですけど、友人がその大会に出場するためのMTBが欲しい、という話がありまして。

今泉:接点としてMTBがあったんですよ。

高井:まだ高円寺の方でやっていたときなんですけど、そのときに工房へ足を運んで頂いたのがきっかけだったと思います。

今泉:若い世代のビルダーがいるという話を耳にして。自分はある意味、自転車オタクですからそういう技術を持っている人で、しかも独自のアイデアを持っている若手がいると聞いたらね。

中沢:ノリさんは日頃からビルダーさんを含め、日本の職人さんを大切にしたいといってますからね。

今泉:勝手にいってるだけです。

中沢:MTB創世記の頃は日本にフレームを作る人がいて、パーツを作る人がいて、そのジャパンメイドに海外の人も憧れていたという話、前にも出ましたっけ。

今泉:いまもワンオフというか、ハンドメイドで作るその人のための1台にはそういった技術が繋がっています。

中沢:元々モンキーはそいうバイクでしたよね。

今泉:まったく儲からないということだけは勉強しました。

中沢:高井さんにはノリさんからオーダーしたんですか?

高井:そうですね、はじめの頃はお試し的に。MTBのフレーム作りに関しては今泉さんから受けた影響は大きいと思います。

中沢:ノリさん的には高井さんにモンキーの試作を作ってもらったりしている感じ?

今泉:それを任せられるビルダーであることは確かです。

中沢:普通はなかなかビルダーさんが作ったフレームに乗る機会ってありませんよね。

今泉:うちらの世代は質のいいスポーツ車に乗りたいと思ったら、まずビルダーのところにいったものです。いまは逆転してるでしょ、理由はいろいろだけど。

でも、時代に逆行するということではなく「残していけるものとして可能性があるのであれば」と思うんですよ。ジュエリーのような装飾品みたいに「ただ高級なものが欲しい」ということだけではなく、なにか自分にとって大切なものがそこにあれば。

中沢:飾りものとかじゃないんですよね。職人さんが作った道具として、使ったときにいい部分がある。乗り比べると違いがあるじゃないですか。その辺り、高井さんご自身は感じながら作ってるんですよね?

高井:ごめんなさい、僕には一切そんなことは分からなくて、大変恐縮なんですけど(笑)。

中沢:台湾製のモンキーと高井さんが作ったハンドメイドのモンキーを乗り比べたとき、スゴイと思ったから。軽いとかすごく進むとかそういうことじゃなくて、フィットするというか馴染むというか。

今泉:その通りですね。

中沢:スゴイことだから、こういうものをもっといい形で広められないかと思うんですけど、そこはやっぱりコストが問題なのかな。

高井:選択肢はどこのセクションからも生まれるはずなんです。「フレームはこうあるべきだ」とだれがいってもいい。それを実現可能かどうかは仮に僕が判断するとしても、織り込むことはだれにだってできます。

完成車として優れたものになるかどうかは、結局のところいろいろと組み合わせてみないとわからないことが多いので「工法はものの本質にはならない」と個人的には考えています。

どういう状態のものがベストであるか決める人がいて、僕たちの仕事の先にどう作るのがベストであるか、考える人がいて欲しいとは思いますけど。

中沢:自分たちには幻想みたいなものがあるんですよ、ビルダーさんが作るフレームに。大手ビッグブランドの完成車だと15万円ぐらいのバイクでもすごくよく走るんですけど、ハンドメイドのフレームにはそれらとは違うシックリくる感じがあって。なんなんでしょうね、あの感覚は。鉃だから?

今泉:僕はただ自分の欲しいフレームを作りたいだけで、その要素を総合していくとうちのバイクになる。TIG溶接の98STとフィレットろうづけの98SHの乗り味は違うんですよ。スケルトンがコントロールする部分もあるけど、工法の違いで出る差もあって、それが意外と分かる人には分かる。

だからハンドメイドでは、どういう風に乗りたいのかを聞いた上で、その人のためだけのちょっとしたセッティングができる。物理的に差が出るんです。

中沢:変な話なんだけど、うちで前に扱っていたイギリスのハンドメイドのフレームは、同じフレームを頼んだはずなのにものによってかなり乗り味が違っていたり(笑)

今泉:それはイギリス人だから当然。

中沢:高井さん的にはそういう感覚はありますか?

