夢を叶える。フレームビルディングの世界

「もしも実現できるのであれば、自分自身で1から、唯一無二の自転車を生み出したい」その願いを叶える人がいま、密かに増加中。ここではサイクリストの夢が膨らむ、フレームビルディングの世界を紹介します。

理想の形を追い求める人&その願いをサポートする人

自転車に求めるものは人それぞれ。競技で勝利するための軽さやスペックを求める人、過酷な自転車旅にも屈しないタフさやユーティリティを求める人、中には鑑賞するための優美さを求める人だっているかも知れません。

そして、その理想を追求していくほど、既製品の状態では満足がいかなくなってきます。仮に完成車の状態で愛車を手に入れたとしましょう。自転車趣味人であれば、ノーマルの状態のまま使い続ける可能性は、ほぼゼロと言って間違いないはずです。だからこそ、無数のカスタムパーツが存在するのです。

マニアともなれば完成車を手にする可能性は低く、大半がフレームを選び、そのフレームに互換するパーツを自分で選び、1台の自転車へと組み上げていくはず。スチールフレームが全盛の時代には、オーダーメイドのスーツを仕立てるごとく、自分の体格に合わせてフレームを工房に発注することも珍しくありませんでした。

もちろん、いまでもそういった要望に応えてくれるフレームビルダーは日本に存在します。レース趣味にひと区切りつけたサイクリストたちは、唯一無二の1台を愛車とすべく、フレーム制作を職人の手に委ねるのです。〈オーダーフレームを手に入れる〉ことは、自転車趣味人にとってのゴールだったのかもしれません。

しかし現在、その先のあるものに手を伸ばそうとする人が増えているといいます。職人の手に委ねるのではなく、自らの手でフレームを作り上げてく……なぜそのようなことが可能となったのでしょうか?

本物の自転車好きが求めた自らの手で作るという選択

今回、取材にご対応頂いた片桐さんは、自転車部品を専門に取り扱う企業にお勤めの方。当然、自転車に対する造詣は深く、イベントではブースにて自転車部品に関する講習を担当するほど。通勤を含め、日常的に自転車を利用するだけでなく、休日はマウンテンバイクで里山をサイクリングしたり、ときにはスキー場のダウンヒルコースまで足を伸ばすこともあるそうです。

それ故、愛車に対するこだわりも強く、これまで乗り継いできた車両も仕様も数知れず。

「ハンドメイドではチャレンジできないようなことも大量生産される大メーカーならできる、それはそれですごいことですし、完成度から見ても不満はなく、選ぶ対象として間違いありません。ただ自分の場合、マスプロのフレームではなく、オーダーフレームでもなく、自分の手で作ったらどうなるのか、それが知りたかったんです。きっかけは学生時代までさかのぼりますが、当時は美大でプロダクトの学科に在籍していたのですが、制作物として自転車を作ろうとしたときにちょっとした挫折もあって。そのとき自転車を形にできなかったことが長年、心のどこかに引っかかっていたみたいで(笑)。いつかは自分の手で決着をつけないと……と思っていたところ、高井さんにいろいろとわがままを通させてもらい、まず1台目を完成させることができました」と、自分の頭に浮かんだイメージを具体的な形に仕上げた片桐さん。

片桐さんが1作目としてBYOB Factoryで仕上げたMTB。「自分が考えていたものの形が自分の手ででき上がることに驚き、感動しました」という記念すべき自転車となった。

しかし、それは片桐さんにとってのゴールではありませんでした。

現在は2台目の制作が完成の状態にまで達していて、取材日はほぼ仕上げの段階。ケーブル類を沿わせるガイドの取り付け作業をおこなっているところでした。

「以前、海外の雑誌で3本トップチューブの自転車を見つけたんです。カッコいいけどそのフォルムは大きいフレームでないと成立しにくいものだったので、身長の低い自分のフレームではないと思ってました。と同時に、トップチューブを3本で分業するコンセプトで小さいサイズだからこそ成立する美しい形を見つけられたら、とも」

そうして取りかかった2台目の制作。前作の〈148ミリエンドで26×4.0、27.5×4.0、29×3.0 27.5×3.0のタイヤサイズを飲み込むナローなファット/ セミファットバイク〉というコンセプトはそのまま、実際に1台目に乗った感覚を基にジオメトリーをブラッシュアップしていきました。

「自転車に限らず、道具というのは満足に機能して初めて価値を持つものなので、フォルムがカッコいいだけでろくに走らないフレームができるのだけは避けたい。そこでこれまで自分も乗ってきた、高田馬場のショップ、モンキーさんが育てたオリジナルフレームの構造を参考にし、MTBとしての性能を維持することを意識しました」とのこと。