高井:う~ん。

今泉:それは多分、彼の中にはない。ないというより範疇外。

高井:逆に台湾の量産フレームはすべて同じなんですか?

今泉:突き詰めていけばひとつひとつ違うんだけど、大まかには同じといえますね。

片桐:それについてはマスプロで作るのとハンドメイドで作るのと、まったく違うベクトルがあって。

中沢:いきなり出てきた! 話を振ろうと思っていたところで(笑)

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中沢:高井さんは工房でフレーム作りの教室(BYOB Factory)もやっていますよね、「自分のバイクを自分で作りたい」という人のために。そんな中、自分の知り合いの片桐さんが高井さんの工房に通って、自らの手でフレームを作ったわけですけど。どうして作ったの?

片桐:えーっと、僕は以前にノリさんのところでオーダーフレームを作って頂いたこともあるんですけど、マスプロのよさとオーダーのよさは別のところにある、と。

中沢:別のところって?

片桐:さっき中沢さんが話していた「十数万円の完成車でこの仕上がり、スゴイ」というのは工数をコストで割れる大量生産の話で。

中沢:業界の人みたいだね。

片桐:なんですよ、一応! ハンドメイドでチャレンジできないことがマスプロではできる、それはそれでスゴイことなんですけど。マスプロでもなく、オーダーでもなく、自分の手で作ったらどうなのか知りたかったんです。きっかけは学生時代、美大に通っていたときのことなんですけど、プロダクトの学科で~~(長くなるため中略)

中沢:で、挫折したその気持ちを何年温め続けたの?

片桐:25年。

中沢:高井さん、お疲れさまです。ヘンテコな思いを(笑)

高井:いやいや、大変熱心で(笑)

片桐:自転車が好きでずっと乗ってきたけれど「いつかは自分の手で1台作って、決着つけないと」って。高井さんにはいろいろとわがままを通させてもらいました。

こちらが片桐さんの手で組み上げられたオリジナルのファットバイク。25年に渡ってこじらせてきたものが形になった1 台。

中沢:どういう自転車を作りたかったの?

片桐:自分の中でふわーっと自転車の形が立ち上がるときがあって、いつも急いでババッと描き留めるんです。

その中に「雪の中、前後キャリア付けたシングルスピードでドロップバー付きのファットバイクがビールを積んでザクザクと走っている」感じのものがあり、「造るならこれかなぁ?」と思ったんですよね。

中沢:病気ですね。だったら実用車を買えばいいじゃん。

片桐:たしかにそれでも成り立つかもしれません。でも、それは自分の自転車じゃない。

今泉:雪はどうしてこうも人の心をかきたてるのか。

中沢:高井さんはそういう話を聞かされたんですか?

高井:いいえ(笑)スペックだったり「こういう風にしたい」だったり、大半の方がなんらかのイメージを持っていて、片桐さんの場合も具体的に使用する部品が決まっていたので。別にそういう願いを持っていなくてもいいんですよ、「自転車は欲しいんだけどなに買ったらいいかわからない」ということもあるでしょうし。

興味深いのは、作り上げた後にみなさんが本当によろこんでいること。「これはお金に換えることができない」とよくおっしゃっています。作る前までの思いと作る過程と作り切った結果がリンクして、本人にとってかけがえのないものに、お金の尺度には当てはまらない、自分が生み出したものになるんですね。

片桐:自分が考えていたものの形が自分の手ででき上がることに驚いたし、感動しました。25年に渡ってこじらせてきたものが形になったんですから。高井さんにご指導頂いた結果、上手くいきました。たまたまかもしれないけど、実際に乗ってみても思った以上によく走ったし。

中沢:乗っていて楽しい?

片桐:めっちゃ楽しい!
 

取材協力

Sunrise cycles / BYOB Factory

東京都新宿区中落合3-29-5 1F
TEL 03-6908-3934
http://sunrise-cycles.blogspot.com/


 
写真:村瀬達矢 文:トライジェット
『MTB日和』vol.41(2020年2月発売)より抜粋

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