「トップチューブは3本」ということを条件に強度、力のかかる方向も加味しつつ何回もスケッチをおこなっては図面を引いて、設計して。そして完成しつつある2台目の自作自転車。あとは仕上げをおこない、塗装へと作業を進める予定ですが、これだけ入り組んだ造形のフレームとなると、それも簡単とはいえません。

しかし、大変だからこそ完成したときの悦びも一層大きいはず。〈眺めながら何杯でも酒を飲める〉自転車、かけがえのない1台になりそうですね。

片桐朋生さん


自転車部品の卸一筋、明治37年創業の100年企業に勤務する無類の自転車好き。 BYOB Factoryにて制作するフレームは本車両ですでに2本目となる。

フォルム重視でダウンチューブに繋げたトップチューブ

「トップチューブ、真ん中の1本についてもシートチューブとヘッドチューブを繋いでるのが強度的には理想なのですが、ここはフォルム重視でダウンチューブに。チューブ接合部はどんな形状で繋がるかさっぱりだったので、仮塗装して形状を確認しながら制作を進めました」

溶接をヤスって形を探る。

仮塗装して形状を確認。

 

今回の制作で一番大変だったというチェーンステイ

「タイヤは入るけどクランクが当たる、クランクは回るけどチェーンリングが当たる、クランクは回るけどタイヤが当たる……という感じに6回やり直し。チェーンステーを削っては仮溶接し徒労で終わるというのが3日続きました。そのおかげで左右の均等も取れて、美しい仕上がりに」

クランクが当たってしまう。

6回目でようやくOKが出た。

 

3次元に曲がった流麗なリアビューを生むシートステイ

「シートステイはよせばいいのに3次元に曲げています。なぜなら、後ろから見た姿が絶対にカッコいいから。正確には角度を変えた平面曲げを2回おこなうことで3次元に見せているのですが、これがまた左右均等にならずに結局、右側を真ん中で切って繋ぎ直すことにしました」

シートステイの取り付け確認。

シートステイの溶接が完了。

 

本作の決め手となる左右トップチューブの取り付け作業

「ほかの部分を制作中、ずっと明確な形が決まっていませんでした。平面では曲線の動きが把握できないので、フレームの制作途中で色々な角度で写真を撮ってPC 上のドローソフトで描いたり、風呂入る度に壁に線引いたり。手書きで描いて曲げの量を想像し続け、実作業に臨みました」

紙に書き出して形状検討する。

左右の均等を確認しながら。

 

BYOB(= Build Your Own Bike) Factory を主催するフレームビルダー高井さんの想い

充実した趣味の世界を作る 掛けた時間と得られた経験

ビョブファクトリーでフレームを完成させた方は片桐さんだけではありません。高井さんがこのサービスを開始してもうすぐ10年。これまでに130名ものサイクリストが高井さんの指導の元でフレームビルディングを体験してきました。

また、その需要は近年、急増しているといいます。中には片桐さんのように2作目、3作目と作業を続けるケースもあり、これまで個人の趣味としては難しいとされてきたフレームビルディングが、多少なりとも身近なものになってきたように思えます。

高井さんのお話しでは「ここ数年の傾向ですが、特に新しいジャンルということもあってか、グラベルロード用のフレームを作りたい、という要望が増えています。既製品はスペック面が統一されている印象が強く、何をもってして他との違いを出せるのか難しいジャンルではあります。だからこそ、自分の手で作りあげたオリジナルのフレームが求められるのかもしれません。また、片桐さんのように理想の形を実現しようとMTBを制作する方、ロードバイクであればジオメトリーを突き詰める方も見られます。個々のコンセプトはある程度しっかりとしたものであれば、必ずしも各ジャンルに印象付けられた既存の枠に捕われる必要はありません。クロモリらしい細身の素材を使ってもいいし、逆にボリューミーな素材でもいい。素材を選択できるのもフレームを制作するおもしろさのひとつですし、少なからず乗り味に影響するものですから。どこに正解があるかを求める必要はありません。どのようにでも表現できるんですから」とのこと。

ビョブファクトリーでは目的に合わせて5種程度のチューブから選択できますが(※基本のコースではタンゲNo.1かNo.2)、薄いチューブは加工性が悪くなるので、初めて制作する人にはやや厚めの素材を勧めているとのこと。寿命、バネ性など、さまざまな要素を考えて素材を選ぶもよし。見た目にこだわるもよし。もちろん初心者に対しては、素材選びからプロが相談に乗ってくれるので、素材に関して知識がなくても問題ありません。火を使う作業に不安を感じる人もいるかもしれませんが、ビョブファクトリーでは母材を溶かさず真鍮ロウでチューブを接合していく方法を採用しているため、溶接の精度が悪くても問題なし。ズバリ、やり直しが効くのですから。

「自らが携わるものを自らの手で作る、ビョブファクトリーはそういった根源的な願いを叶える場所なんです。自転車は自分の手で形にしたものを公道上で行使してもいい、限られた乗りものです。ただ出来合いのものを買っただけでは手に入らない、費やした時間、得られた経験によって生まれる充実した趣味の世界……是非、みなさんにも体験して頂けたらと思います。そもそも自分の生業がそうしたものですから(笑)」--世界にひとつだけのフレーム、その手で組み上げてみませんか?
 

BYOB ROAD コース

◉フレームスペック
サイズ:相談により決定
素材:TANGE No.1 または No.2
ヘッド規格:1 インチ、1/8 インチ、ZS44
ブレーキ:キャリパーまたはディスク
◉制作概要
制作日数:トータル5日間(希望の日程より指定)
作業時間:12:00 ~ 18:00(進捗状況に合わせて調整)
◉価格(フレーム部品代・塗装費込み)
20万円(税別)

BYOB MTB コース

◉フレームスペック
サイズ:相談により決定
素材:TANGE No.1 または No.2
ヘッド規格:1/8 インチ、ZS44
リアエンド:QR またはTA
◉制作概要
制作日数:トータル6日間(希望の日程より指定)
作業時間:12:00 ~ 18:00(進捗状況に合わせて調整)
◉価格(フレーム部品代・塗装費込み)
21万円(税別)

 

BYOB Factory 代表 高井 悠さん

既存の枠に捕われない創造性により、これまで造形美を極めた数々の作品を生み出してきたフレームビルダー。

 

BYOB Factoryで見つけた斬新な手作りランドナー

 
田村友隆さん
         ×
TBCW TCW-03
 

こちらの自転車は制作者の田村さんがJBT(ジャパンバイクテクニーク)への参加を決意、BYOB Factoryにて高井さんの助言を得ながら作り上げたしたランドナー。

田村さんの自作フレームとしては3本目で、輪行収納の復元性(両輪固定位置決め)を焦点に置いて設計したもの。前後輪をサンドイッチ型に収納する場合、どうしても車輪の固定とフレームの養生が面倒に。

そこで考えたのが両輪をフレームの一部に固定してしまうアイデア。当初は「シートチューブに車輪の軸を固定するダボを取り付けて」と試案したそうですが、高井さんと「もっとスマートな方法はないか?」検討した結果、シートチューブに車軸を貫通させる方法を発案~採用しました。走りはもちろん、収納形態の美しさも◎。あとはJBTの開催を待つのみ!

こちらが輪行時の収納形態。このように安定性をキープさせたまま自立可能。

シートチューブの穴にQRシャフトを貫通させて両輪を固定する。なお、シャフトの収納場所と方法は本番当日まで非公開なのであしからず。

自宅でフレームビルディング!? いままでなかった理想的なキットを発売

治具はタンデム車やロングテール車の制作にも対応。

取材日、高井さんからお知らせ頂いたもうひとつのトピック、それがこちらのキット。なんと自宅でフレームの組み上げが可能となる夢のようなキットがBYOB Factory より発売されるというのだ。フレーム素材こそ選べないが、ユーザーの要望(またはジオメトリー)にあわせて制作されたラグとカットされたチューブ&部品、そして治具までがキットに含まれるという。チューブとラグはメタルロック(金属用の2液硬化型接着剤)にて接着するため火を使うことなく、自宅でも安心してフレーム制作に没頭できる。

「BYOB Factory まで足を運ぶのが難しい遠方の方、2本目以降も自分で制作したいという方のために用意しました。自宅のミシンで洋裁したり、キッチンで料理を作るように、フレームビルディングを楽しんでください」と高井さん。価格は治具込みで29万8000円(税別・予価)。

サンプルフレームによる実走行テストも2か月を経過。製品の安全性&クオリティもお墨付きだ。

チューブとラグはメタルロックによって接着する。

 

取材協力

BYOB Factory

東京都新宿区中落合3-29-5
tel 03-6908-3934
byob.factory@gmail.com

「誰にでも開かれたFrameBuilding」を合い言葉に2012年オープン。これまで数多くのオーダーフレーム、また作品を世に生み出してきたフレームビルダーの高井さん(サンライズサイクルズ)が、フレームビルディングのためのレンタルスペースとして展開する工房では、初めてのフレーム作りでも安心して取り組めるコースを用意。作りたいフレームの使い方やサイズ、スペック等についてのアドバイスが受けられ、適切な指導の元、決まった日数&カリキュラムにて、オリジナルのフレームを作り上げることができる。

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